マガ9学校やりました。

6月2日(土)14:00〜17:00
@カタログハウス本社 地下2階セミナーホール

塀の中で見えたこと 福祉施設としての刑務所

講師:山本譲司さん(作家、福祉活動家、元衆議院議員)ゲスト:鈴木邦男さん(評論家、一水会顧問)、雨宮処凛さん(作家、活動家)、本間龍さん(作家)

山本譲司さんが2004年に上梓した『獄窓記』は、刑務所の中の実情を伝えるショッキングな内容でした。多くの知的障害者や精神障害者、認知症などの病を抱えた高齢者が十分なケアを受けられないまま、刑務所で過ごす。刑務所が福祉施設化している事実を突きつけています。山本さんは、「刑務所は社会の写し鏡」と語りました。失敗した人が再起しにくい社会、異質なものを排除する社会。その帰結として、刑務所の福祉施設化があるというのです。ゲストを交えたトークセッションでは、雨宮処凛さんが取り組んでいる生活保護バッシングと刑務所問題の共通点も浮かび上がりました。弱い立場にいる人を守らない風潮の広がりを、実感させられるお話でした。

山本譲司●やまもと じょうじ(作家、福祉活動家、元衆議院議員)1962年北海道に生まれ、佐賀県育ち。早稲田大学教育学部卒業。菅直人代議士の公設秘書、都議会議員2期を経て、96年に衆議院議員に当選。2期目の当選を果たした2000年9月に政策秘書給与の流用事件をおこし、01年2月に実刑判決を受ける。2004年、433日に及んだ刑務所での生活を綴った『獄窓記』(ポプラ社/新潮文庫)がベストセラーに。新潮ドキュメント賞を受賞しドラマ化もされた。その後、刑務所生活において同所していた障害者たちの実情に迫った『累犯障害者』(新潮社/新潮文庫)を出版。現在は、ホームヘルパーとして介護福祉に携わる傍ら、執筆活動も続けている。今年、初の小説『覚醒(上・下)』(光文社)を刊行。

鈴木邦男●すずき くにお(評論家、一水会顧問)1943年福島県生まれ。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、産経新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して 「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に 『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)、『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)など多数。マガジン9では、「鈴木邦男の「愛国問答」」を連載中。

雨宮処凛●あまみや かりん(作家・活動家)1975年北海道生まれ。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『生きさせろ!難民化する若者たち』(太田出版)、『反撃カルチャー プレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。マガジン9では、「雨宮処凛がゆく!」を連載中。

本間 龍●ほんま りゅう 1962年、東京都出身。大学卒業後、大手広告代理店に約20年勤務。退職後の2006年、知人に対する詐欺容疑で逮捕・起訴され、栃木県の黒羽刑務所に約1年間服役。その体験をまとめた『懲役を知っていますか? 有罪判決がもたらすもの』 (学習研究社)で作家デビュー。刑務所を中心とした司法行政全般を研究するかたわら、「週刊漫画サンデー」(実業之日本社)にて連載、マスコミへのコメント、TV番組監修等で幅広く活動中。 ブログ「刑務所体験作家 本間龍の日記」で事件報道を中心にコメント中。著書に『転落の記』(飛鳥新社)、『名もなき受刑者たちへ「黒羽刑務所16工場」体験記』(宝島SUGOI文庫)

●第一部は、山本譲司さんが自身の服役を振り返りつつ、福祉施設と化した刑務所の実態を語りました。政策秘書給与流用で懲役1年6カ月の実刑判決を受けた山本さんは、府中刑務所(東京都)で、それまで抱いていた“犯罪者”のイメージを覆される最初の経験をします。

 「50人くらいの受刑者と一緒に、服役するための適正検査をうけたのですが、6〜7人は字の読み書きができない人でした。刑務官が『鉛筆持てー!!』と怒鳴っても、『え?』みたいな感じでいる。弱々しい目で、自分のことなんか見ないでくださいという顔をしている人が大勢いました」

