今さらという気もしたが、せっかくなので民主党の「政策進捗報告会」に参加してきた。「できなかったことは真摯に反省し、お詫びし、その理由も明らかにして、次につなげます」。オープンな場で検証を、との狙いだけ聞けば、なかなか殊勝な試みである。
最初に、細野政調会長がビデオで登場。前回総選挙のマニフェストで挙げた主要項目について、「子ども手当=一部実施」「農業の戸別所得補償=実現」「高速道路無料化=凍結」「ガソリン税の暫定税率廃止=未実現」といった形で説明した。マニフェストになかった消費増税にも触れ、任期途中での決定を詫びたうえで、「全額を社会保障の財源にする」と強調していた。
公約が実現できなかった原因を「政権を取れば何でもできるという傲慢さ、政権運営の厳しさを知らない未熟さがあった」と総括していたが、そんなことを今になって言い訳されても困っちゃうよね。だから今回の総選挙では「あれもこれものマニフェストから脱却」して、「確実に実現できる政策を掲げる」のだそうだ。多方面からボコボコにされた教訓からか、完全に守りに入ってしまっていて、ただでさえ逆風下、これじゃあ攻めてくる自民や維新に勝てそうにない。
とまあ、党からの説明は15分くらいで、あとの1時間半以上は参加者のガス抜きの場、といった趣だった。会場から1人1分で質問・意見を受け付け、党が答える方式。いきなり「政治家としての覚悟があったのか」「政治の世界は嘘つきだらけ。本当に反省してください」なんて声が相次いだが、壇上の党幹部は嫌な顔も見せずに、すべての質問や意見に答えてはいた。
せっかくなので、主要な政策テーマについて、回答の要旨を記しておこう。
沖縄の基地問題「沖縄の方のストレスをなくすように、これからも全力で頑張っていく」
原発「原子力規制委員会が安全基準を見直し中。規制委が安全と判断したものは、電力会社の判断もあるが、再稼働したい」
TPP「経済活性化のために、自由に貿易できる態勢が必要。日・中・韓・アセアンなどアジアの枠組みと同時並行的に進めたい」
1票の格差「(国民に)消費増税をお願いしたので、我々(国会議員)が襟を正すために衆院議員の定数削減を提案したが、自民党がたじろいだ。削減は年明けに取り組むことにして、それまでの間、歳費を20%カットする」
時間の制約もあったし、党の見解を説明する場という条件があるにせよ、なんだか無味乾燥で、論点を外したりぼかしたりしているところもあって、官僚答弁のようだった。批判をかわすことに、慣れてしまったのだろうか。
そんな中、改めて印象的だったのは、「政権交代できる政治態勢で取り組んできた」という言葉である。そう、前回の総選挙で民主党の旗印は「政権交代」だった。
たしかに、長く続いた自民党政権の弊害を打破するためには、政権交代を前面に打ち出すことが必要だったのかもしれない。でも、政権交代が目的化しすぎたために、大事なことを見失い、理念の違う人たちが一枚岩になれず、無理なマニフェストを掲げることになったのではないか――。
そして、その大きな原因は、小選挙区制だと思うのだ。
言うまでもなく、小選挙区制では1選挙区で1人しか当選しない。自民党に対抗するには、ウイングを広げてボリュームのある政党を作るしかなかった。小さな政党に分かれたままだと、小選挙区での当選は相当に難しいからだ。比例区があると言っても、小選挙区に候補者を立てている政党の方が、連動して選挙運動をできるから有利である。
だから民主党は、バリバリの反自民の人から自民党に入り損なった人まで、「反自民・非共産」という曖昧な受け皿として結集することを余儀なくされた。同じ党の国会議員なのに、憲法9条に対する態度が大きく異なることは以前から指摘されていたが、消費増税、原発といった重要テーマへのスタンスの違いを見ていて、そもそも一緒の党にいること自体が間違いだったのがよく分かる。小沢さんたちが新党をつくったのも、権力闘争という面はあるにせよ、根本的な主張の違いという点では必然だった。
そんなわけで、小選挙区制の下では、石原さんと橋下さんの合流もアタマから否定はできない。有権者が納得するかどうか、は別問題として……。少なくとも、民主党に批判する資格はないだろう。
政策面で人気取り的な公約が多くなるのもまた、小選挙区制の宿命である。とりわけ野党だった民主党は、できるだけ幅広い層から票を集めなければならないから、自民党よりも有権者に受ける内容にしなければならなかった。そのためには、実現可能性なんて二の次になる。前回総選挙のマニフェストが、まさにそれだった。
小選挙区制がある限り、同じことが繰り返されないとは限らないだろう。
ところで、民主党は衆議院の選挙制度改正案として、小選挙区(定数300)の0増5減(成立)と併せて、比例区(定数180)を40減らす法案を国会に提出していた。1票の格差の是正は当然の前提であるにせよ、比例区を大きく減らして小選挙区の比重を高めることには賛成できない。民主党案は、中小政党に有利とされる一部連用制の導入を盛り込んではいたものの、小選挙区はただでさえ死票が多く、これまで以上に民意を正確に反映できなくなるからだ。
むしろ、中選挙区制に戻すとか、比例区の割合を大幅に高めるとか、全体の議員数削減を含め、選挙制度を抜本的に改革することを求めたい。だって、国民の考えや価値観がますます多様化する中で、小選挙区で2つや3つの選択肢から1つ選ぶなんてこと自体が無理なのだ。地元の小選挙区の立候補予定者をご覧いただきたい。特定候補のコアな支持者でない限り、多くの選挙区で投票先を決めるのに相当苦労しますから。
小選挙区をなくせば「政治が不安定になる」という欠点は承知している。さんざんマスコミが批判する「決められない政治」を助長することになるかもしれない。でも、それはそれで良いのだと思う。民意に背いてまで、無理をして急いで大事なことを決める必要はないのだ。
特定の政党が過半数を取れなくたって、議会の構成が民意を反映しているのであれば、連立政権をつくり、重要なテーマは政策の合う党どうしがよく話し合って決めていくことが、なんでいけないのだろう。消費増税のプロセスを見たってマスコミの大政翼賛化は自明の理だけに、「強い政治」なんて言われると独裁に陥る危険の方を心配してしまう。
民主党が政権を取ってからの3年2カ月を振り返る時、「なぜこうなったか」の視点を忘れまい。それが国民の政治参加の仕組み=選挙制度のあり方という民主主義の根本を見直すきっかけになるのなら、私たちにとって一つの「成果」ではあるのだろう。
少数意見が排除されてしまう小選挙区制度の問題点については、
すでに多くの人が指摘しているところ。
その「問題点」が、最悪の形で出てきてしまっているのが、
今の状況なのかもしれません。
なのになぜか、その改善とはほど遠い方向へと進んでいく選挙制度改革。
「民意に背いてまで、急いで大事なことを決める必要はない」との指摘、重要です。