参院選最終日の10日、菅首相の街頭演説を聞きに出かけた。場所は、東京・吉祥寺。菅氏の地元で、政治参加の起点になった土地である。
蒸し暑い。それに、聴衆の人いきれ。郵政選挙の時の小泉・元首相のような熱狂はないが、やはり注目度は高い。
「初めての政権。これから試行錯誤を改め、本格的な政治の流れを前進させていきたい」。精悍な表情や素振り、よく通る声が存在感を醸し出す。自信家なんだな。
「強い」をめざす3分野を挙げて、「社会保障と財政、経済の一体的な強化は可能。私に実践させてください」と訴えた。
消費増税についても、釈明せざるを得なかった。
「財政破綻に至らない方向性を協議しよう、と申し上げた。すぐに消費税を上げると誤解をいただいたが、次の総選挙までは一切、手を付けない」と言い切った。
それでも、最後に負けず嫌いの虫をのぞかせる。「苦い提案をしたけれど、10年後、20年後に『あそこで立ち直り始めた』と言われたい。歴史に恥じない政治をしたい」
うーん、「強い自分」に酔っている感じが、どうも気になる。選挙で宰相たちが避けてきた増税をあえて持ち出したのも、その延長線なのか。でも、私には独裁者の香りを感じてしまう。この人に政治を委ねるのが、ちょっと怖くなった。
で、参院選の結果である。そこに込められた有権者の思いは、まずは消費増税への「ノー」だろう。例えば、子ども手当とか高速道路無料化とかに膨大な税金を投入しておいて、十分な検証もしないまま、「税金が足りないから、みんな出して」と言われたって、すぐには納得できないわね。
ところが、選挙翌日(7月12日付)の朝日新聞の社説を見て、びっくり仰天。
「『消費税10%』を掲げた自民党を有権者は勝たせた」と書いてある。どうしても消費税を上げたい朝日新聞。「消費税から逃げるな」の小見出しのもと、「(菅首相は)逃げずに正面から自民党に協議を呼びかけ、有権者の説得にもあたるべきだ」と、ご丁寧なアドバイスである。
だから言わんこっちゃない。前々回の当コラムでも書いたが、民主党が勝っても、自民党が勝っても、結局「消費増税は参院選で信認された」ことにしてしまう都合の良さ。これがマスコミのとるべき解釈なの?
そうそう、菅首相の演説の30分ほど前、同じ吉祥寺で自民党の谷垣総裁の街頭演説があり、聞きに行った。消費増税をめぐる菅首相の手法を「さんざん迷走した挙げ句に『唐突かも』と封印する。財政再建や暮らしの基本設計がないからブレる」と批判してはいたけれど、自分から「消費税を10%に」なんて言ってはいなかったぜ。
どう見たって今回の選挙の結果は、民主党が打ち出した「消費増税」に異を唱え、その反対勢力の自民党に入れた、ということだろう。自民党が「消費税10%」をマニフェストに盛り込んでいるのは事実だろうが、それに積極的に賛成して投票したわけでは決してない。
独裁者の香り漂う「強い首相」と、それに媚びへつらうマスコミと。戦争に突き進んだ時代をどこか思い起こさせる、この危険な状況は、「消費増税ファッショ」と呼ぶにふさわしい。「我ながら良いネーミングだ」とちょっと自分に酔っていたら、「どこかの首相に似ている」と揶揄する声が聞こえた気がして目が覚めた。
「消費税の増税は避けられないという認識は多くの有権者が共有している」(日経新聞)、
「消費増税への理解は着実に進んでいるとみていいようだ」(読売新聞)。
いずれも選挙翌日の社説の一節ですが、本当に? の疑問が消えません。
「どうしても消費税を上げたい」のは、いったい誰なのでしょうか?