 その後、黒羽刑務所(栃木県)に移送された山本さんは、「寮内工場」といって、障害や病気のある人だけが集められた工場で世話係を担当します。当時の黒羽刑務所は受刑者1750人を収容し、うち120人が寮内工場でした(第一・第二寮内工場それぞれ60人)。普通、刑務作業といえば家具を作ったり、封筒を貼るなどのイメージですが、まったく違う光景が広がっていたそうです。

 「寮内工場の受刑者は、簡単な部品の組み立てとバラし作業だけを、繰り返しやらされます。幼稚園児でもできる作業ですよ。でも、それさえ障害や病気のためにできない人が60人中20人もいる。強い向精神薬でむりやりおとなしくさせられる人もいました。そうした薬は筋肉を弛緩させ、失禁しやすくなりますから、私は毎日彼らの下の世話もしていました」

 社会一般には、“刑務所は不自由で誰も行きたくないところ”という共通認識があります。しかし、寮内工場においてはそう単純な話ではないようです。

 「受刑者仲間に、社会は自由でいいよと言ったとき、『ここは自由はないけど、不自由もない』と返されましてね。刑務所に受刑者の尊厳はないけれど、社会はもっと生きづらいと。仕事もなくて仲間もおらず、残飯をあさっては石を投げられる日々だったというのです」

 知的障害者も精神障害者も、本来であれば福祉が支えるべき人たち。それにもかかわらず、彼らが刑務所に入れられてしまうのは、社会のつながりが希薄になった結果であり、多様性を受け入れない風潮の表れであることが伝わります。山本さんによると、寄る辺のない障害者は、逮捕や裁判の時点から不当な扱いを受けているそうです。

 「寮内工場で出会った知的障害のある受刑者の話です。彼は、もともと父子家庭でお金がなく、夜ご飯はいつもスーパーの試食。ある日、お父さんが倒れて、試食品と商品の違いがわからなくて売り物のほうを食べてしまった。それで窃盗罪で逮捕。

 未成年者略取誘拐罪で服役していた別の受刑者は、発達障害があり、身寄りがありませんでした。罪名だけ聞くと大変な罪ですが、実際には公園の砂場で男子園児をだっこしただけです。ある日、公園で子どもが“高い高い”をされて喜んでいるのを見て、自分もやってみようと抱きかかえた。障害のために極端に自分の気持ちを伝えるのが苦手な彼は、無表情のまま黙っている。子どもは泣き出し、そばにいた母親が大騒ぎをして通報。迷惑防止条例違反で逮捕された。ここで、身元引き受け人がいれば、罰金を払って終わるのですが、彼のように一人きりの場合はむりやり罪名をつけて、刑務所に送られます。『子どもを抱いて移動した』という無茶苦茶な理屈で、未成年者略取誘拐罪になりました」

 山本さんは、最近の裁判が少年審判のようになってきたことに、危機感を感じています。
「ある知的障害者の受刑者は、裁判で自分が置かれている状況を理解できなかった。『反省しています』というお決まりの台詞がいえず、ニコニコして『おじちゃん、その黒い服かっこいいね!』と裁判官に近づいた。裁判官はのけぞって拒否反応を示しました。目の前にいる被告は、了解不能のモンスターであるという扱いです。彼は身寄りもなく、結局は軽微な窃盗罪でも、『反省が見られない』として実刑になりました。

 少年審判は、加害者が少年院に行くか保護観察処分にするかを決める場です。かなり重い非行でも、支えてくれる人がいれば保護観察処分で済みますが、軽微な罪であっても貧困だったり家庭環境が悪ければ、少年院に行かされます。最近の刑事裁判も、同じような判断が下されるケースが多くなっています」

 とはいえ、悲観的な話だけではありません。山本さんは出所後、福祉活動家として「NPOライフサポートネットワーク」を立ち上げ、身寄りのない出所者を一定期間保護する「更生保護施設」や、PFI (Private Finance Initiative)刑務所(民間のノウハウを活かした半官半民の新しいタイプの刑務所)の支援活動を行っています。山本さんがアドバイザーを務めるPFI型刑務所の「播磨社会復帰促進センター」では、知的障害や精神障害がある出所者に対し、社会生活で求められる基本的なスキルを極めて丁寧にレクチャーしています。

