あと数日で、3月11日。マスメディアでは「あの日を忘れない」とか「復興への道」などという情緒的な報道が多いけれど、原発事故とは何だったかを振り返る企画も、数は少ないけれど見受けられる。
ぼくも、自分のファイルを読み返しながら、あの事故を確かめたいと思う。
アベノミクスは、ほとんど機能していない。黒田バズーカと言われる日銀の政策も不発で、株式市場は冷淡なままだ。
閣僚たちが失言妄言を連発、さらに自民党議員たちのスキャンダルやおバカ発言が相次いで、さすがに甘利辞任の衝撃にも耐えて高止まりしていた安倍内閣支持率も、じりじりと下がり始めた。
安倍首相の強硬な態度が、ほんの少しだけれど軟化している、という声が聞こえてくる。例えば、沖縄・辺野古の米軍新基地建設をめぐる争いで、裁判所が出した和解案を、安倍首相が突然承諾した。これは、当の沖縄県ですら寝耳に水、ほんとうに驚いたらしい。最初は「工事中止を勝ち取った!」と、喜びに湧いた沖縄だが、次第に冷静になり始めた。どうも、これは安倍首相の選挙戦術ではないか…というわけだ。
7月の参院選に衆院解散をぶつけて衆参同時選へ持ち込み、議会の3分の2を握って「一気に改憲を目指す」という安倍戦略に、多少の陰りが見え始めたらしい。そこで、選挙直前には「消費増税凍結」という奥の手も考えている、と言われている。
他のどんな政策を捨ててでも、とにかく「改憲」に執念を燃やす安倍首相、もう頭の中は「改憲」一色。そのためには、国民に“優しい”政策を示すことで、選挙を有利にすることしか考えていないのではないか。
沖縄で妥協しても消費税を凍結しても、それが選挙に有利になるなら、あとのことなど考えない。だから、原発についてももう他人まかせ。
最近の原発関連の出来事を拾っていくと、安倍首相の姿も意思もほとんど見えてこない。ある意味で原発政策はもうバラバラ。政治が関与していない状況で、官僚と電力会社が好き勝手に動いているように見える。
いったい、この先、原発はどうなるのか。
先週に引き続き、ひとつひとつのニュースを拾って考えていきたい。
◎原子力規制委員会は、九州電力が川内原発(鹿児島)の免震重要棟の新設計画を撤回した問題で、3日、九電の瓜生道明社長に対し「納得できない。準備不足ではないか」と、再検討を求めた。瓜生社長は「安全性は向上しているが、規制委への説明がうまくいっていない」と釈明。(東京新聞2月4日)
これが釈明なのか? 「どうごまかすかがうまくできていない」の言い間違いだろう。
◎国立環境研究所(つくば市)は4日、福島第1原発事故後、同原発の南側の海岸で、貝類など無脊椎動物の種類や生息数が減少したとの調査結果を発表した。同研究所の堀口敏宏室長は「津波の影響だけでは説明できない。原発事故で漏れ出た放射性物質や化学物質が南下した可能性もあり、室内実験で原因を調べたい」としている。(毎日新聞5日)
もし動物に影響が出ているならば、人間への影響も考えられるはず。
◎原子力規制委の新基準による審査を申請した全国16原発のうち11原発で、地震の揺れを緩和する免震機能をなくし、当初方針より規模を小さくするなどしていることが、東京新聞の取材で判明。(東京7日)
福島事故などもう忘れたかのよう。九電の川内原発のやり方で味を占めた電力会社が、コスト削減に走り始めた。やはり命よりカネ…。
◎再稼働を狙う柏崎刈羽原発のある新潟県では、昨年6月から「どんな状況でも対応できるよう訓練に全力を」などというTVコマーシャルを流し始めた。毎月約40回も流しているという。さらに、115人の東電社員が柏崎市と刈羽村をくまなく回り「原発の安全対策をぜひ見てください」と住民に訴えている。だが泉田裕彦新潟県知事は「事故原因の検証と総括がなければ再稼働についての議論はしない」と譲らない。(朝日新聞8日)
泉田知事の言い分に理があると思う。まず東電は原因解明と責任の所在を明らかにしなければならないはず。
◎日本は原子力研究のために、60年代にアメリカからプルトニウム331Kg(核兵器約50発分)を借りており、いまも原子力研究開発機構の高速炉臨界実験装置(東海村)で保管中。その保管方法のずさんさが、2014年オランダのハーグでの核安全保障サミットで問題となり、米国へ返還することが決まった。だが受け入れ先の米サウスカロライナ州では猛反対が起きている。日本では処理で新たに製造されるプルトニウムは今年中に640kg。だが、廃液のガラス固化作業はトラブルで停止したまま。(東京10日)
