マガ9学校やりました。

2015年11月21日(土)14時~17時
@新宿NPO協働推進センター

2016年夏の参院選の結果次第でいよいよ現実味を帯びてくる、安倍政権による憲法改正。改憲にあたっては、国民の反対が根強い9条ではなく、支持を得やすいものから「お試し改憲」をしていくといわれています。その手始めに着手されそうなのが「緊急事態条項」や「家族の絆」条項。災害時の対応をスムーズにするための条項や、家族の大切さを提示する条項なら「追加・改正してもいいのでは?」と思いがちですが、実はこれらの条項は注意深く見ていくと、とても支持できるものではないのです。よくわからないまま国民投票にかけられ、政権に都合のいい国民像がつくられていく。そんな事態にさせないために、改憲草案のねらいを知り、その上で私たちはどう行動すればよいかを考えました。

小口幸人●おぐちゆきひと1978年生まれ。東京都町田市出身。中央大学卒業後、電機メーカーのトップセールスマンとなるも、弁護士を志し退社。2008年に弁護士登録。東京勤務を経て、司法過疎地である岩手県宮古市の「宮古ひまわり基金法律事務所」三代目所長として就任。同地で東日本大震災に遭い、全国初の弁護士による避難所相談を実施。被災者支援・立法提言活動に奔走するとともに、困難な刑事弁護事件も多数扱う。

打越さく良●うちこしさくら2000年に弁護士登録。専門分野は離婚等家事事件。特に、DV被害者や虐待を受けた子どもの支援に熱意を持っている。日弁連両性の平等委員会・同家事法制委員会委員。都内の児童相談所の非常勤嘱託弁護士。別姓訴訟弁護団事務局長。事務所の弁護士等とジェンダーに関する裁判例を集めるサイト「Gender and Law」を運営。近著に『レンアイ、基本のキ――好きになったらなんでもOK?』(岩波ジュニア新書)、『なぜ妻は突然、離婚を切り出すのか』(祥伝社新書)。

元山仁士郎●もとやまじんしろう1991年生まれ。沖縄県宜野湾市出身。国際基督教大学・教養学部4年生。「SEALDs」(自由と民主主義のための学生緊急行動)の中心メンバーとして活動に参加し、沖縄では基地問題について考えるきっかけをつくろうと、バスツアーなどを企画する学生グループ「ゆんたくるー」を発足。今年の終戦記念日には、「SEALDs RYUKYU」を立ち上げて、若い世代が一人ひとり考えて、行動できる場を目指して活動する。

 

第1部「お試し改憲、そのねらいは?」
小口幸人さん/打越さく良さん

 まずは小口さんによる「緊急事態条項」についての解説です。小口さんは、大学卒業後メーカーに勤務しましたが、世の中の不合理なことを減らしたいと志して弁護士に。そうして岩手県宮古市の「宮古ひまわり基金法律事務所」三代目所長として就任した1年後に東日本大震災に遭遇、避難所での法律相談などに奔走した経験を持ちます。災害などの非常時における「緊急事態条項」の問題点を、大災害の現場を熟知している専門家ならではの視点でわかりやすく説明してくれました。
 小口さんが最初に示したのは、来年の参院選で自公ほか大阪維新の会などの改憲賛成派が79議席をとれば、参議院の全議席(242議席)の2/3(162議席)に到達してしまうということ。憲法改正の発議には衆参両院で総議員の2/3以上の議員の賛成が必要ですが、自公の参議院の非改選の議席が76議席あるため、こういう結果になるのです。「いよいよ憲法改正が迫っているんです」との小口さんの指摘に、あらためて今度の参院選の重要性を認識させられました。
 それでは安倍政権が新たに憲法に追加しようとしている「緊急事態条項」とはどのような内容なのか? たとえば災害、戦争などが発生したら、内閣総理大臣が非常事態を宣言。宣言後は、内閣が法律と同一の効力を持つ政令を制定することができるというものです。それによって「さまざまな基本的人権保障に対する縛りをなくすのが、安倍政権のねらい」と小口さんは解説してくれました。

 私たちは「緊急事態条項があれば、大災害が起きたときにも政府が迅速に対応できるからいいんじゃない」と思いがちです。しかし小口さんによると「わざわざ憲法に付け加えなくても、災害対策法や災害救助法といった法律で、災害時には内閣や首長に権限を付与することがすでに定められているんです」。さらに「必要性・弊害・濫用のおそれ」といった3つの観点から見ても、緊急事態宣言で総理大臣に大きな権限を与えることは、「かえって現場の混乱を生じさせたり、重大な情報の隠ぺい、過度な人権の制限も起こりかねない」と言います。「災害でも、戦争でも、テロでも、いざというときのために大事なのは憲法改正ではなく、事前の準備。きちんと被害想定をして避難計画を立て、訓練をしておくべきです」というのが小口さんの結論です。
 災害大国の日本では、過去の幾多の震災の経験を踏まえ、災害対策のための法律がたくさん成立しています。にもかかわらず「緊急事態条項」を憲法に新設しようとするのは、国家に強大な権限を集中させるため。「お試し改憲」どころか、大きな危険をはらんだ内容であることがわかりました。

