風塵だより

 のっけから愚痴っぽくて恐縮だが、第2次安倍政権になってから、ぼくは疲れている。
 特定秘密保護法、安保法制、TPP、アベノミクス、消費税問題、金融異次元緩和、自衛隊海外派遣、駆けつけ警護、改憲問題、自民党改憲草案、原発再稼働、沖縄の辺野古米軍新基地建設、同じく高江のヘリパッド建設、日米地位協定、沖縄県を日本政府が提訴…、まだまだ数え上げれば困った問題がたくさんある。ぼくはそのほとんどに賛成できない。
 これらが全部、安倍政権による出来事。まあ、TPPなどはその前から大騒ぎだったけれど、強引に押し進めたのは、安倍首相の盟友、あの甘利元大臣だったわけだし。
 ぼくは、そのたびに、国会前の抗議集会に出かけたり、デモに参加したり、勉強会や講演会を覗いたり…。
 会社を辞めてからは、のんびり好きなことをしながら、たまには旅をして…なんて考えていたのだが、なかなかそれもできない。好きな文章を書いて、できれば小説も…などと思っていたぼくの第2の人生設計図は、もう狂いっ放しだ。

 沖縄・高江の、機動隊による反対派への凄まじい強圧ぶりは、目をそむけたくなるほど。しかも、全国から派遣されている機動隊の数は、なんと500人を超えているという。沖縄県警と合わせれば、いったい何名の警官隊が動員されているか分からないほどだ。たった160人が住む高江の集落。その穏やかで静かな生活を踏みにじるために、これだけの国家権力が動員されている。
 「やんばる東村 高江の現状」というブログがある。ここで発信されている情報は、このところ、ほとんど悲鳴だ。「わたしたちはただ、沖縄で、高江で、やんばるで静かな暮らしをしたいだけなのです…」と綴られている文章が痛々しい。

 ぼくは沖縄へ行くたびに、何度も高江を訪れている。那覇から100キロ近くもある、ほんとうに辺鄙な場所で、車でも数時間はかかる。国道331号線を延々と北上。途中から県道70号線に入って、周囲にほとんど民家もない上下一車線ずつの曲がりくねった道をひたすら走り、ようやくたどり着くのが高江の集落だ。そんな場所に、21日の緊急抗議集会には、なんと1600人もの人たちが集結したという。沖縄県民の怒りの大きさが分かる。
 高江の状況は、三上智恵さんのレポートと動画に詳しいから、そちらをぜひご覧いただきたい。

