こちら編集部

 6月から全国順次公開予定のドキュメンタリー映画『さとにきたらええやん』の舞台は、大阪市西成区の釜ヶ崎。高度経済成長期には、全国各地から土木・建築の仕事を求めて人々が集まり、国内最大の「日雇い労働者の街」として知られてきた地域です。いまは、不況による仕事不足、労働者の高齢化によって様子を変えつつありますが、私のなかでは「おっちゃんの街」というイメージがありました。しかし、本作が映し出すのは、この釜ヶ崎にあるNPO法人「こどもの里」に通う子どもたちです。

 「こどもの里」は、放課後の子どもたちの居場所であり、緊急一時保護の場であり、親と暮らせない子どもの生活の場であり、子どもたちの親をサポートする場でもあります。「しんどさ」を抱えた子どもや大人を、いつでも誰でも利用料なしで受け入れることを理念として、38年にわたって活動を続けてきました。この作品が初監督となる重江良樹監督は、この「こどもの里」に惹かれて、5年もの間ボランティアとして通ってきたそうです。

 映画には状況を説明するようなナレーションはありませんが、親子やスタッフの間で交わされる会話を通じて、障がいやDV、虐待、生活保護など、「こどもの里」を利用する家族が抱える課題がみえてきます。発達障がいの子どもとの向き合い方に悩むお母さん、父親が暴力をふるう家庭で育ち、自らの知的障がいに葛藤する中学生の男の子、母親と離れて「こどもの里」で暮らす高校生の女の子…。そんな彼/彼女らを、「わたしはあんたの味方やで!」と「こどもの里」のスタッフはまっすぐに受け止めます。

 映画の中では、釜ヶ崎で暮らす、おそらく身寄りのない元日雇い労働者のおじちゃんたちと子どもたちとの交流シーンも映し出されます。「子どもの貧困」が注目されるようになりましたが、経済的な貧困だけなく、「関係性の貧困」こそが、大きな問題だとも言われます。子どもが“しんどい”ということは、つまり大人も“しんどい”ということ。「こどもの里」のように、困ったときに「ここにきたらええやん」と言ってくれる場所や相手を、いま子どもも大人も必要としているように感じます。「こどもの里」のような取り組みが誰にでもできるものだとは思いませんし、この場所がなくなったらどうするのだろう…そんな不安もよぎりました。いまの社会では、こうした場所に出会えずにしんどさを抱え込んでいる人のほうが多いはず。せめて自分のまわりに対してもっとできることがあるのかもしれない、そんな風にも思わせられました。

 そして、映画のもうひとつの大きな柱になっているのが、登場する子どもの憧れの存在でもある、西成区出身のラッパー・SHINGO★西成さんの音楽です。釜ヶ崎に暮らす人たちの思いを代弁しているかのような歌詞で、映画に見事にはまっています。登場する一人ひとりが抱える事情は複雑で、決して明るく楽しい話ではないのですが、一方で、生き生きとした子どもの姿や「こどもの里」のスタッフの温かいまなざしに、なんだか自分まで励まされ、生きていく力や元気をもらえる映画でもあります。

(中村未絵)

***

映画『さとにきたらええやん』
公開前特別先行試写会に5名様ご招待!

6月11日(土)より、ポレポレ東中野にて公開されるドキュメンタリー映画『さとにきたらええやん』の公開前特別先行試写会に、宣伝・配給協力を行っているウッキー・プロダクションよりマガジン9の読者5名さまを抽選でご招待くださるそうです。

【特別試写会】
日時:6月4日(土)14:00開映(開場:13:30/上映時間:100 分)
会場:東京ウィメンズプラザ ホール(〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-53-67)

【応募方法】
件名を「6/4試写会応募(マガジン9)」とし、本文にお名前・ご住所・年齢・職業・電話番号・メールアドレスを明記の上、info@ucky-p.comまでメールでご応募ください。
<ご応募締め切り>2016年5月26日(木)17:00まで
※当選発表は、メール返信をもって代えさせていただきます。

【お問い合わせ先】
ウッキー・プロダクション
TEL:03-5213-4933
Mail:yus@solid.ocn.ne.jp
(マガジン9では、試写会招待についてのお問い合わせを受け付けていません。ご了承ください)

『さとにきたらええやん』(2015/日本/100分)
監督:重江良樹 音楽:SHINGO★西成
2016年6月11日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国順次公開!
http://www.sato-eeyan.com

 

  

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

最新10title : こちら編集部

Featuring Top 10/59 of こちら編集部

マガ9のコンテンツ

カテゴリー