「トモダチ作戦」なんて名前からして胡散臭いことは分かっている。でも、東日本大震災の被災地から離れたところで見ていただけの私には、表立って批判はできなかった。だって、米軍は実際に被災者を助けているんだから。「反安保」を掲げてきた被災地の運動家が、いみじくも漏らしていた。「ものすごく複雑な気持ちだ」と。
しかし、それでも「沖縄駐留の必要性」を盛んに強調する米軍の自画自賛には強い違和感を覚えた。6月までに「2プラス2」(日米外務・防衛担当閣僚会合)が開かれて、普天間基地の代替施設として辺野古沖へのV字滑走路建設が合意されそうなタイミングで、震災を都合良く利用しているだけでは、と疑念が募った。本土のマスコミは相も変わらず「日米の『共同作戦』は大きな成果を上げた」(朝日新聞・4月30日付朝刊)などと、はしゃいでいるけどね。
そんなこんなで、ここ1カ月ほど、沖縄の米軍基地問題をテーマにした集会や講演会のいくつかに顔を出してみた。
その1。5月1日、東京・新宿で行われた「辺野古に基地を押しつけるな! 新宿ど真ん中デモ」。泣き出しそうな空の下、約1時間半、繁華街を歩いた。迷惑施設の「押しつけ」という構図が基地も原発も似ていることを説明したビラを配りながら、マイクで都会人の責任を訴える。とはいえ、参加者は170人。同じくらいの数の制服・私服警官に囲まれたものものしさも影響して、沿道の視線はかなり冷ややかだった。鳩山さんの「最低でも県外」発言の帰趨が注目されていた1年前に比べると、沖縄の基地問題への関心が壊滅的に失われてしまったことを肌で感じてきた。
6日後の東京・渋谷。原子力発電所に反対するデモに1万5000人(警視庁発表は4000人)が集まった。にぎにぎしく「原発やめろ」とアピールする人の波を眺めながら、なんで「沖縄の基地やめろ」がここまで盛り上がらないのかと思いを巡らせていた。これだけの草の根ムーブメントが起きていたら普天間の移設先も違った結果になっていたかもしれないと考えているうち、自分の力不足も含め、とてもやるせなくなってきた。
「本土の人にしてみれば、原発で事故が起きれば放射性物質が自分たちに降ってくる可能性がある。でも、沖縄の米軍基地は毎日目にしているものじゃないし、事故や騒音の被害を直接受けるわけじゃないもんね。沖縄の人間にとっては、いつ戦闘機やヘリコプターが落ちてくるか分からないんで、基地も原発もその危険に変わりはないと思うんだけどさ」。沖縄在住の知人の言葉である。
誤解を受けることを承知であえて書くけれど、福島第一原発の事故が直接の原因で亡くなった人は今のところいない。一方、沖縄では戦後の占領時代から今日まで、米軍の訓練や犯罪、事故に巻き込まれて何人もが命を奪われている。普天間基地に接する大学の構内に米軍ヘリコプターが墜落したのも記憶に新しい。しかも普天間の辺野古移設に関しては、地元の名護市長が反対しているだけでなく、沖縄県知事までが以前の「容認」を翻して「県外移設」を主張している。
反原発運動を批判するつもりは全くない。デモに参加している人たちに悪意がないことも、十分理解している。でも、意識していないからこそ、余計に根は深いのだろう。一言で言ってしまえば、沖縄の基地は他人事なのだ。潜在的な「沖縄差別」が端的に表れているのかも……。
その2。沖縄に米・海兵隊の駐留が必要なのか。5月3日に横浜で聞いた沖縄タイムス論説兼編集委員・屋良朝博さんの講演が、明解な答えを教えてくれた。
屋良さんは、「在日米軍の沖縄駐留にこだわっているわけではない」という趣旨の米政府関係者や日本の保守系有識者の発言を示したうえで、1)在沖海兵隊はアジア・太平洋を回っていて沖縄にはほとんどいない、2)有事の際に海兵隊を運ぶ船は長崎県・佐世保から来るので出撃にはかなり時間がかかる、などを挙げて、抑止力や地理的優位性を否定した。そして、普天間の移設先は「主体的には日本が考えることなのに、将来を見据え、どんな軍隊が何のために必要なのか議論がない」と指摘していた。
ちなみに、「トモダチ作戦」については「救援してくれた1人1人には感謝する。でも、そこに沖縄を絡めるのは政治利用で、せっかくの貢献をおとしめることになる」と米軍を諌めていた。ストンと落ちた。
その3。普天間基地の辺野古移設に反対する「ヘリ基地反対協議会」代表委員の安次富浩さんは、4月半ばの東京・永田町での講演で、米軍への思いやり予算を原発事故と震災の被災者救援や復興の経費に充てるよう求める運動が沖縄で始まったことを紹介した。今後5年間で総額9400億円(1日あたり5億1000万円)を投じる思いやり予算の特別協定は、震災直後の3月30、31日に衆参両院であっさり承認されてしまった。米軍が震災を宣伝に利用するのなら、こちらも震災に絡めて米軍基地をなくす方策を探ろうとする、しなやかでしたたかな発想である。本土ではほとんど知られていないのが残念だが。
普天間の県内移設に対する沖縄の反発は根強く、危険な基地が固定化する可能性が強くなっている。今後、国の予算は原発事故や震災の復興に優先配分されるから、沖縄の基地負担軽減は進みそうにない。安次富さんは「原発も基地も、問題の底流は一緒。沖縄から本土への訴えをさらに強めないと」と語るとともに、「今どこに立ち、どう生きていくか、真剣に考える時。どういう方針をつくるか試されている」と本土の運動に対する苛立ちも覗かせた。
おそらく「2プラス2」が、普天間の移設先を、沖縄と基地の関係を、きちんと見つめ直すラストチャンスだろう。浜岡原発だって首相の一言で停まるし、エネルギー基本計画だって白紙に戻るのだ。沖縄から基地を動かせないなんて決めつけてはいけない。昨年12月の朝日新聞の世論調査では、普天間の辺野古移設を「見直して米国と再交渉する」が59%を占めていた。「本土」が沖縄とどう向き合うか、本気の度合いが問われている。
「必要だから仕方ない」の一言で片付けられること、
大都市から一地方への負担の「押しつけ」、
援助金投入などによる地域内の分断…
米軍基地と原発をめぐる問題の構図には、
知れば知るほど共通項が見えてきます。
これもまた、「沖縄の問題」ではなく「私たちの問題」なのです。