マガ9学校やりました。

2014年1月31日(金)19:00~22:00
@ネイキッドロフト

2014年に入って初めてのマガ9学校は、これまでと場所をかえて新宿ネイキッドロフトで開催。マガ9の連載でおなじみの雨宮処凛さん、僧侶であり自殺や貧困問題に取り組む中下大樹さん、また福島県いわき市から都内に自主避難をしているママシンガーのYukariさんをお迎えして、3・11を振り返りながら、避難者の現状を語り合いました。途中、鈴木邦男さんと、参議院議員の山本太郎さんが飛び入りゲストとして参加。直後に行われる都知事選のことにも話がおよび、会場は大いに沸きました。

雨宮処凛 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。→ブログ

中下大樹 1975年生まれ。真宗大谷派僧侶。大学院でターミナルケアを学び、真宗大谷派住職資格を得たのち、新潟県長岡市にある仏教系ホスピス(緩和ケア病棟)にて末期がん患者数百人の看取りに従事。退職後は東京に戻り、超宗派寺院ネットワーク「寺ネット・サンガ」を設立し、代表に就任。「駆け込み寺」としての役割も担う。在宅ホスピスケアに関わりつつ、自殺問題や貧困問題、孤独死問題等、「いのち」をキーワードにした様々な活動を行っている。→ブログ

Yukari 福島県いわき市出身のママシンガー。地元のピアノバーにて専属歌手として活躍。レストラン、病院、イベントなどのコンサートに出演。東日本大震災で被災し、子供たちとともに東京に避難。しばらくの間、音楽活動の休止を余儀なくされる。2012年、音楽活動を再開、神奈川県、都内などでのコンサートに参加。2013年4月初めての作詞作曲のオリジナルアルバム『My Life』を発表。ライブ活動、ソロコンサート、学校での講演など、精力的な活動を行っている。→ブログ

武藤さとみ ジャズピアノを青木弘氏に師事。都内近郊ホテルのラウンジ、バーで演奏していたのが事の始まり。幅広い音楽性で、ジャズに限らず独自の世界を繰り広げている。アルバム『My Life』でYukariと共演。編曲も務めている。

 第一部は、中下さんと雨宮さんのトークセッションです。もともと自殺や貧困問題にかかわってきた中下さんは、3・11後、僧侶として被災地をまわりました。日記によると、年間150~200日も福島に滞在していたそうです。そこで見たことのうち、どうしても伝えたいこととして「遺体の搬送をしていた消防団員や自衛隊員たちがPTSD(心的外傷後ストレス障害)になっている。遺体を見過ぎたからだ」と話しました。そして今、安倍政権は集団的自衛権の行使を容認しようとしていますが、紛争の最前線に行かされる若者が心身を病むことが懸念されるそうです。「イラク戦争に行ったアメリカ兵は、現地で亡くなった人より、帰ってから(PTSDで)自殺した人のほうが多い。今後、日本もそうなるだろう」。まさにこの日のテーマである「サバイバル」が現実になりかねないことを感じさせます。
 雨宮さんも、震災後に福島に足を運んでいます。タクシーに乗った際、ドライバーが話していたことが印象に残ったそうです。同じ福島県民でも、住んでいた場所によって補償金の有無、金額が異なり、県民同士で「あの家は1人10万円、合計40万円ももらっている」などと言い合っている。その事実に「補償金は減額され、原発事故に対する関心も下がっているのに、バッシングだけが強まっている」と雨宮さんは感じたそうです。
 また、雨宮さんは被災地におけるジェンダー問題も垣間見たそうです。「除染やがれき処理に行く男性の弁当作りを、なぜか全部女性がやらなければならない。女性も働きにいきたいけれど働き口がない。都会から来た人がそれを問題化しようとすると、『波風たてないでくれ』と言われた」という厳しい状況があります。家庭によっては今も家父長制が残っており、行政などが支援しようにも「おじいさんが『(他人の)世話になるなんて恥ずかしい』と言って、その結果子どもや女性が大変な思いをしている」と雨宮さんは語りました。
 原発事故は、被ばくによる身体的な危険性があるだけでなく、住民同士あるいは家族内の関係性を分断します。中下さんは、「最後まで避難所にいるのは、身よりのない人たち。家族のつながりを強化しろと言うつもりはありませんが、“第4の縁”は持った方がいい。家族でもない他人でもない、ゆるやかなつながり。それが生き延びるキーワードかな」と話し、雨宮さんも大きく賛同して第一部は終了しました。