 「ソーシャルスキルトレーニングの専門家が『人にものを頼むときは、申し訳ありませんがと前置きするといいですよ』などと丁寧に教えます。プロのクラウン(ピエロ)が講師になり、声を出して笑うなど感情を表現する練習もあれば、アニマルセラピーで犬に命令するのもトレーニングの一環。障害者は、誰かに命令されることはあっても、自分でしたことはないからです。犬に命令して言うことを聞かせることが成功体験となり、受刑者の自尊心を育みます」

 山本さんは今、国会議員時代を振り返り、「福祉はライフワークだなんて言っていたけれど、まったく現実を分かっていなかった」と、深く反省しているそうです。講演の最後に、「一番困難な人に手を差し伸べることで社会全体が救われる」と締めくくると、会場からは大きな拍手があがりました。

●第二部は、鈴木邦男さん、雨宮処凛さんを交えた三人のトークセッションで始まりました。鈴木さんが山本さんに出会ったのは05年、大阪で開催されたアムネスティ・インターナショナルのシンポジウムだったそうです。一方、雨宮さんは、08年の朝日ニュースター(テレビ朝日)の収録が最初の出会いだったとのこと。

 鈴木さんは、刑事訴訟法のあり方について、山本さんに問いかけました。

 「昔は70歳以上くらいの高齢者は、罪を犯しても懲役刑にならない暗黙の了解があったと聞いたことがあります。共犯で女性が捕まったときも、だいたい甘かったとか。ところが最近は高齢者や女性の受刑者も増えていると言います。彼ら、彼女らの権利が認められてきたからでしょうか」

 第一部の講演は、受刑者が適切なケアを受ける権利について考えさせられる内容でしたが、一方で裁判や刑罰を受けることも一つの“権利”なのです。
 「96年に削除された刑法40条は、いん唖者(出生時または幼少時からの聾唖者)の罪を問わないか、軽減することが書かれていました。精神疾患のある人や心神喪失状態だった人は、精神鑑定や裁判などの手続きを踏んで罪が軽減されますが、いん唖者はそれもなかったのです。しかし、当事者たちから『私たちにも裁判を受けさせてくれ』という声があがりました。96年の法改正で、カタカナだらけの条文を読みやすく修正すると同時に、40条も削除されました」(山本さん)

 雨宮さんは、刑務所の福祉施設化と最近の生活保護バッシングとの共通点を指摘しました。山本さんが服役していた当時、府中刑務所の受刑者は15%が知的障害者か精神障害者。20%が身体障害者、15%がその両方がある人、20%が高齢者で約80%は福祉が必要な人だったそうですが、生活保護の構図と似ているというのです。

 「生活保護受給者の42%くらいは65歳以上のみの高齢者世帯。35%は障害者世帯・傷病者世帯で、合わせてほぼ80%。府中刑務所と同じですね。そうした人たちは、生活保護を受けられないとしたら、自殺・ホームレス・刑務所しか道がないと言われています。究極の選択ですよね。しかし、生活保護につながったことで住所を持ち、仕事が見つかる若い人もいます。社会は生活保護切り捨ての方向に向かっていますが、完全に誤っていると思います」(雨宮さん)

 この意見に山本さんも賛同。単純にコスト面から考えても、生活保護の切り捨ては合理性がないようです。

 「刑務所の収容にかかる経費は、一人当たり年間約300万円。障害者はおそらく500万くらいかかっています。医療費だけでも相当かかっているはずです」(山本さん)

 この状況を変えるには、どうしたらいいか? 山本さんは、関西地方を中心とする先駆的な事例を紹介しました。

 「大阪府吹田市では、出所者を半年間、臨時職員として雇用する制度をつくっています。また、兵庫県は、刑務所にいるうちに受刑者が企業の採用面接を受け、出所と同時に就職できる制度があります。給料の一部として15万円×4ヶ月の補助金が出るため、手をあげる企業が増えています。兵庫県がこのような制度を始めたのは、生活保護よりコストが安いという側面があるからです」

 トークセッションの後半には、自身の服役生活を綴った『転落の記』(飛鳥新社)が出版されたばかりの本間龍さんも参加しました。本間さんは、詐欺罪で山本さんと同じ黒羽刑務所に服役し、寮内工場(現・第16工場)を担当。出所から4年が経った今の生活を語りました。

