風塵だより

 今年の梅雨は長い。今日も雨…。カミさんが、洗濯物が乾かないと愚痴っている。確かに乾いたはずのジーンズが、なんとなく湿っぽい。こんな日は、気分もなんだか鬱陶しい。
 新聞もテレビニュースも、そんな鬱陶しさに拍車をかける。安倍首相の顔を見かけるたびに、気分も落ち込む。

 しかし、暴走する安倍首相の足もとが、ここにきてどうも揺らぎ始めているようだ。その現象のうち、目についたところを挙げてみよう。

◎憲法学者3人の「違憲」表明

 6月4日の衆院憲法審査会で、参考人として呼ばれた3人の憲法学者がそろって「安保法案は違憲」と述べた。焦ったのは自民党。なにしろ、野党推薦の小林節慶応大学名誉教授と笹田栄司早稲田大学教授が「違憲」としたのはともかく、自民党推薦の長谷部恭男東大教授までもが「違憲」と指摘したのだ。これでは自民党の立つ瀬がない。自民党憲法改正推進本部長の船田元氏は針の筵。その後「もうしばらく憲法審査会は開かない」と言い出し、ご本人は姿をメディアの前に現さなくなった。
 このあたりから「潮目が変わった」と言われ始めた。

◎他の憲法学者たちの意見

 「報道ステーション」は、この憲法学者たちの意見陳述を受けて、では他の憲法学者たちはどう考えているのか…と、アンケートを実施。「報道ステーション」のHPによると、その結果が以下。

憲法学者に聞いた
~安保法制に関するアンケート調査の最終結果

 憲法判例百選の執筆者198人にアンケート調査を行い、151人の方々から返信をいただきました。
(調査期間は6月6日~12日 他界した人や辞退した人などを除き、アンケート票を送付)

Q1.一般に集団的自衛権の行使は日本国憲法に違反すると考えますか?
 憲法に違反する 132人
 憲法違反の疑いがある 12人
 憲法違反の疑いはない 4人

Q2.今回の安保法制は、憲法違反にあたると考えますか?
 憲法違反にあたる 127人
 憲法違反の疑いがある 19人
 憲法違反の疑いはない 3人

Q3.今回の安保法制に盛り込まれた、「限定的」とされる集団的自衛権の行使の内容は、日本国憲法に違反すると考えますか?
 憲法に違反する 124人
 憲法違反の疑いがある 21人
 憲法違反の疑いはない 3人

Q4.今回の安保法制に盛り込まれた、日本の安全や国際社会の安全のための他国軍への後方支援についての内容は日本国憲法に違反すると考えますか?
 憲法に違反する 112人
 憲法違反の疑いがある 33人
 憲法違反の疑いはない 3人

Q5.今回の安保法制に盛り込まれた、安全確保業務や駆け付け警護など国際平和活動についての内容は、日本国憲法に違反すると考えますか?
 憲法に違反する 89人
 憲法違反の疑いがある 52人
 憲法違反の疑いはない 7人 

 何も付け加える必要はない。圧倒的といっていいほどの差だ。
 この「憲法判例百選」とは、改憲派護憲派の双方の学者たちが執筆する場であり、そこの執筆者たちアンケート調査するというのは、極めて公正なことだろう。その結果がこれだ。今回の安倍内閣の「安保法制」が、いかに学問的にずさんなものであるか、一目瞭然ではないか。

◎菅官房長官の言い訳

 3人の憲法学者の「違憲」表明を受けて、記者会見で問われた菅氏は「合憲だとする憲法学者はたくさんいる」と強弁した。しかし、6月10日、国会の平和安全特別委員会(この名称も恥ずかしいくらいウソっぽい)で辻元清美議員に「たくさんいる、と言うのなら、その名前を挙げてください」と質問されてシドロモドロ。結局、「百地先生、長尾先生、西先生…」とかろうじて“著名な”学者3人の名前を挙げたもののあとは続かず、あげく「数ではないと思いますよ」と開き直る始末。もはや議論の体をなしていない。
 「合憲だとおっしゃる著名な学者の方もたくさんいらっしゃいますよ」の後始末をどうするのだろう、菅官房長官は…。

