風塵だより

 2015年……。ぼくにとって、最近の10年間でもっともくたびれた1年だったような気がする。ほんとうに「くたびれた」という表現がピッタリの1年だったんだ。
 あちこちへ駆けずり回った。いろんな方にお会いした。たくさんの集会やデモに参加した。会議や勉強会にも出席した。多くの資料も読んだ。頼まれて、何回か小さな会でお話もした。くたびれた…。
 年末になって、体調を崩した。膝の痛みと全身の発疹。こんなの、初めての経験だった。
 この体調不良の原因のかなりの部分は、安倍首相のせいじゃないかと思っている。ネット右翼方面の方たちからは「なんでも安倍さんのせいにしやがって!」と罵倒されるだろうが、デモも集会も会議も面倒な資料読みも「アベ政治を許さない」ためなんだから…。

 先週のコラムで「普通に考えておかしいこと」を書いた。でも、あまりにおかしいことが多すぎて、原発関連だけで終わってしまった。
 沖縄についても憲法問題でも安全保障でもアベノミクスだって、安倍政権による「普通に考えておかしいこと」は山盛りのてんこ盛り、しかも後から後からどんどん出てくるものだから、「安倍政権の普通に考えておかしいこと」をシリーズ化してもネタ切れになることはなさそうだ。
 とりあえず最近、引っかかった「おかしなこと」を、アトランダムに挙げてみる。

◎国政選挙に「地方区」は必要ない?

 沖縄・辺野古の米軍新基地建設を、安倍内閣は、沖縄県民の7割もの反対を押し切って強行しつつある。このコラムでも何度も書いたことだが、直近の沖縄における4回に及ぶ選挙(名護市長選、名護市議選、沖縄県知事選、衆議院選)のすべてで、「辺野古新基地建設反対派」が勝利した。これは紛れもない事実だ。
 とくに衆院選では、全国的には自民圧勝ではあったけれど、沖縄では4選挙区すべてで自民敗北、「オール沖縄」を掲げた反基地派が勝った。それでも基地建設を強行するのであれば、もはや衆議院にも参議院にも「地方区」などは必要ない。地方の声を政治に反映させるためにあるのが地方区ではないのか。それを無視するのであれば、国政選挙では地方区をなくし、全国区だけにしなければ理屈に合わない。
 安倍首相、沖縄に限っては、地方区から選出された議員の意見を聞く気がまったくない。得意の「地方創生」とか「一億総活躍」なる空虚なスローガンにさえ、なぜか沖縄だけは入れてもらえない。
 普通に考えればおかしい。

◎あまりにひどい二重基準

 地方の住民の意見を聞くのは、政治の大事な役割だ。というわけで安倍内閣の中谷元・防衛相は、佐賀空港へのオスプレイ配備に関しては、佐賀県幹部と会談し「住民の反対に配慮して」あっさりと諦めた。一方で、沖縄ではどんなに強い反対があっても諦めない。沖縄と佐賀では、なぜこんなにも対応が違うのか?
 普通に考えれば、この二重基準(ダブルスタンダード)はとてもおかしい。

◎憲法をきちんと読めば…

 日本国憲法第95条に、こんな規定がある。
 <一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。>
 沖縄県名護市辺野古における米軍新基地建設については、まさに「一の地方公共団体のみに適用される特別法」で決めるべきだろう。だが、安倍政府は「米軍基地は沖縄だけではなく全国各地にある。したがって基地建設に関わる問題は“一の地方公共団体”のみの問題ではない。よって、この憲法の規定にはなじまない」という屁理屈をこねる。
 しかし現在、米軍新基地建設とは、まったく沖縄県のみに発生している問題である。つまり「一の地方公共団体」の問題であることは明らかだ。それに関しての憲法判断から逃げまくるのは、こんな屁理屈にさえ自信がないからではないか。
 普通に考えて、これは憲法違反だろう。

◎明白な憲法違反だ!

 憲法違反といえば、臨時国会の召集についての安倍内閣のデタラメさは目に余る。日本国憲法第53条に、次のような規定があるではないか。
 <内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない>
 この条文の後段は「決定“しなければならない”」であって「決定“してもよい”」ではない。つまり、野党が連携して臨時国会開催を要求したのだから、安倍内閣は“絶対に”臨時国会を開かなければならないのだ。
 だが、ここでも安倍官邸は屁理屈で逃げる。曰く「首相の外遊日程がつまっているので開会は無理。その代わり、1月4日に例年よりも早く通常国会を開くので、臨時国会は必要ない」というのだ。
 結局、臨時国会は「四分の一以上の要求」があったけれど開かれないことになってしまった。誰がどう考えても、いかに姑息な官僚解釈をしても、「しなければならない」ことを「しなかった」のだから、憲法違反そのもの。
 屁理屈は並べたけれど、本音は「閣僚たちのスキャンダルを追及されたら面倒なことになる。なるべくそれは後回しにしたい」ということでしかない。おバカ大臣たちを守るために憲法違反を平気で行う安倍首相。
 しかし、野党議員たちはなぜ「安倍内閣の憲法違反によって、正当なる国会での審議権を奪われた。この損害賠償を求める」という訴訟を起こさないのだろう。どんなに政府寄りの見解を示す裁判所だって、さすがにこれを「合憲」だとは言えないだろうに。
 普通に考えて、これほど腹立たしくもおかしなこともない。

