マガ9学校やりました。

2013年3月23日(土)14:00~17:00
@カタログハウス本社 地下2階セミナーホール

世界にもし100通りの「平和」があったら~それでも、9条の「非戦」は有効か?~ 講師:伊勢崎賢治さん&伊勢崎ゼミ生/ゲスト:池田香代子さん

リビア、シリア、そしてマリ…。世界では「平和」や「人道」の名の下に武力攻撃を正当化する新たな潮流が生まれています。日本国内でも、自民党政権が復活し、集団的自衛権の行使容認や国防軍創設の動きがあります。9条が掲げる「非戦の平和観」が大きく揺らごうとしている今、日本人にとっての「平和」は国際社会から見るとどう映るのか、考えるべき時期に来ているのではないでしょうか。東京外大で平和構築を学ぶ学生の発表を元にしながら、伊勢崎さん・池田さん、そして来場者の皆さんと一緒に語り合いました。

伊勢崎賢治●いせざき・けんじ 1957年東京生まれ。大学卒業後、インド留学中にスラム住民の居住権獲得運動に携わる。国際NGOスタッフとしてアフリカ各地で活動後、東ティモール、シェラレオネ、アフガニスタンで紛争処理を指揮。現在、東京外国語大学教授。紛争予防・平和構築講座を担当。著書に『東チモール県知事日記』(藤原書店)、『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)、『伊勢崎賢治の平和構築ゼミ』(大月書店)、『国際貢献のウソ』(ちくまプリマー新書)、『紛争屋の外交論―ニッポンの出口戦略』(NHK出版新書)など。

東京外国語大学伊勢崎ゼミ生● 伊勢崎先生のもとで平和構築について学ぶ東京外国語大学3年生&4年生。大学で専攻する言語や分野はさまざま。それぞれの専門を活かしつつ、昨年から世界各国の平和教育の現状、その歴史的背景などについて研究を進めてきた。

池田香代子●いけだ・かよこ 作家・翻訳家。専門はドイツ文学翻訳・口承文芸研究。ベストセラーとなった『世界がもし100人の村だったら』の再話を手がけた。その印税で「100人村基金」を設立し、難民申請者の支援などにも取り組んでいる。訳書に『夜と霧 新版』(みすず書房)、『飛ぶ教室』『ふたりのロッテ』(ともに岩波書店)、『ソフィーの世界』(日本放送出版協会)、著書に『11の約束-えほん教育基本法』(共著、ほるぷ出版)などがある。世界平和アピール七人委員会メンバー。

 第一部は、東京外国語大学平和構築ゼミ(伊勢崎ゼミ)生によるプレゼンテーションから始まりました。日本、中国、南アフリカ、アメリカなど13ヵ国について、現地で使われている教科書を取り寄せたり、それぞれの国の人にアンケートを取ったりしながら各国の「平和」観について調査した結果報告です。

 例えば日本の教科書では、歴史について柔らかい言葉で淡々と記述されており、出版社によって差はあるものの、被害者からの視点に比重を置いて書かれている傾向があるとのことでした。

 一方、中国には日本人がイメージするような平和教育の概念はなく、それに代わって「愛国教育」が行われているそうです。中国兵士の戦いは祖国を守り、共産主義を守るためであると教育されているとのことでした。

 南アフリカでは、2005年にカリキュラム変更があり、従来の「何を教えるか」を重視するトップダウン方式から、「生徒が何を学んだか」を大切にするアウトカム方式の教え方に変わったという報告がありました。教科書は、過去の出来事を一方的に教えるのではなく、インタビューや調べ学習などを通して子どもたちが多角的に考えられるようになっています。テーマとして「なぜアパルトヘイトは間違っていたのか」などが盛り込まれているそうです。

 アメリカについては、インターネットでアンケートを取った結果が報告されました。「平和と聞いて何を考えるか」という問いには「全ての人と協調して暮らすこと」「ガンジー、ジョン・レノン、キング牧師」などの答えがあがっています。また、「何が平和を脅かすと思うか」については「強欲、資源争い(石油や水)」「不平等、無知」などがあげられました。

 実物の教科書と、豊富な資料を紹介しながらのプレゼンテーションは、一口に「平和」といっても各国の歴史的背景や政治事情によって意味合いが異なることを、しっかりと印象づける内容でした。

 第二部は、伊勢崎賢治さんと池田香代子さんの対談です。

 冒頭、池田さんは「国によって『平和』という概念がこんなに違うんですね。ある国によっては抑圧されないこと。またある国では人々がわかり合うこと。”二度生まれ”という言葉がありますが、それぞれ国の平和は、過去の悲劇を踏まえたそれぞれのかたちがあると感じました」と、学生たちの発表について感想を述べました。

 ”二度生まれ”という言葉には伊勢崎さんも共感し、「独りよがりの『平和』は敵を作ってしまう」として独立後の東チモールのケースを紹介しました。

 「すべては平和と国民の和解のために、東チモールでは言論の自由が抑圧されていす。国家としての独立こそが平和で、独立に反対する歴史的解釈や政治的な行動は許されません。(旧宗主国である)インドネシアに親和的な思想は排除されます」

 また、池田さんはドイツの平和教育について解説してくれました。ドイツの教科書は国定ではなく、州によって異なるそうです。歴史や倫理社会の教師がカリキュラムを作り、かつてナチスが行ったことについて徹底的に教えるとのことでした。日本の子どもたちが修学旅行で広島や長崎に行くように、ドイツでは収容所の見学に行く授業があるそうで、「泣き崩れる生徒や、反発をため込む生徒もいます」と池田さん。こうした教育の背景には、戦後のドイツのあり方が深く関わっており、次のように説明してくれました。