◎政府与党の開き直り

 高村正彦自民党副総裁も、もう破れかぶれ。「憲法学者はどうしても、憲法9条の字句に拘泥する」(6月5日)と不満を学者にぶつけ、それでも足りなかったのか、今度は、オレのほうが学者よりエライ、と言わんばかりの発言。
 「私は、憲法の法理そのものについて学者ほど勉強してきた、と言うつもりはないが、最高裁の判決の法理にしたがって、何が国の存立をまっとうするために必要な措置か、ということについては、大抵の憲法学者より私のほうが考えてきた自信はある」(6月11日)などと述べたてた。
 さらには「砂川事件最高裁判決」まで持ち出して、集団的自衛権について「否定されていないから認められる」というアクロバティックな論理を振り回す。こんな人が、弁護士資格を持っているというから驚く。

◎「勉強会」のお粗末

 もう書くまでもないけれど、ほんとうにひどい「勉強会」だったというしかない。6月25日の自民党本部の会議室で開かれた「文化芸術懇話会」なる会合のことだ。百田尚樹氏が例によって、ネット右翼そのものの大放言。それに大笑いしながら拍手する“安倍親衛隊”の若手自民党議員たち。まあ、大西英男議員のように野次(セクハラ野次で陳謝した過去)でしか存在感を示せない68歳の“若手”もいるけれど。
 それにしても「報道へ圧力をかけるためには広告料をなくせばいい」などと党の会合で話すとは、まさに常軌を逸している。「驕る平家は久しからず」なんて言葉は知らないんだろうなあ…。

◎安倍首相、いやいやながら謝罪

 この「報道圧力問題」に関して、安倍首相は当初、彼らが自分の応援団であることを知っているだけに「その場にいなかったのに、成り代わってお詫びするわけにはいかない。発言した人だけができること」などと、謝罪を拒否(6月26日)。しかし批判は収まらず、ようやく1週間後の7月3日、国会の委員会で「沖縄のみなさまの気持ちを傷つけたとすれば、申し訳ない」と陳謝した。
 だがこの言葉、あまりに無責任ではないか。「傷つけたとすれば…」とは何という言い草。人をぶん殴っておいて「痛かったとすれば、申し訳ない」などというのが謝罪の言葉になると思っているのだろうか。

◎憲法学者たちの逆襲

 さすがに業を煮やした憲法学者たちが動き始めた。自分たちの研究を、「字句に拘泥する」とか「学者より私のほうが考えてきた」、「合憲という著名な学者はたくさんいる」などと好き勝手を言われて、もう黙ってはいられなくなったか。学者たちが、研究室や書斎から街へ飛び出し始めた。
 7月3日、時おり小雨がぱらつく天候の中、国会正門前には十数名の憲法学者たちが集まって、リレートークを繰り広げた。ぼくも取材がてら、2時間ほど聞き入った。ぼくは少し遅れて行ったので、斎藤小百合恵泉女子大教授、石埼学龍谷大教授、石川裕一郎聖学院大教授、渡辺弘活水女子大准教授、藤野美都子福島県立医大教授、藤井正希群馬大准教授、長峯信彦愛知大教授、清水雅彦日本体育大教授…などだった。みなさん、7分間の持ち時間だったが、話し足りないと見えてオーバーする方も。それだけ、安倍政権の暴走に対する危機感が高まっているということだろう。

◎国会前に反対の声が渦巻く

 毎週木曜日は、午後6時半から国会議員会館前で、安保法制反対の集会が開かれている。また同金曜日は、首相官邸前で反原連の「金曜官邸前抗議」がやはり午後6時半からずっと行われているし、同7時半からは国会正門前でSEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)というグループが主催する「反安保法制」抗議行動が継続的に行われている。このSEALDsは、若者たち数十名で始まった運動だというが、今では数千人の人たちが参加するまでの規模になっている。おとなしいと言われ続けて来た若者学生たちが、ついに大きなうねりを創りだした。
 むろん、この動きは東京だけの現象ではない。マガジン9の「日本全国デモ情報」「全国イベント情報」を見ればお分かりのように、巨大な渦は全国へと波及しつつあるのだ、安倍内閣の足もとを揺るがす規模で…。