まさに、プルトニウムは処理不能の最悪の核のゴミ。処理も処分もできないまま、プルトニウムだけが増えていく。
◎規制委は、福島原発事故の汚染水対策の凍土壁に対し「待った」をかけた。1日に400トンも流れ込む地下水を100トンほどに減らせる設備。9日に作業は完了したが、凍土壁で完全に原子炉を囲むと地下水の水位が下がり過ぎ、建屋内の高濃度汚染水が逆に地中へ漏れ出す恐れがあるという。これまでに345億円の国費を投入したが、宙に浮いたまま。(朝日10日)
田中規制委員長は「ぼくは凍土壁には興味がない」と、まるで他人事のよう。
◎規制委は福島県で続けている放射線測定を、避難地域以外では縮小するという。縮小対象になるのは、小中学校の校庭や公園などの放射線量を24時間測定しインターネットで数値確認できる「リアルタイム線量測定システム」。約3000台のうち2400台を撤去する予定という。(東京11日)
ほんとうに線量が下がっているかどうかは別問題らしい。とにかく事故収束をアピールすることで、帰還への圧力をかける方策と言うしかない。
◎福島県内の河川で採取した魚のうち、筋肉中に含まれる放射性物質量が高いヤマメに貧血傾向が見られると、東北大学の中嶋正道准教授(水産遺伝種育学)が、12日に東大でのシンポジウムで発表。(東京12日)
ここにも、海の生物と同様の影響が…。
◎関西電力は12日、美浜原発1、2号機(34万kw、50万kw)の廃炉計画を規制委に申請。2016年開始で2045年までかかり、費用は680億円だという。また日本原子力発電も敦賀1号機(35.7万kw)について同じ申請。こちらは2039年までかかり、費用は363億円を見込む。だが、使用済み核燃料の保管場所や方法は未定のまま。(朝日13日)
まずは小さな出力の原発を廃炉にして、その代わりに大出力の原発の再稼働を、という目論見か。
◎福島原発事故での汚染水は溜まり続け、現在では1106基のタンクが満杯の状態。東電は今年中にもう20基、3万トン分のタンクを増設予定。現在も毎日400トンずつ増え続けている。(朝日13日)
凍土壁もどうもうまく機能しないようだ。これひとつとってみても「事故収束」などとはとても言えない。
◎丸川珠代環境相が「1ミリシーベルトは何の科学的根拠もない。反放射能派がワーワー言っている」などと2月7日に長野の講演会で発言したことを、12日になってようやく撤回。(毎日13日)
なんだかんだと訂正も撤回も嫌がっていた丸川氏だが、誰かに叱られたらしくやっと発言撤回。それにしても自民党議員の劣化はひどすぎる。
◎新潟日報によれば、柏崎市の原発による経済効果を同県内の同規模の市(新発田市、三条市)等と比較分析した結果、効果は限定的で地元産業には波及していなかったという。原発建設によって他市よりも建設業だけは一時的に伸びたものの、他の産業には大きな影響はなかった。新潟大学の藤堂史明准教授と新潟日報の共同研究による。(東京16日)
結局、原発は建設業が一時的にいい思いをするだけで、地域産業の振興には結びつかないという研究結果。
◎福島県の県民健康調査検討委員会は15日、甲状腺がんと確定した子どもが100人を超え、全国平均を大幅に上回ることが判明。「数十倍多い甲状腺がんが発見された」との中間報告の最終案をまとめた。だが、検討委員会の星北斗座長は「一斉検診で数として多く見つかった」として、原発事故との関連を否定した。(毎日16日)
なお、毎日新聞3月7日では、これまでの結果として「がんと確定したのが116人、がんの疑い50人」としている。それでもなお「過剰診断によるもの」として原発事故との関連を否定する学者も多い。
◎「もんじゅ」を運営する原子力研究開発機構は「もんじゅ廃炉には約3000億円かかる」と試算。通常の原発の廃炉費用の数倍以上。これまで「もんじゅ」には1兆円以上がつぎ込まれたが、稼働の見通しはゼロだ。再稼動する場合でも、改修費が1000億円以上かかると見込まれるという。(毎日16日)
運転停止中の現在でも毎日5000万円以上の維持費がかかっている。ほんとうにドブにカネを捨てるようなもの。それでも固執する原子力ムラの面々。
◎福島県の浪江町と南相馬市は、再び原発で事故が起きた場合は、国の指示を待たずに、自治体独自の判断で避難指示を出すという計画をまとめた。国の指針通りではうまく避難できない可能性もあると判断。(朝日20日)
国への不信感の表れというしかない。
◎政府は、いまだ1万人以上が避難している南相馬市で、避難指示を4月中に解除する方針。放射線量によって3段階ある避難指示区域のうち、上から2番目の「居住制限区域」が解除されるのは初めて。(毎日20日)