 「戦後、ドイツは国家ではなく個人レベルで補償する法律を作りました。最初の対象はユダヤ人。同じように収容所に入れられたロマ、同性愛者、兵役拒否者、脱走兵、反戦運動をした人々というふうに対象を広げ、今もその過程にあります。ドイツの歴史はナチスの時代の清算に費やされてきたのです。国内では(教育について)『そこまでする必要があるのか』という声もありますが、そうした世論を抑えるためにもナチスが何をしたのか教育しているのではないでしょうか」

 伊勢崎さんが、最近、東京の新大久保で起きているヘイトスピーチについて「もし、ドイツだったら警察に捕まるかな?」と質問すると、「民族差別やナチスに賛同する行動は、反ナチス法で禁止されています」(池田さん)とのことでした。

 かつてアフガニスタンで武装解除に携わった伊勢崎さんからは、現地の教育についても言及がありました。過激思想が広がり、もともと清貧な人たちが「テロリスト」になっていく要因の1つは経済的な困窮ですが、もう1つは教育のあり方にあるそうです。

 「今のアフガニスタンには、学校がないかあっても機能していないため、多様性のある価値観が育まれません。イスラム教がよくないという印象は絶対に与えませんから、アザーライゼーション(otherization)、つまり他者を”やつら””あいつら”と区別する排他的思想が許される世論が形成されます」

 お互いの国の歴史的背景や、平和の概念が違うこと。それを念頭において対話することの大切さを強調して、対談は終了しました。

 その後は、来場者が7~8人のグループに分かれてディスカッションを行いました。学生たちのプレゼンテーションや、伊勢崎さんと池田さんの対談で感じたことなど議論は盛り上がり、あっという間に規定の時間が過ぎました。

 また、最後の質疑応答では会場に来て下さった鈴木邦男さんにもコメントしてもらいました。鈴木さんは、伊勢崎さんが話したアザーライゼーションに関連して「正義だけを追求すると戦争になります。日本でも小さな島を巡って『戦争をしてでも正義を守れ』という人が大勢いますが、私は正義より平和。誇りある戦争より、奴隷の平和がいい」と述べました。

 各国の平和観がどのように作られていったのか? を学ぶことは、日本の平和観についても見つめ直す良い機会となりました。北東アジアをめぐる緊張はかつてないほどに高まり、「次の参院選は、憲法改正を焦点に」という政治家の発言も聞こえてきています。私たち自身は「日本の平和」をどうしていきたいのか? まさに今、改めて考えるべき時がきている、と感じさせられた「マガ9学校」となりました。

koe

●アンケートに書いてくださった感想の一部を掲載いたします。(敬称略)

勉強になったというより、自分の考えをまとめるための参考にとてもなりました。グループトークも、いろんな人がいて、日本人と一口に言っても考えは当然違い、それぞれの意見があることが分かって面白かったです。私は参加者の中で、かなり無知な”普通の一市民”代表ですが、その立場からもとても理解(”平和への融和”)を深める良い機会になりました。(匿名希望)

他の国が日本のような平和観を持ちたくても持てる環境にないことを知り、目からうろこでした。(匿名希望)

世界の平和教育の違いはとても興味深く勉強になりました。改憲を防げそうにないのは大変残念です。私も、日本が世界に平和を広げていくことが、国益であり安全保障であると考えますし、真の戦争への反省となると思っております。(善養寺ススム)

学生さんの発表は考察の点で疑問点もありましたが、調査報告は参考になりました。両講師、鈴木さんの話も勇気づけられる思いでした。(匿名希望)

各国の平和観が知れて、いかに教育やメディアが与える影響力が大きいか再認識させられた。ドイツの戦後教育と憲法における反ナチスの徹底ぶりを知ることができてよかった。日本も被害者としてだけでなく加害者としての視点を初等教育で教える必要があるのではないかと思いました。(匿名希望)

学生さんたちのプレゼンは13カ国ものケーススタディを提示してくれ、大変興味深いものでした。そのまとめについての池田さん、伊勢崎先生の話をもっと掘り下げた形で聞ければよかったです。(匿名希望)

平和観の比較についての学生の研究発表が、本当に勉強になった。(匿名希望)

学生さんの調査と発表、とても興味深かったです。外大ならではの凄い企画だと思いました。トークセッションの内容に合わせ、中東国も取り上げれば面白かったのでは?(並木麻衣)

もりだくさんの情報で消化しきれなくて頭が痛くなった。現在自分が関心を持っていることについて、話し合える人たちに出会えたのもよかった。(匿名希望)

少し話がとっちらかっていた印象。副題の<9条の「非戦」は有効か?>ということにもっとフォーカスできたらよかったと思います。(山本耕平)

世界各国の「平和」について興味深いお話が聞けてよかったです。日本人が考える平和観が普遍的なものであると考えるべきでないと思いました。また、過去の歴史認識を多角的に行うべきだと感じました。(匿名希望)

とてもためになりました。今後の日本の歩む道を考える一つの指標にしていきたいと思います。(小山森生)

学生さんたちの発表、非常に分かりやすくポイントを押さえていて、今日来て本当によかったです。まとめの内容はだいぶ挑戦的でしたが(笑)。せっかく<それでも9条の「非戦」は有効か?>という副題があるので、9条というキーワードを交えてほしかったかも。何でも真剣に考え込むより、ちょっと茶化しも入れつつ、現実的な落とし所を見つけられるようにしたいなあと思いました。(匿名希望)

 

  

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