最近の原発状況は…

 そんな中で、あまり報道されないが、原発をめぐる問題は、ますますひどいことになっている。
 最近の原発状況を、少しピックアップしてみよう。

  • 福原発事故による汚染土で、濃度が低いものを公共事業に使用できるようにするという。放射性セシウム濃度を1㎏/5000~8000ベクレル以下に設定し、さらに土やコンクリートで覆うことで工事終了後の住民の被曝線量が年間0.01ミリシーベルト以下に抑えられれば、全国の公共事業で使用できると、環境省が決定。再利用した場合、放射性物質として扱う必要がなくなるまで170年かかる、という環境省自体の試算は「実証事業などを通じて安全性や具体的な管理方法を検証する」として、書き込まれなかった。これも隠蔽。偽装誘発の恐れが指摘されている。
  • 日本原子力研究開発機構が発注した事業のうち、関連会社や団体だけが入札に参加したケースの平均落札率が99%以上。原子力ムラの実態。
  • 日本原子力発電が、日立製作所がイギリスで進める原発事業に参画すると7日に発表。日本原電と日立、日立傘下で英原発事業会社「ホライズン・ニュークリア・パワー」の3社が調印。このホライズン社は、日立が2012年にドイツ大手電力会社から買収したもの。英国内2カ所で4~6基の原発建設計画を引き継いだ。日本原電は敦賀2号機(福井)と東海第2原発(茨城)が停止中で、保有する原発はまったく動いていない。海外に生き残りをかける。
  • 運転開始から間もなく40年超となる老朽原発の美浜3号機(関西電力・福井)に、原子力規制委員会は、間もなく「新規制基準の審査適合」との判断を下す予定。
  • 10日に鹿児島県知事に初当選した三反園訓氏は、日本で現在ただ1カ所稼働中の川内原発について「停止して点検するように、九州電力に申し入れる」と明言。それに対し九電側は「知事には法的権限がない。どういう根拠で原発を停めるのか」と猛反発。いずれにせよ、川内原発はこの10月には定期点検のため、一旦停止する。その後、三反園知事が、どういう方法で停止を延長させるのか、九電と経産省は警戒を強めている。
  • 高浜原発3、4号機(関西電力、福井)の運転差し止めを認めた大津地裁の仮処分に対し、関電が取り消しを求めていたが、同地裁(山本善彦裁判長)は、12日、関電の申し立てを退けた。これで、高浜原発2基の運転停止は続くことになった。関電は大阪高裁へ保全抗告した。
  • 13日、東京電力ホールディングスは、社外取締役だった増田寛也氏が、8日付で辞任していたと、ひっそりと発表。原子力ムラの住民が都知事の有力候補だというわけだ。
  • 原子力規制庁が計算した大飯原発(関西電力・福井)の基準地震動(耐震設計の目安となる揺れ)が、過小評価ではないかという疑問が出ている。島崎邦彦東大名誉教授(前規制委員長代理)が再計算を提案していたが、規制委側は「見直しは不要」とつっぱねた。田中俊一規制委員長は「島崎氏は結果を見て安心したと言っていた、との報告を受けている」と発言。ところが、島崎氏は7月15日の記者会見で「納得できない。過小評価の可能性が極めて高い。再計算すべきだ」と語った。つまり、規制庁か田中委員長のどちらかがウソをついていたことになる。
  • 結局、規制委側は、担当した職員が計算式を変えると、断層の総面積よりもズレて強い揺れを生む部分の面積のほうが大きくなるなどの矛盾があり、再計算の数字は無理に出したものだと明らかにした。そのため、田中委員長は「もう一度議論をする必要がある」と語った。
  • 東京地裁は13日、福島原発事故の被災者らが、原発メーカーのゼネラル・エレクトリック(GE)社、東芝、日立の3社に損害賠償を求めていた訴訟で、原告側の請求を棄却。原子力損害賠償法(原賠法)では、原発事故の賠償責任はすべて電力会社にあると限定する「責任集中制度」。いわゆるPL法(製造物責任法)は適用されない。
  • 福島第一原発2号機の核デブリが、原子炉の圧力容器内に約200トンも残っていると判明。なお、1号機は圧力容器内には燃料がほとんど残っておらず、ほぼ全量が容器の底から溶け落ちていると見られる。
  • 日本政府は、米原子力艦が事故を起こした場合、周辺住民の避難などを定めたマニュアルを改訂したが、結局、実質的改訂は何もなかった。「避難は半径1キロ以内、屋内退避は半径1~3キロ」であったものへ「おおむね半径1キロ以内、おおむね半径1〜3キロ」と、「おおむね」を付け加えただけ。
  • 福島原発事故に伴う帰還困難区域の一部が5年後にも避難指示が解除されることが決まった。逆にいえば、復興拠点以外の大半はさらに長期間にわたって帰還不能となる。
  • 全国の15カ所の原発地点で、地震と過酷事故が複合的に起きた場合、全住民が30キロ圏外に避難できる所要時間を交通権学会が調査したが、土砂崩れ等で通行機能が10%低下すると、移動完了まで最も長い場合、通常の3.6倍かかるとの試算。現在、唯一稼働中の川内原発では、道路機能が普通であれば22時間20分だが、10%低下の場合は81時間10分かかるという。
  • 伊方原発3号機(四国電力・愛媛)は、再稼働へ向け最終作業に入っていたが、一次冷却水ポンプにトラブルが発生、当初予定の7月中の再稼働は困難となった。
  • この夏の節電要請は、すべての電力会社で行わないことが判明。太陽光などの再生可能エネルギーが普及し、家庭や企業の節電効果が上がって供給力も高まったことで、もっとも電力需要が大きい8月でも、原発ゼロでも電力には9.1%もの余裕があることが分かった。
  • 浜岡原発を持つ中部電力が、地元の住民組織「浜岡原子力発電所佐倉地区対策協議会(佐対)」に、浜岡4号機が着工した1989年までの20年間で約30億円の「協力金」を支払っていたことが分かった。
  • 馳浩文科相は、規制委からさえ見直し勧告を受けている「もんじゅ」について「廃炉という選択肢はまったくない」と、20日、朝日新聞のインタビューに答えた。
  • 伊方原発から30キロ圏の伊方町内に整備された7つの放射線防護対策施設のうち、4つが土砂災害警戒区域にあることが判明。うちひとつは、危険性がより高い特別警戒区域にも入っていた。細長い佐田岬半島の付け根にある伊方原発で事故と地震等が重なった場合、屋内退避先として使えなくなる可能性もある。
  • 馳文科相が「廃炉は考えていない」と明言した「もんじゅ」で、またも日本原子力研究開発機構が点検を2カ月間も放置していたことが分かった。1万点を超える点検不備を規制委から勧告された原子力研究所は、まったく改善の兆しがない。
  • 中部電力は、浜岡原発の安全対策工事期間を延長することに決定。4号機は今年9月、3号機は来年9月の完成予定だったが、これを延長。これまで4回も延期してきたが、今回で5回目となる。完了時期の設定ができないという。福島事故原発と同じ沸騰水型軽水炉(BWR)で再稼働した原発はまだない。
  • なお、BWRについては、浜岡のほか、柏崎刈羽(東京電力・新潟)、東海第2(茨城、日本原電)の安全対策工事の完工時期は未定。島根(中国電力、島根)は2016年度内、女川(東北電力、宮城)は17年4月の完工が目標。
  • 東海第2原発で今年6月に起きた高濃度放射性廃液の漏出事故は、洗剤が廃液の貯蔵タンクに混入、泡が発生して配管から漏れたと、日本原電が25日に報告。
  • 広瀬弘忠東京女子大名誉教授(災害リスク学)の浜岡原発周辺の住民調査で、原発事故時の情報源として、もっとも信頼できないものを挙げてもらったところ、1位:SNS(ツイッターやブログなど)36.7%、2位:政府や省庁29.2%、3位:テレビ局の独自報道11.9%、4位:国連等の国際機関4.4%、県や市町村:2.8%、5位:新聞社の独自報道2.2%、以下、民間の調査機関やシンクタンク、NGOなどの民間団体、大学や研究所などの専門家…という順位だったという。政府がほとんど信用されていない実態が明らかになった。