なぜか制限解除を急ぐ政府。とにかくオリンピックまでにはほとんどの地域で制限を解除して、原発事故収束をアピールするつもりらしい。住民の健康よりも対外アピールのほうを優先させる安倍内閣。
◎福島原発事故の直後、当時の菅直人首相の下で、鈴木寛文科省副大臣が内閣官房参与(いずれも当時)だった劇作家の平田オリザ氏に依頼して「首相談話草案」を作成していた。「原発事故、政府の力では皆様を守り切れません」という悲痛な叫びのような文書。(東京20日)
当時の政府は、東日本数千万人の避難も覚悟していたという。それが原発事故の現実。「偶然の幸運」によって首都圏は救われたに過ぎない。
◎20日、高浜原発4号機が汚染水漏れ。ボルトの緩みが原因と、後に判明した。なお、同4号機は29日、再稼働試験運転後、発電と送電を開始する作業中、突然、発電機と変圧器の故障を知らせる警報。原子炉は緊急停止した。(各紙)
報道陣を招き入れて、再稼働の安全性をアピールしようとしたその面前での警報。安全性どころか、危険性のアピールになってしまった。主変圧器に過電流が流れたとすれば、これはかなり危険な事故だったはず。
◎風力発電能力が原発を抜いた。2015年に新設された風力発電は6301万kwで過去最大。原発60基分に相当。世界の風力発電の能力は2015年末に4億3242kwで、原発能力3億8255万kwを抜いた。国別では、中国(1億4510万kw)、米国、ドイツ、インド、スペインの順で、日本は304万kwで20位前後だという。(東京21日)
国土面積に比べて海岸線の長い日本列島は、風力発電能力は極めて高いと言われているが、なぜか政府は原発に傾くばかり。
◎あの高木毅復興相が、今度は外国メディア向けの記者会見で、事故原発の汚染水について「港湾内で完全にブロックされていて、状況はコントロールされている」と発言。(東京24日)
まるで、オリンピック招致の際の安倍首相の世紀の虚言のデジャヴのようで呆れるばかり…。
◎原子力規制委は24日、運転開始から40年超の高浜原発1、2号機(福井)が、新規制基準に適合しているとの審査書案を了承した。40年超の老朽原発では初の審査合格(各紙)。なお、高浜1、2号機の運転延長については住民多数が、4月中にも国を相手に行政訴訟と認可差止めの申し立てを名古屋地裁に起こすという。(東京29日)
かつて民主党政権時代に「40年超の原発の、稼働20年延期は例外中の例外」とされてきたものが、あっさりと覆された。しかも、再稼働直後に事故を起こした高浜4号機と同じ敷地内の老朽原発である。廃炉ルールの骨抜きは、事故につながるだろう。
◎東京電力は24日、福島原発事故当時の社内マニュアルに、メルトダウンを判定する際の「判断基準」が明記されていたが、その存在に5年間気づかなかったと発表し、謝罪した。東電は2011年5月まで炉心溶融を公表しなかったが、基準に従えば3日後の3月14日には1、3号機について判定できていたはずだったという。(朝日25日)
またも「今ごろになって…」という発表。これは隠蔽ではないのか。そのせいでよけいな被曝をしてしまった人たちが大勢いる。これも責任問題だろう。
◎東京電力の元経営陣3人(勝俣恒久元会長、武藤栄元副社長、武黒一郎元副社長)が、業務上過失致死傷罪で強制起訴された。これは、検察が不起訴処分としたことに対し、東京第5検察審査会が2度にわたって「起訴すべき」と議決したことによるもの。「津波の高さが最大15.7mに及ぶという試算結果を知っていたかどうか」が争点になると見られる。(各紙)
ようやく、この未曾有の原発過酷事故の責任が法廷で問われる。無責任国家日本への警鐘となるか。
◎志賀原発1号機(石川)の真下にある断層が、規制委の有識者会合の調査により「活断層と解釈するのが合理的」と判断された。北陸電力は猛反発しているが、結論が覆されなければ、1号機は廃炉になる可能性が高い。1、2号機の重要施設の直下の「S-2」「S-6」断層についても「活断層の可能性がある」と結論づけた。これにより2号機も大規模な耐震対策をしなければ、新基準に適合しないことも考えられる。(各紙3月4日)
これで、活断層の疑いが指摘されている6原発10基の原発敷地内の断層の評価が出そろった。このうち活断層の可能性が指摘されたのは、志賀1号機、敦賀2号機(福井、日本原電)、東通1号機(青森、東北電力)。これらは稼働するにしても、大幅な耐震工事が必要になる。(毎日3月4日)