当日資料「災害対策のために 緊急事態条項を創設する 憲法改正は必要か」

 続いて、打越さんの「家族の絆」条項のお話です。安倍政権は憲法改正にあたって国民の支持を得やすいものから着手するとして、24条の改訂もあげています。これがいわゆる「家族の絆」条項です。そのほんわかとした響きからも「変えても別にいいんじゃない」と思ってしまいそうですが、打越さんは「大間違いです」と断言します。
 はじめに「24条は9条と比べてあまり読まれていないかもしれません」とのことで、現憲法の条文が紹介されました。

「1項 婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2項 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」

 これを自民党改憲案では、1項を新たにつくり「家族は互いに助け合わなくてはならない」と記して、「家族」を強調しています。また、現行憲法1項の「両性の合意のみ」の「のみ」を削除し、2項の「配偶者の選択」「住居の選択」といった「選択」に関わる文言を削除するなどの細かい変更がなされています。
「この自民党の改憲案を読んで何かを思い出しませんか?」と打越さん。「明治民法において親族編相続編の基幹となった『家制度』を想像させます」と指摘します。家制度のもとでは、男性の戸主が強力な権限をもつ一方、女性は〝無能力者〟とみなされていろいろな相続権や選択権が与えられていませんでした。
 そんな差別的な家制度も、戦後公布された憲法の24条には合致しないため、1947年の民法改正によって廃止。打越さんは、憲法24条の起草に尽力したベアテ・シロタ・ゴードンさんの思いや、当時の国会司法委員会の説明などに触れて、「個人の尊厳と両性の本質的平等」に即して民法が改正された経緯を説明してくれました(夫婦同姓など徹底は不十分でしたが)。
 しかし、自民党改憲草案は、憲法24条の掲げる「個人の尊厳と両性の本質的平等」を「単位としての家族」に劣後するものとして、実質的に無化しようとしているようです。打越さんは「世界の趨勢は、家族を尊重するのは社会や国家。それも、家族のありかたを固定的にとらえず、多様なものとして尊重しようとしています。ところが、自民党改憲草案は真逆。家族を尊重するのは、「単位」たる家族の「構成員」である私たちのようです。となると、私たちは、個人としてより前に家族の中での役割、特に女性たちは妻や母として、家事育児子育ての責任を負え、ということです。性別分業型家族をあるべき理想的な家族像として、その家族がしっかりすることが国を支える、というのです。社会保障を家族で担えという目論見もすけています。家族を国が支えるのではなく、家族が国を支える、という考え方です」と言います。
 最後に、打越さんが弁護団事務局長を務める夫婦別姓訴訟(12/16最高裁大法廷判決)についても触れて、「まだまだ両性の実質的不平等は放置されていることも多い。24条の徹底が今後も必要なことを知っていただきたいと思います」と締めくくりました。

当日資料「憲法24条の見直しとは?」

第2部「いま、動き出すことの大切さ」
元山仁士郎さん

 第2部では、小口さん、打越さんのお話を受けて「いま、私たちにできること」を元山さんに話してもらいました。元山さんは、この夏国会前での抗議活動で注目されたSEALDsに参加するほか、ゆんたくるー、SEALDs RYUKYUといった団体の立ち上げにかかわっています。安倍政権が人権や個人の尊厳をないがしろにする体制づくりを着々と進めているなか、それに反対するために一人ひとりが何をすべきか、何ができるかを語ってくれました。

 沖縄県宜野湾市出身の元山さんは、周囲に基地があって戦闘機の音が聴こえるのは当たり前だと思って育ったそうです。しかし大学進学のため東京で生活をしてはじめて疑問を感じ、「沖縄の歴史を学ぶようになった」と言います。やがて東日本大震災が起きて、原発事故に衝撃を受け、脱原発デモに参加したことから、元山さんの活動が始まりました。
 その後、96条改正の動きが出たときに大学の友人と勉強会を開いたり、学者を講師に呼んでシンポジウムを催したりしました。そして2013年12月に特定秘密保護法が成立。奥田愛基さんら、ほかの大学の仲間とSEALDsの前身SASPL(特定秘密保護法に反対する学生有志の会)を2014年1月に立ち上げました。さらに2015年春には辺野古新基地建設のための海上作業再開が強行されたのを受け、出身地沖縄で地元の学生たちとともにゆんたくるーを結成。続いてSEALDs RYUKYUも仲間と発足させました。
 元山さんは「沖縄では若者は基地反対の声を上げにくい」と実情を語ってくれました。そのため「反対でも、賛成でも、とにかく辺野古に行ってみんなで話をする」場をつくるために、ゆんたくるーの活動を始動させたのだそうです。そうして集まった若者の中から、政権の民意を無視した対応を見るにつれて「反対の姿勢を出そう」との意見が出てきて、SEALDs RYUKYU設立にいたったのだそうです。いまは辺野古の新基地建設が象徴となっているように、民主主義、立憲主義、平和主義、基本的人権がおびやかされているので、「一人ひとりが、どんどん行動していく必要がある」とも言います。最後に、SEALDsが制作した戦後民主主義の誕生から現在にいたるまでの心揺さぶられる動画が流れ、会場から大きな拍手がわき起こりました。
 元山さんは「おかしい」と思ったら、まず一人で考えて、勉強して、身近な友だちと話して、行動に移しています。とてもシンプルなことですが、考えて、学んで、話して、動く。SEALDsのスピーチを聞くと、「最初は一人でデモに行ってみた」と言う学生が何人もいます。望まないかたちの国や社会にしないためには、個人が一歩を踏み出すことから始めるしかないのではないかと考えさせられました。