 第二部は、福島から都内に避難しているジャズシンガーのYukariさんのステージです。力強く、情熱的な歌声に、会場からは大きな拍手が湧きました。

 続く第三部は、雨宮さん、中下さん、Yukariさんに加え、福島県いわき市から都内に自主避難している鴨下祐也さんと美和さんご夫妻によるトーク。飛び入りゲストとして山本太郎議員、鈴木邦男さんも参加して、日本や福島の現状について語り合いました。
 鴨下美和さんは、都営住宅で避難生活を送っていますが、来年3月末でその滞在期限が切れることへの不安を訴えました。「自分たちが避難している都営住宅とは別に、オリンピックの競技場を作るために取り壊される都営住宅がある。そこに住んでいる人に対して、(行政は)『3月になれば福島の人が帰って別の都営が空くから、そこに入れる』と言っていたらしい。私たちは、追い出されることを正式に通知されていないのに」。当事者同士の憎み合いが起きるのではと心配しています。
 Yukariさんは、3・11から避難するまでの不安だった日々を振り返りました。まず、家族間の意見の違いがあったそうです。「友達からたくさん電話が来て『早く逃げて』と泣きながら言われ、私は避難したかった。でも親は『みんなまだ(福島に)いるから大丈夫だろう』と考えていた」。最終的には都内に避難しましたが、ある避難所では入所する際に被ばくの検査が義務づけられていたそうです。「頭の先から足の裏まで線量を測られ、OKだったら入ることができる」とYukariさん。その後、Yukariさん一家は別の避難所に入ることができましたが、当時の大変さは今も鮮明に思い起こされるそうです。

 鴨下祐也さんは、もともと福島工業高等専門学校の教員で、東京電力が地元の子どもたちに対して行ってきた“原発安全教育”をつぶさに見てきました。夏休みの宿題は原発賛美のポスターを描くことが定番で、ラジオからは「放射能に負けない子になろう」というCMが流れていたそうです。「原発は壊れないという前提の教育だった。だが、安全だといっていたのはウソだった。小さい子どもがいる人ほど苦しい思いをしているが、声に出すと『経済が…』となる」と祐也さん。そうした状況を「経済のために子どもが人質に取られたようなもの」と表現しました。いわき市では、震災後、通常どおりに学校が再開したとたんに滞っていた物流が復活し、町に活気が戻ったそうです。
 また、中下さんは被災地を回る中で、表立って危険性を口にすることがためらわれる雰囲気を肌で感じてきました。そうした中、お酒を酌み交わしながら話した高齢者が「第二の福島が起こらないと分かんないのかな、俺たちは」と語ったそうです。「かつて戦争中は、戦争反対と言っただけで非国民扱いされたが、同じような同調圧力が起きている」(中下さん)。

 こうした状況を聞くと、多くの人が「おかしい」と感じるはずです。しかし、3・11から時間がたつにつれて国民の関心は低下し、話題にのぼらなくなります。鈴木さんは「マスコミでもなるべく原発のことに触れないようにしている」と指摘しました。また、山本議員は、「3年後の国政選挙の前までに、みんながこの不条理に対する理解をもっと深めて、地方選でひっくり返すしかない」と述べました。
 その後、会場の参加者からの質疑応答に続き、再びYukariさんの歌が披露され、この日のマガ9学校は幕を閉じました。震災から時間がたち、福島のことを語り合う場は少なくなりましたが、原発事故がいったい何をもたらしたかを再確認させられるマガ9学校でした。

koe

●アンケートに書いてくださった感想の一部を掲載いたします。(敬称略)

痛みを背負った方々の話を直接聞く機会は大切ですね。自分が今、どんな世界に生きているのかを思い知らされます。Yukariさん、素晴らしかった!(竹口範顕)

知らない情報ばかりで、胸が痛かったです。参加して良かったです。マスコミ情報が真実じゃないことは、分かっているので自分で情報をとりに来ました。(匿名希望)

感動しました!元気ももらいました!ありがとうございます。(匿名希望)

来て良かった。知らないことが沢山。山本太郎さん、時間ないかもしれないけれど、焦らないで欲しい。福島の方々の声がきけて本当に良かったです。今度は人を誘います。マガジン9ありがとう〜。(平塚洋子)

重たいテーマ・内容のお話を聞くことに、実は抵抗がありました。自分も生きづらさをかかえる中で、さらにどうしようもない気持ちになったらと思ったからです、すみません。(でも気になったので来ました。)だけど、そんなことはなく、共感でき、勇気をもらうことができました。福島から避難されている方が文句を言われる世の中なんておかしいです。(匿名希望)

始まる前は、3時間は長いかと思いましたが、本当にあっという間でした。今日、初めて知ることも多く、当事者の方々からのお話を聞けて、改めて考えることが多かったです。山本太郎さんもサプライズで来ていただいて、国会内部の問題についても知ることができました。Yukariさんの歌がとてもとても良かったです。(匿名希望)

被災地の現状について、深く知ることができた。今度どのようにしていくべきか、提言をもっと聞きたかった。(匿名希望)

何が起きているのか、本当の原因が何なのかは誰にも分からない。でも苦しんで悩んでいる人がいるのは、ホントの話。これは本当の話ですね。(清水健志)

 

  

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