 「元住んでいた住所の住民票は、服役中に抹消されていました。結局、実家の世話になっていますが、就職先は見つかりません。出所後、就職試験を受けて二つの会社から内定をもらいましたが、正直に前科があることを話すと翌朝電話で『今回はご縁がなかったってことで』というパターンです。ハローワークでは、前科は隠して就職するように言われるけれど、それではその先もずっと嘘をつくことになるので、いやだったんですね。自立するために企画書を書いて出版社に送り、幸運にも通していただけました」。

 刑務所に服役することの重さや、出所者を支える環境の手薄さ、社会における人々の目の厳しさなどが伝わります。山本さんらの体験や活動を通して見えてきたのは、弱者を排除しない寛容な社会、そして「社会的包摂」の重要性でした。

 ほかにも、山本さんをはじめゲストのお話には、普段聞けない情報がいっぱいで、会場全体が「もっと聞きたい」という空気のまま予定時間をオーバー。参加者からの質疑応答やサイン会も盛り上がった、マガ9学校でした。

koe

●アンケートに書いてくださった感想の一部を掲載いたします。(敬称略)

福祉施設としての役割を担うようになった刑務所を見て、社会における福祉政策の弱さを目の当たりにした気がしました。福祉政策をもっと充実させていけるようになるのがむろん理想ですが、現代の財政状況や生活保護などに対する政府の立場を考えると福祉の充実は難しいのかなと思いました。根本的な解決をするためには、社会全体が変わることが必要なのかもしれませんが、我々が個人として出来ることは何かないのだろうか、と思いました。(川村優)

刑務所内部の話など、聞く機会がこれまでまったくなかったので、とても面白かったです。また現在の日本社会の縮図として勉強になりました。(加茂田陽一)

見て見ぬふりが当たり前になっていると思う社会で、また一つ開眼させていただきました。地道にやっていくという言葉にとても共感しました。(渡部秀夫)

刑務所のこと、福祉のこと、生活保護のこと。今まで知らなかったことがいろいろ聞けて、目からウロコでした。(佐藤おくみ)

自分の眼にいかに分厚い色眼鏡が貼り付いているかを痛感させられました。山本さんが強調したように、「社会のあり方」の問題なのですね。そこをしっかり見つめ、考えていかなくてはと思いました。(池上仁)

有意義で楽しめ勉強になりました!! 今日みたいな世間に知られていないことを知りたいです。(牧山摩都子)

自分の知らなかった刑務所について大変勉強になりました。来て良かったです。(川本じゅんき)

お話は面白かったと思う。著書では見えなかった話(情報)も得られた。(森正樹)

福祉の硬直性を掘り起こすようなダイレクトな話にびびりました。(匿名希望)

介護福祉養成校の学生です。山本さんのおっしゃるADLに対する支援、ぬるい福祉しか学校では教えてもらえません。カリキュラム以外で、社会から取り残された人への福祉について、介護職のための講座が必要だと思いました。(匿名希望)

とても素晴らしくて感動しました。考えさせられる貴重な講座でした。ありがとうございました。(匿名希望)

私自身、いろいろと知らなさすぎだなと思いました。福祉のことも含めて、色々勉強して表現していかないと、と思いました。(匿名希望)

我が身に引きつけ(身元引受人になる人がいない)、興味深く伺いました。(匿名希望)

3月まで地方公務員でした。福祉の仕事に従事したこともありましたので、興味深く聞かせていただきました。勉強させていただきました。(匿名希望)

福祉の理想とはほど遠い現実を知りました。隠された場で行われている事を知ることができたのは、とても有意義でした。(大学では福祉を学んでいますが)わりときれい事ばかりを教わるので、疑うことを知ろうと思います。難しい問題だと思うので、考え行動していかなければならないだろうと思いました。(匿名希望)

以前、こちらのマガ9学校で、大野更紗さんから「福祉がひどい事になっている日本」との言葉がありましたが、今回のお話を聞かせて頂いて本当にあらためて実感しました。〈はみだせない不自由さのある日本〉と言った感想をもちました。(匿名希望)

 

  

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