第3部「トークセッション」
小口さん×打越さん×元山さん

 3人のトークセッションでは、おたがいに質問したり、意見を述べ合って盛り上がりました。
 会場からは、元山さんに対して「子どもの貧困が増加している。SEALDsの学生は恵まれていると思うが、SEALDsの学生たちのように勉強して、知見を得るところまでたどり着けない若者もいる。そういう人も一緒に活動していくには、どうすればいいか?」との質問がありました。
 この質問に、元山さんは「SEALDsは高等教育を受けている大学生が中心なのは事実。だけど、奨学金を抱えている学生も多いし、働いている人もいるし、非正規雇用の人もいる。彼らの〝大変なんだ〟という話を聞いて、どうしたら彼らがそんなにつらい思いをしないですむ社会になるのか、そこまで考えてやっています」と答えてくれました。
 小口さんは、元山さんに続いてこう述べます。「デモがどうして世界中で民主主義の表現方法になっているかというと、そこにいるだけで意思表示できるから。法律や制度の難しいことを理解して行動できる人は限られるけれど、十分に理解できなくても参加できる方法だから昔から続いているんです。はっきり言って、憲法改正は王手まできています。それを守るのは私たち主権者です。だれもが自分たちの人権を守らなければならない状態まできているんですよと、言いたいですね」。
 打越さんも「フェイスブックで友だちと両性の平等などについて発信していると、いまの危機的状況は共通認識になっている。だけど、政治や社会に興味のない人も多いし、日常生活は劇的には変わらず日々続いていくから、何となく流されてしまいかねない。たぶん戦争の前もこういう空気だったんだろうなと思います。まだ個人が動いてできることはいっぱいあると思うので、私も諦めないでがんばります」。

 今回のマガ9学校で、改憲草案のねらいについて詳しく聞いて、安倍政権には憲法を絶対に改正させてはいけないと再認識しました。今度の参院選は、大きな正念場になりそうです。来年夏にむけて、こうしたマガ9学校や各種のイベント、デモにも、一人でも多くの人が足を運んでぜひ行動につなげてほしいと切に思いました。

koe

●アンケートに書いてくださった感想の一部を掲載いたします。(敬称略)

お試しとはいうけれど、緊急事態条項が通ってしまったら、すでに骨抜きにされた9条だってもう変える必要はなくなってしまうくらいなので、ホントーーに、あと8カ月がむしゃらにならなくては日本はお終いだ、と痛感。また、自分の言葉で真剣に語る、という元山君の発言にSEALDsの強さの素を知った思いです。読書や勉強を重視している点も、反知性主義に抗っていて素晴らしい。(中矢理枝)

「これからの自分の歩み」へのヒントをいただいた。マスコミ(テレビや新聞、ネット)で情報を得ることが多いので、実際にお話を聴き、真実や今起きていることなどを知り、また今後について考えることができた。(匿名希望)

自民の改憲はまさしく戦前の復活であり、とても許せないなと思った。(匿名希望)

憲法改正の問題について、何がどのように問題なのかわかりやすく解説していただき、ありがたく思いました。元山さんの活動についてのご報告も非常に共感もでき、感銘を受けました。(匿名希望)

緊急事態条項で支配できる体制が強化されるのは恐ろしいなと感じた。また、24条の話では、LGBTの立場や家族のいづらさが息苦しいと感じた。ゆんたくみたいな場がうらやましい。(匿名希望)

改憲の動きについて整理することができてよかった。元山さんの話を聞いて、身近な活動の広げ方のヒントをもらいました。(匿名希望)

 

  

※コメントは承認制です。
第38回
このままいくと、あなたもわたしも「非国民」!?
改憲草案のねらいと、沖縄から学ぶこと
」 に1件のコメント

  1. @kazenosaburou より:

    「沖縄では若者は基地反対の声を上げにくい」と実情を語ってくれました。と、ありますが、どういうことで若者は反対の声をあ上げにくいのでしょう。

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