選挙戦最終日の15日夜。「マガジン9」の関係者は山本太郎さんや宇都宮健児さんで盛り上がるだろうと予想して、誰も行きそうにない自民党の街頭演説会をのぞいてきた。ところは東京・秋葉原駅前。弁士は安倍晋三総裁と麻生太郎元首相である。
駅前広場を囲む歩道やペデストリアンデッキを埋めたのは、おそらく数千人規模だった。まず驚いたのは、聴衆が持つ多数の日の丸の旗。100本以上あっただろうか。それとは別に日の丸の小旗も配られ、多くの人たちが手にしていた。
地方議員らの演説に、あちこちから「そうだ」の声援が起き、日の丸が打ち振られる。「東京から民主党を追放しよう」との呼びかけに大歓声。一方で、応援に来た公明党の地方議員には「帰れ」と容赦ない。
「あべしんぞう」コールに迎えられた安倍さんは「新しい日本の力、国民の本当の声がここにある」と、ハナからすっかりご満悦の様子だった。「野田政権や日銀がデフレから脱却できないから、私たちが新しい挑戦をする」と景気対策から始め、教育政策で日教組や民主党を批判すると、また大歓声が起きる。
尖閣諸島をはじめ領土問題による近隣諸国との関係悪化を「こんなことは自民党政権時代にはなかった」と断じ、「日米同盟のきずなをしっかり取り戻す」「領土・領海は私たち自身の手で守る」とボルテージを上げた。防衛力や海上保安庁の増強を挙げて「国の威信をしっかり示す」と強調し、「これから一緒に戦っていこう」と締めくくった。いろんな意味で、完全な「戦闘モード」である。最後は「あべしんぞう」コールに送られた。
それにしても、異様な雰囲気だった。法に触れない限り、表現や言論の自由を尊重するのは当然だ。けれど個人的には、アジテーションのような演説と、それに呼応して揺れる日の丸に、違和感を禁じ得なかった。思わず、出征する兵士の壮行会を想像してしまった。
ネット右翼の動員、と切り捨ててしまうのはたやすい。でも、決してそれだけではないと受けとめた。1人や2人でやって来て、底冷えがする寒さの中、1時間半にわたり立ったまま熱心に耳を傾ける人たちがたくさんいたからだ。印象的だったのは、若者の姿が目立ったこと。「場所柄」という言葉だけでは説明しきれない気がする。状況は複雑なのだ。
今は異様に感じるけれど、首相になった安倍さんが次第に「本性」を全開にしていけば、こういう場面にも少しずつ慣れさせられてしまうかもな、と考えると、改めて怖くなった。
ちなみに、その1週間ほど前に石原慎太郎さんの街頭演説に行った時も、寒い中、多くの若い世代が熱心に聞いていた。日の丸は見当たらなかったけれど…。なぜ若者たちが安倍さんや石原さんを支持するのか、しっかり分析して今度はこちらに引き込むべく戦略を練ることが、リベラル側の急務だろう。
不思議だったのは、日の丸が林立する演説会の様子を、きちんと伝えた新聞がなかったことだ。あの光景が写真なりルポ記事なりで報道されていたら、自民党に投票するのを躊躇した人もけっこういたと思うけどな。
その理由をマスコミ関係者が解説してくれた。「選挙戦の途中から大手マスコミは、安倍さんや石原さんに不利になりそうなことを報道しない方針だったらしい」。世論調査で圧勝しそうなことが分かっていたから、ヘタに怒らせて選挙後に権力側のネタが取れなくなるのを恐れた、というのだ。いやはや、妙に説得力がある。
で、衆議院議員選挙も、東京都知事選挙も、ああいう結果になった。
どうしたらいいのか。答えは簡単に見つからないけれど、まずはこれまでの自らの姿勢を省みて、改めるべきは改めることから始めるしかないのだろう。あれこれ言い訳めいた自己弁護をするより先に、なぜ私たちが書いてきたことが結果的に伝わらなかったのか、謙虚に探りたい。それなしに「これから頑張る」と意気込んだところで、空回りするだけだからだ。
一番気になっているのは、私たちは「仲間うち」で盛り上がっているうちに、世の中がみんな同じくらい盛り上がっていると勘違いしてはいなかっただろうか、ということだ。「普通の人たち」の感覚に、鈍感になってはいなかったか。たとえば、前述したような若い世代の動向には、早くからもっと関心を向けるべきだった。
たとえ発信してきた主張が間違っていなかったとしても、発信の仕方を見直す必要はありそうだ。「あいつは本当の脱原発じゃない」といった論法でつながりを持ち得る人まで排除して間口を狭めていては、自分の首を絞めるだけだということが、今回の選挙結果でよく分かった。
少しでも接点があるのならば、自分たちと違う考えや方法にも耳を傾け、忌憚なく意見を交わす。内に籠ってはいけないのだ。今後ますますマスコミは権力シフトを強めるだろうから、「マガジン9」がそういうプラットホームになれればいいと思う。
憲法は改正に向け、原発は再稼働に向け、急ではなくても確実に動いていくだろう。そして間違いなく、衆院選での「民意」が錦の御旗に使われる。戦闘モードの権力者に、どうやってブレーキをかけるか。どうやって市民にアピールしていくか。柔軟な思考と行動で、身の回りからその術を模索していきたい。
予想以上、ともいえる自民党の圧勝に終わった衆院選。
ここから私たちは、どうしていくのか。
どのように声をあげ、伝えていくのか。
改めて振り返りながら、考えていく必要があります。