◎焦り始めた首相官邸

 こんな記事を見つけた。18歳選挙権についての記事だが、前項のSEALDsにも関連することだ。「NEWSポストセブン」(7月6日配信)である。

(略)自民党は逆に18歳選挙権実施にあたって高校生の政治議論や活動を制限する方針を打ち出した。さる6月25日、同党文科部会は「学校が政治闘争の場になることを避けなければならない。「高校生の政治活動について、学校の内外で抑制的であるべきだという指導を高校が行えるよう、政府として見解を示すべきだ」とする提言案をまとめ、教育公務員特例法の改正などを求めたのだ。
 背景にあるのは大学生、高校生が安保法案反対を掲げて今年5月に結成した「SEALDs」(自由と民主主義のための学生緊急行動)の動きだ。
 SEALDsは国会前で抗議行動を行っており、6月27日にはネットで渋谷ハチ公前でのデモを呼びかけて数千人を集める影響力を見せた。これに安倍首相は神経を尖らせているという。官邸の安倍側近筋が語る。
 「総理がSEALDsを非常に気にしている。これまでネットの意見で若い世代に憲法改正を望む声が強いことから、総理は自分の路線が若者に支持されていると考えていた。選挙権の年齢引き下げも自民党に有利に働くとの読みがあった。
 しかし、渋谷のデモに多くの若者が参加するなど、予想に反する動きが広がっている。このままでは70年安保の新宿フォークゲリラ、神田カルチェラタンのように、今後は渋谷が反対運動拠点になりかねないと心配している。(略)
 「安倍支持」だと考えたから18歳以上に選挙権を与えたが、若者の批判が政権に向かうや、“俺のやることに反対は許さん”と、一転して高校生を“政治弾圧”しようというのである。(週刊ポスト7月17日・24日号)

◎安倍官邸の誤算

 安倍首相のネット好きは有名。それも、ネット右翼のサイトが大の好みだという。そんなところばかり見ているから自分も同化して、ほとんどネット右翼同然の頭になってしまう。百田氏とお友だちになったのは、まさにそういうことだろう。ところが、そんな頭ではとてもついていけない現象が出て来た。それが、「若者たちの反乱」である。
 若者といえばみんなネット右翼だとでも思っていたらしい安倍一派。実は、それが一握りのネット生息者たちに過ぎず、そんな連中と一線を画す若者たちが街頭に飛び出してきたことに、今頃になってやっと気づき大慌てしている、というのが現在の構図なのだろう。
 ネット右翼たちのヘイトデモが、最大でもせいぜい数百人規模の人間しか集められないのに比較し、誕生したばかりのSEALDsの呼びかけには、数千人が湧き出てくる。今やこの差は歴然だ。
 官邸の右翼取り巻きたちにとっても、これは予想外のことだったのかもしれない。自分の周りしか見ていない「裸の王様」は、やっと寒さに気づいて震えはじめたのかもしれない。

◎そして、支持率急降下の衝撃

 このところのマスメディア各社の世論調査での安倍内閣支持率低下は著しいものがある。この「風塵だより34」でも触れたが、中でも安倍シンパとしか思えない読売新聞系での調査結果には、安倍官邸もそうとう焦っていたとの情報があった。それでも、支持がかろうじて不支持を上回ってはいたのだ。
 ところが、ついに不支持が支持を上回った、という調査結果が発表された。毎日新聞(7月4、5日調査)の、支持42%(前回より3%減)、不支持43%(同7%増)という結果である。第2次安倍内閣で、不支持が支持を上回ったのはこれが初めてという。
 この発表は官邸に衝撃を与えた。「これはなんだっ!」という誰か(?)の怒声が官邸内に響いた、という話も漏れてきたほどだ。
 毎日新聞(6日付)はこう解説してみせた。

(略)首相官邸や与党は、安全保障関連法案を今国会で成立させようとすれば一定の支持率低下は避けられないとみていたものの、自民党の若手勉強会による報道機関への圧力発言問題も重なり、「法案への国民の理解が広がらないまま衆院で採決を強行すれば、さらに10ポイント前後下がるのではないか」(同党幹部)と危ぶむ声も出始めた。(略)

◎それでも安倍は強行するのか?

