確かに、沖縄が「5月末」の期限を要望したわけではない。鳩山首相が自ら言い出しただけで、守れなかった場合の政治的な責任と、基地問題の抜本的な解決につながるかどうかは、全く別問題である。
沖縄の反基地運動リーダーで元那覇市議の高里鈴代さんの話を聞いて、普天間基地移設先の「5月末までの決着」を当たり前だと思いこんでいた自分に気づき、反省した。
「アメリカと、もっと本質的なことを話し合ってほしい。じっくりやって下さい」と高里さんは語った。
言うまでもないが、「本質的なこと」とは日米安保や米軍基地のあり方だ。1996年に普天間返還が合意されて以来、紆余曲折はあったにせよ、沖縄は新しい基地の建設を阻止してきた。すでに14年間、宙ぶらりんの状態に置かれてきたのだから、今さら焦って場当たり的な案をまとめるのではなく、この機会に「多少時間がかかっても、きちんと取り組んでほしい」というのが県民の本音だろう。
95年の少女暴行事件以降、多少なりとも沖縄報道にかかわった身として、そうした沖縄の気持ちを本土に伝えきれなかった自分の非力さを改めて感じていたら、5月5日の朝刊にびっくりする論文を見つけた。それが「親沖縄的」だと(私が勝手に)思っていた朝日新聞の1面だから、二重に驚いた。
主筆なる方による「拝啓 鳩山由紀夫首相」と見出しがつけられた論文は、「中国に対する日米同盟の抑止力を保つために、沖縄への海兵隊駐留が必要だ」という趣旨である。その登場人物たるや、「米政府要人」や「米政府高官」ばかり。基地被害に直面する沖縄の人間は、一人たりとも出てこない。
ジャーナリストは、どんな立場の人たちに寄り添うべきか。B級記者の私でさえ、自明のことだと思っていた。だが、論文の中味は、アメリカ政府べったりで、「ガキの使い」としか読めない。朝日新聞の「ジャーナリスト宣言」がこのレベルだとすると、本当に情けない。
ところで、高里さんは「沖縄が『5月末』にこだわっていないことを、本土のメディアは取り上げない」とも話していた。
そういえば、かの主筆論文、オバマ政権は「5月末までの決着の約束は何が何でも守ってもらうとの態度です」とわざわざ記している。
「5月末」をめぐる沖縄の声には耳を貸さない一方で、首相に対してはそれを強調して追いつめる。そして、県外移設を断念させ、大好きなアメリカの意向通り、辺野古で落着させようと誘導しているのでは? 朝日をはじめ「日米同盟優先」の本土メディアの姿勢には、そんな勘ぐりまでしてしまう。