ホームレス状態にある人、またはその経験者であれば、誰でも応募できる「路上文学賞」というものがあります。これは、前回の「こちら編集部」で紹介した写真家の高松英昭さんと、作家の星野智幸さんが立ち上げた文学賞です。
写真集『STREET PEOPLE』(太郎次郎社エディタス)の印税を、路上の人たちと一緒に楽しめる形で使おうと、2010年にこの文学賞が生まれました。これまでに3回開催され、路上から100作品以上が生まれています(過去の作品はこちらから)。
一般的な文学賞の目的は、受賞作品を世に出すことなのかもしれませんが、路上文学賞では、路上から届いた作品をたくさんの人に読んでもらうことを目的にしています。それは、文学を通じて、路上にいる人も、路上に距離を感じている人も、みんながそれぞれが歩み寄って楽しむ、「お祭り」のような場を目指しているから。
その第4回目となる路上文学賞の作品募集が、10月1日から始まる予定です。この路上文学賞は、その趣旨に惹かれて集まった有志のボランティア実行委員会によってゆるやかに運営されてきました。現在、実行委員会ではクラウドファンディング「READYFOR?」のサイトで冊子作成や授賞式開催のための運営資金を募集しています。募集期間は、9月30日までと、あと少し!
→READYFOR?サイト「第4回路上文学賞を開催したい!」
クラウドファンディングはちょっと苦戦しているようですが、第三回大賞受賞者のコメントや、翻訳家・アメリカ文学者の青山南さんへのインタビューなど、コンテンツもなかなか読み応えがありますので、ぜひのぞいてみてください。面白そうだなと思われたらどうぞ応援をよろしくお願いします。書き手として、読み手として、路上文学賞を広める人として、そして運営を応援する人として、それぞれの形で路上文学賞の「お祭り」に参加するのも楽しそうです。
主宰者のひとりであり、作品の選者でもある作家・星野智幸さんは、以前にマガジン9のインタビューで、「他人の目線や世の中の基準みたいなものはいったん置いて、自分は本当にどう思うのかを表現すること」、そして「『一人ひとりがみんな違う』ことを肯定すること」の必要性を、路上文学賞だけでなく、民主主義にも通じることとして語っていました。そのことに私もとても共感します。
路上文学賞のサイトに掲載されている星野さんの言葉を紹介します。
自分の言葉で参加する路上の祭り――星野智幸
プロの書く文学作品とは別に、私は誰でも文学作品を書くことはできると思っています。
文学作品とは何でしょう? 公式的な定義はいろいろありますが、私は、深いレベルで、言葉によって人と交わることだと考えています。深いレベルとは、その人の存在の核となる部分を理解し合うレベルです。
そのためには、自分の書く言葉が、自分にとって実感のあるものでなくてはなりません。読む人に合わせすぎて、相手に受けるようにばかり書いてしまったら、それは他人の言葉であり、他人の物語です。
ホームレス状態で生きる人にも、日常の生活があります。ホームレスにはホームレスなりの常識や共通認識、世界観があります。それを、自分たちに実感のある言葉で書くことができれば、言葉自体はつたなくとも、まごうかたなき文学作品となります。むろん、あまりに独りよがりな言葉で書いたら、まったく通じません。自分の言葉からスタートして、少し、相手の言葉に歩み寄るのです。
私は、多くの人に、そのような言葉を書けたときの充実や歓びを知ってほしいのです。それは自分を自分で認める歓びです。また読み手が、自分の常識をとりあえずおいて、自分たちに見慣れない言葉を読むことで路上の世界の感触を知るとき、純粋な驚きを感じるでしょう。それは世界が広がることの驚きです。
大賞作品は、HPなどで11月30日に発表される予定。「路上文学賞」からどんな作品が生まれるのか、いっしょに注目していきましょう。
(中村未絵)