 国会の委員会審議でみられるように、政府の安保法案に関する答弁は、もうボロボロ、ほとんどヘリクツにもなっていない。それでも安倍は強行採決へ突っ走るのだろうか?
 知人のジャーナリストの解説はこうだ。

 だからこそ、安倍さんは強行するでしょう。審議が長引けば長引くほど、政府答弁に矛盾が出てくるのは、これまでの議論から明らか。とくに中谷防衛大臣は、もう整合性のとれた答弁ができるような状態ではない。それが露呈される前に、なんとか切り上げてしまいたい。しかも、院外での反対運動は日増しに激しくなっています。
 ことに、憲法学者たちの大多数が違憲だとしている、という事実は、法案の中身はあまり理解できなくとも『そんなに多くの学者が反対しているのなら、やはりおかしな法案に違いない』と、一般の人たちに受け取られ始めています。何となく…という空気、これは重い。しかも、おとなしくて政治的行動はまるでしない、と思われていた学生たちが動き出した。
 これらを重ねると、もう一刻でも早く採決へ持ち込みたい、というのが現在の安倍さんの偽らざる心境でしょう。

 そんなことをさせてはならない、と強く思う。

◎#自民感じ悪いよね

 7月2日、石破茂地方創生担当相が、あまりの自民党の体たらくに、つい記者会見で愚痴った。
 「自民党がガタガタするのは、政策よりも『なんか自民党、感じが悪いよね』と国民の意識がだんだん高まっていった時に危機を迎えるのが、私の経験だ。政策は大事だが『嫌な感じ』が国民の間に広まることは心しなければいけない」
 これが、なぜか大反響。ツイッター上で瞬く間に広がったのが「#自民感じ悪いよね」である。出るわ出るわ、自民党のウソ悪業スキャンダル三百代言ヤジ公約違反、果ては麻生氏のマフィアファッションまで出血大サービス。
 マスメディアは取り上げないかもしれないが、これはひょっとして安倍内閣の命とりになるかもしれない、というほど増殖中なのだ。

◎それにしても、川内原発は…

 安倍内閣のガタツキぶりはそろそろ最終段階に入りそうだけれど、そのドサクサ紛れというわけでもあるまいが、川内原発への核燃料の搬入が始まってしまった。
 何度も指摘してきたが、日本列島はいまや火山の大活動期に入っている。そんなことは、日本人すべてが肌で感じていることだ(感じないよ、という人にぼくは何も言うつもりはない)。噴火への対策は、まったく“永遠のゼロ”のまま。
 さらに、万一の事故の際の避難経路は手つかず。「事故は、運転期間中には起きる可能性が低い」と、骨抜きの原子力規制委員会までが、安倍原発内閣の意のままである。
 
 安倍内閣打倒!と言うしかない。
 毎日のように、国会周辺ではデモや集会がある。ぼくは、できる限り参加する。マガジン9の「日本全国デモ情報」には、数多くの集会やデモのお知らせが掲載されている。いま、街へ出なくてどうするんだ。みんな、街へ出よう。
 「安倍NO!」を掲げよう。

 

  

※コメントは承認制です。
37 #自民感じ悪いよね」 に1件のコメント

  1. 島 憲治 より:

    国会議事堂正門前でもがき苦しむ若人。「安倍止めろ」「国民をナメルナ」。国会へ向かってなんべん叫んだことだろう。帰宅の地下鉄駅まで歩くのがやっとだった。
     それにしても、国民をやってまだ日の浅い若者が「国民をナメルナ」と叫ぶのだ。その姿に、国民をやって日の深い中高年にもっともっと可視化の声を出して欲しいと訴えているかのようだった。                    虫に刺され軟膏を塗ってくれたご婦人。「こんにちは」で始まる見知ら人との会話。抗議行動をとても身近なものにした。後期高齢者男性の二人連れ。私達は自民党員だが「安倍はダメダ」と強調。「立憲主義の破壊」は「国の破壊」。民主主義は国を破壊することも出来る、ということを国民も気づき始めた様だ。
    国会議事堂正門前で思った。「戦争法案」を巡る政府答弁の幼稚さ。この立派な建造物に相応しくない。勿論、立憲主義破壊の舞台に使用してはならない。
    「コメント」を書くと「抗議」行動。抗議行動が何倍もきつかった。

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「風塵だより」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

最新10title : 風塵だより

Featuring Top 10/114 of 風塵だより

マガ9のコンテンツ

カテゴリー