 都知事選が終盤に入った。最初はリードしていたと伝えられた鳥越俊太郎さんが、やや失速気味だという。だが、有力視される3候補のうちで、はっきりと「原発はいらない」と明言しているのは、鳥越さんだけだ。小池さんは再稼働派だし、増田さんに至っては最近まで東電の社外重役を務めていたれっきとした原子力ムラの住民だ。
 その点で、ぼくは鳥越さんを支持する。

 ここまで書き進んできたとき、なんともイヤなニュースが…。
 7月26日未明、神奈川県相模原市の障がい者施設で、悲惨な事件が起きた。なんとも言いようがない。各国でテロや銃乱射事件が続発する中で、とうとう日本でも大量殺人事件が起きてしまった。
 容疑者は「障がい者なんかいなくなればいい」と話しているという。難民を排斥する各国の右派の主張と重なるような気がする。ある特定の人たちを排除しようとする言説こそヘイトスピーチだ。そしてそれが嵩じて引き起こされる犯罪、ヘイトクライム。
 この国が、そんな風潮に巻き込まれないことを……。

 

  

※コメントは承認制です。
84 原発、いまこの国で起きていること」 に1件のコメント

  1. 鳴井 勝敏 より:

     「無知から偏見が生まれ、偏見から不安が生み出されます。」と語る伊藤塾塾長伊藤真。不安に対する対処療法は、権力者側に位置することで不安から逃れ、不安になったら「排除の論理」を使う。しかし、これは不安から逃れることであって解消することではない。この構造が 「ヘイトクライム」を生み出す土壌であり、安倍政権を支えるエネルギーでもあると見ている。                  問題は「無知」にある。解決には原因療法が必要だと考えている。この点、執筆陣のレポートは原因療法そのもである。内容は濃くいつも感心して読んでいる。この段になっても「けつ穴小さい」とか「売国奴」等と叫んでいる輩がいる。あの人達は気楽でいい。自分の鬱憤を晴らしているに過ぎないのだから。                    鈴木さんのようにやるせない気持ちになっている志の高い人達はあちこちにいるのでは。問題は国民の「無知」にある。「良きことはカタツムリの速度で動く」(ガンジー)。私はこれを信じたい。

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「風塵だより」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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