規制委が初めて「廃炉」へ踏み込む評価を下すらしい。だが果たして規制委が、電力会社や政府の反発を押し切るだけの姿勢を見せられるだろうか…。
◎福島県民の世論調査によれば、原発再稼働については、賛成10%、反対77%と、圧倒的な差だった。これが全国調査では、賛成31%、反対54%と、再稼働への賛否に差があった。(朝日4日)
全国的には、次第に原発事故の記憶が薄らいでいるようだ。しかしそれでも、原発再稼働への反対は強い。
◎川内原発の周辺で、巨大噴火を疑う異常が起きた際に、運転停止命令を出すかどうかを議論する規制委の評価部会委員のうち、鹿児島大学の宮町宏樹教授と小林哲夫名誉教授のふたりが、九州電力と関西電力の子会社から寄付金を受け取っていた。宮町氏は500万円、小林氏は310万円の寄付金を受けていたことが判明。(東京4日)
相も変らぬ原子力ムラの構図。いくら「影響は受けない」と言い訳しても、それは通るまい。どこまでもカネの臭いのするムラである。
◎福島県の健康調査で、事故当時18歳以下だった子どもの160人超に甲状腺がんが見つかっていることに対し、約60カ国の研究者が参加する「国際環境疫学会」は、日本政府と福島県に、詳しい調査と事故とがんの関係について、解明を求める書簡を送っていたことが分かった。がん発症のリスクが大きいとする研究結果を挙げて「現状を憂慮している」と述べている。(毎日7日)
海外の研究者たちからは「甲状腺がん増加が、なぜ原発事故と関係ないといえるのか?」との疑問の声が上がっているのだが。
◎全国の自治体首長(知事と市区町村長)の65.6%が、原発のエネルギーに占める比率を引き下げるか将来的にゼロにするように求めていることが、共同通信調査で分かった。比率低減44.6%、全廃21.0%だった。ただし、知事のうち全廃は8府県。原発立地13道府県の知事は新潟「事故検証が不可欠」、佐賀「中長期的に原発異存を下げる」のほかは、軒並み「エネルギー対策は国の責任」として回答を避けた。99.6%に当たる1782が回答。(東京7日)
地域を守る役割の首長たちの、原発に対する意識が分かる。
最近の原発関連のニュースを集めてみた。まだまだ、ぼくのファイルには、たくさんの切り抜きが収められている。ここに挙げたのは、そのほんの一部だが、さすがに長くなりすぎた。この辺りで止めておく。
これらの中で注目すべきは、東電の旧経営陣3名の強制起訴と志賀原発の活断層認定、それに福島県の健康調査結果だろう。
ようやく福島原発事故の責任が公の場で問われる。責任の所在をきちんと明らかにしなければ、原発事故はまた繰り返される。無責任の体系が事故原因の大きなひとつであることは間違いないのだから。
最近は政府寄りとの批判が強い原子力規制委員会だが、さすがに専門家たちの意見には耳を傾けざるを得ないだろう。だが、志賀原発1号機は出力35.7万kwで原発の中では小型。2号機は116万kw。志賀原発しか所有していない北陸電力は、必死に2号機の再稼働へ向けて動くだろう。だがこの重要施設の下にも活断層がある。規制委が、どこまできちんと判定できるか、注視していかなければならない。
福島県の小児甲状腺がんの激増は、もっと報道されなければならない。これを「風評被害」と批判する人が多いけれど、ならば、なぜ甲状腺がんが激増しているのか、その原因をきちんと解き明かさなければならないだろう。それをせずに「過剰診療」や「スクリーニング効果」のせいとするのは、どうにも納得できないのだ。
原発事故は終わっていない。
廃炉には40年ほどかかる、と東電や識者は言うのだが、無事故の原発の廃炉でさえ、イギリスでは70年以上を見込んでいるという。いったん事故を起こせば、人間の一世代では処理できないツケを、後の世代へ回してしまう。それが核を扱う原発というシステムなのだ。
また、福島県の避難指示区域の解除によって「帰還圧力」が増している、という避難者の嘆きも聞こえてくる。
ぼくはやはり、最後まで「反原発」を貫き通そう。原発と、それが生み出す核廃棄物は、人間とは絶対に共存できないと思うからだ。
志賀原発1号機は出力54万kW(格納容器は福島第一と同じマークⅠ型)、2号機の出力は135.8万kWです。
どうすれば原発の流れを止められるのか。
誰も触りたくない物理的な毒性、誰も歯向いたくない経済的・政治的圧力。
それでも、意志だけは表明していきましょう。
声だけは失わずにいきましょう。
これは、現代の日本における最大の問題だと思います。
少なくとも、歩き続けましょう!