◎仲井眞前知事の公約違反

 沖縄については、たくさんの「おかしなこと」が安倍によって平気で行われている。翁長県知事による「辺野古沖の埋め立て承認取り消し」は、政府があっという間に覆した。その理由が「埋め立て承認は、仲井眞前知事によって正式になされたもの。仲井眞知事は知事選において正当に選ばれた知事であり、その決定は民意に添うもの」ということだ。しかしこれはおかしい。仲井眞前知事は前回、「普天間飛行場の県外移設」を掲げて選挙戦に臨み当選した。したがって「辺野古移設」は明らかな公約違反であり、埋め立て承認は沖縄の民意の否定であった。
 県民が激昂したのも無理はない。事実、昨年(2014年)の知事選では、翁長氏が仲井眞氏に10万票もの大差で圧勝した。それこそが民意であった。
 だから安倍政府の言い分は、普通に考えておかしい。

◎国の言い分を国が審査というデタラメ

 翁長知事は、ついに「埋め立て承認の取り消し」を表明。だが安倍政権の防衛省(沖縄防衛局)は間髪を入れずに「承認取り消しの無効」を求めた。その求めた先が国土交通相である。つまり、国と県の争いごとの裁定を、国の機関に求めたわけだ。国の言い分を国が審査する。当然のことながら、石井啓一国交相(公明党)はすぐに、防衛省の言い分を認め、翁長知事の「取り消し処分の執行停止」を決定した。
 つまり、泥棒の言い分を警察がそのまま認めちまったに等しい。
 普通に考えて、これほどおかしなこともない。

◎防衛省が「一私人」だって?

 しかも、この決め方が無惨なほどの屁理屈によるものだった。なにしろ「防衛省(沖縄防衛局)は一事業者(私人)であり、行政側(沖縄県)の決定は私人の権利を侵すものであるから承服できない」という天地がひっくり返るほどの超ヘリクツを用いたのだ。
 えっ? 防衛省が私人? ンなバカな…。
 このリクツが通るなら、国が行うことは何でも可能ということになる。その時々で、国家と私人を使い分ける。 
 「ある時は国家、ある時は一事業者、ある時は政治家、そしてある時は私人。しかしてその実体は…七つの顔の男だぜ(昔懐かしい多羅尾伴内の名セリフ、旧い方でなければ知らないでしょうが)」である。映画のセリフならば楽しめるけれど、政治の場でこんなことをやられたら、住民には対抗するすべはない。
 どう考えてもおかしすぎる。

◎辺野古基地反対運動への強圧

 「鬼の四機」との異名をとる第四機動隊など警視庁機動隊までが動員されての、沖縄県名護市キャンプシュワブ・ゲート前での住民の抗議行動への強圧ぶりは、日に日に激しくなっている。もう何人ものケガ人が出ているし、逮捕者も続出している。
 辺野古の海での海上保安庁の暴行も数々報告されているが、力任せに押し潰されて意識を失うほどの状況に陥った抗議船の船長も出た。しかし、指定されたフロートの外にいる抗議船にムリヤリ乗り込んで、船のキイを奪って操縦不能にさせるのは「不法侵入」には当たらないのだろうか? フロート外にいるだけでは、なんの違反もしていないはず。
 これも、普通に考えればおかしな話だ。

◎「軽減税率」とマスメディア

 マスメディアは、臨時国会が吹っ飛んでしまったことに対し、強い批判はしていない。これほど明白な、屁理屈もこねようのない「憲法違反」はないのだが、なぜかあまり関心を示さない。
 それに引き換え「軽減税率」を巡る自民党と公明党のやり取りについては、異常なほどの取り上げ方だ。
 妙な言葉だ。食品の「軽減税率」といわれれば、あたかも現在8%の消費税率がもっと引き下げられるような錯覚に陥る。8%の税率が5%や3%に引き下げられるのであれば、確かに「軽減」である。しかし実態は、現在の税率をそのまま「据え置く」だけの話。これを「軽減」と呼ぶのは、言葉による詐欺行為だ。
 言葉のごまかしに乗ってはいけない。これは決して「軽減税率」などではなく「据え置き税率」に過ぎない。政治家どもが言葉をごまかすのはもはや伝統芸だ。だが、なぜマスメディアは疑いもせず、そんなデタラメ造語に乗ってしまうのだろうか。
 日本の報道の自由度は、世界各国の中で61位だという。それを恥と受け取る報道者たちがあまりに少なすぎる。マスメディアという企業の中でぬくぬくと暮らしていれば、恥の感覚も次第に薄れていくのか。
 言葉の言い換えも、それを甘受するマスメディアも、普通に考えれば、悲しくなるほどおかしい。

 安倍政権になってから、こんな「普通に考えておかしいこと」が激増していると思う。考えれば、もっともっと「おかしいこと」は浮かんでくる。あまりの多さに、報道する側も次第に麻痺してしまいつつあるのかもしれない。マスメディアが麻痺すると、それは国民に直結する。
 だから、ぼくらは黙り込んではならない。

 繰り返すが、「おかしいこと」にはおかしいと、声を挙げ続けなければならない。ぼくは、黙らない。

 

  

※コメントは承認制です。
56 普通に考えておかしいこと・PART2」 に1件のコメント

  1. より:

     ご意見、実に同感です。
     しかし、瑣末なことながら、米軍の新基地建設は京都府でも行われていますよ。京都府京丹後市、経ヶ岬の米軍Xバンドレーダー基地建設反対運動をお忘れですか?
     安保条約は、「全土(米軍)基地方式」と称されるように、米政府が”ここを基地にするぞよ!よきにはからえ!”と宣言すれば、日本国は”喜んで!!”と実行する建付けです。
     現実の力関係なら佐賀が自衛隊ではなく米軍のオスプレイ訓練を蹴飛ばせたように道がありえますが、法律論で言えば安保条約と齟齬を来たし得る特別法を作って住民投票とはなり得ないでしょう。
     基地問題は、本土では8~9割が受け入れていると言う”アンポ”に結局は戻って来るんだと思います。
     

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「風塵だより」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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