東京・調布飛行場を飛び立った小型プロペラ機が墜落し、巻き添えになった住民らが死亡する事故が起きてから1カ月近くが経つ。例の如く、関連する報道は散発的になり、社会の関心も薄れているようだ。そう遠くない地域で生まれ育った者として、このままでは「住宅街の飛行場」のあり方という本質的なテーマが置き去りにされてしまうのではないか、と危惧している。
事故現場の映像を見て私が思いを致したのは、同じ東京・多摩地区にあって、やはり周辺に住宅が密集している米軍・横田基地(横田飛行場〈福生市など〉)のことだった。ちょうど事故の前日、横田基地へのオスプレイ配備反対集会に参加していたからだ。
オスプレイ。ヘリコプターのように垂直に離着陸し、プロペラ機のように高速で飛行する、米軍の新型輸送機のこと。「開発段階から重大な事故が多発していて危険だ」として、沖縄・普天間飛行場に計24機が配備される際に激しい反対運動が起きたことを、本土ではどのくらいの方が覚えているだろうか。
このオスプレイを横田基地に計10機配備する、と米国防総省が発表したのは、今年5月のことだった。2年後の2017年後半に3機が、21年までに残り7機がくる計画だ。発表以降のマスコミの続報記事はほとんど見かけないが、横田への配備は普天間以上に危険な要素を含んでいるようなのだ。反対集会で講演した基地監視団体・リムピースの頼和太郎さんの話を軸に検証したい。
最も重要なのは、横田に配備されるのが「空軍」のオスプレイ(CV22)だという点だ。機体やエンジンは、普天間に配備された「海兵隊」のオスプレイ(MV22)とほぼ同じだが、海兵隊は兵士や物資の輸送用なのに対し、空軍は特殊作戦用と、用途が大きく違う。
頼さんによると、ゲリラ戦をはじめ非正規戦や特殊な偵察、住民の宣撫工作などを担う特殊部隊を秘密裡に敵地に移動させるのが、オスプレイを使う空軍の輸送部隊の役割。目的地に潜入し作戦を実行して脱出するには目視やレーダーからの秘匿性が不可欠なので、「夜間の低空飛行がほぼ絶対的な条件になる」という。
つまり、横田にやってくるCV22の訓練では「夜間の低空飛行」が常態化することが予想されるわけだ。
苛酷な状況を想定して危険な訓練をするのだから、当然、事故が起きる確率は高くなる。空軍仕様機(CV22)の10万飛行時間あたりの重大事故は7.21件。横田配備が発表された6日後にハワイで墜落事故を起こした海兵隊仕様機(MV22)の2.12件と比べても、3倍以上になっている。
CV22に乗る特殊作戦部隊が駐留している沖縄とともに、離着陸などの訓練が行われる横田基地周辺で事故の危険が大きく高まることは明らかだ。住宅が密集する首都圏の上空を飛ぶだけに、調布飛行場で起きたような事故も決して杞憂では済むまい。騒音も激しくなるだろう。
しかも、沖縄ではオスプレイ配備前の「約束」が守られていないという現状がある。これも大きな問題点だ。
普天間への配備にあたり、日米両政府は2012年9月にオスプレイの「運用措置」に合意した。①低空飛行訓練は地上約150メートル以上の高度で実施、②午後10時~午前6時の夜間飛行は制限、③垂直離着陸(ヘリ)モードでの飛行は基地内に限る、④基地への進入・出発経路は人口密集地域の上空を避ける、などを盛り込んでいる。
しかし、いずれにも「運用上必要な場合を除き」「できる限り」といった枕詞が付いている。米軍がこれに従わなくても、いくらでも言い逃れができる仕組みである。
実際、沖縄県のまとめでは、2013年10~11月の2カ月間で24機のオスプレイに336件の「違反飛行」が確認されたという。夜間飛行も10件あった。日米両政府は「違反の確証はない」とするばかりだが…。
そもそも米軍内部では、こうした約束は守らないのが当然の前提のようなのだ。頼さんが紹介した「琉球新報」(6月11日付)の記事によると、普天間飛行場の航空安全担当官は、市街地上空ではしないはずのヘリモードでの飛行について「安全に飛行するために定められた(別の)飛行基準に従って飛ぶ」と明言し、日米合意を順守する必要はないとの認識を示したという。
オスプレイが横田基地に配備された場合も、同様の事態が容易に予想される。米軍の常識は日本の市民レベルのそれと乖離していることを、しっかり胸に刻んでおかなければなるまい。事故が起きてからではもちろん、配備されてしまったら手遅れなのだ。
しかし、横田基地の地元をはじめ、東京都民の関心は低い。
基地が市の面積の3分の1を占める地元の福生市長が今のところ「配備反対」で頑張っていたり、各市町議会が「遺憾」や「憂慮」の念を示す決議を可決したりはしているものの、肝心の住民の反応が鈍いという。反対運動の関係者は集会で「ビラの受け取りが良くない。住民の声は大きくなっておらず、運動は盛り上がっていない」と正直に分析していた。基地の地元から離れるにつれ、さらに注目度が薄れていくことは言うまでもない。
「米軍の危険」が拡大しつつあるのは、首都圏全体の問題でもある。
たとえば、オスプレイは陸上自衛隊も佐賀空港に17機を配備する方針で、防衛省は日米共通の整備拠点を千葉県木更津市の陸自駐屯地に設ける計画だ。神奈川県の米軍・横須賀基地には今秋、福島沖で被曝した原子力空母「ロナルド・レーガン」が交代艦として配備される(詳しくは、拙稿「トモダチ作戦で被曝した米兵たちは、そして原子力空母は」)。
「反対するべきだ」とハナから主張するつもりはないが、すでにある厚木基地(神奈川県)などに加えて、首都圏の住人にとって「米軍の危険」が他人事ではなくなりつつある現実を、まずはしっかり受けとめるべきだろう。「地域エゴ」と批判されようとも、自分の足元のことから考えるのは何もおかしいことではない。それに、危険を実感してこそ沖縄の基地問題にも真摯に向き合えるのだと、沖縄在住経験者として強く思う。
最後に一つ。
東京はじめ首都圏での米軍機能の拡大・強化にしても、沖縄・辺野古への新基地建設にしても、根幹には「安保」(日米安全保障条約)があることを、きちんと見つめ直しておきたい。そして、それは集団的自衛権の行使容認とがっちりつながっている。日本とアメリカが防衛・軍事面でどんな関係を築いていくか、という問題だからだ。
安全保障法制への反対を唱える際に、ぜひ頭の片隅に置いていただきたいテーマである。
沖縄・普天間飛行場に並ぶオスプレイ(今年5月) 撮影・小石勝朗
住民の激しい反対の声を無視して普天間基地に配備され、沖縄の上空を我が物顔で飛び回るようになったオスプレイ。同じようなことが、県外でも今、着々と進められようとしている。三上智恵さんがコラムに書かれていた「高江を見過ごしていると、あなたの暮らす場所が、いつか高江になる」という言葉が思い出されます。