米軍基地と聞いて真っ先に連想するのは沖縄だが、本土にも騒音などの被害に悩まされている人たちがいる。東京都でいえば南部の町田市あたりで、上空の鋭い金属音に耳をふさいだ経験がないだろうか。厚木基地を拠点に飛行する米軍の戦闘機である。当然、基地周辺の住民たちが受ける被害は、もっと大きい。
厚木基地の地元・神奈川県大和市で先週末、「オスプレイ配備と違法爆音を許さない」と銘打った集会・デモが開かれた。炎天下、参加して汗をかきつつ基地周辺を歩いてきた。
すでにご存じのとおり、オスプレイとは、米軍が10月に沖縄・普天間基地への配備を計画している米軍の垂直離着陸輸送機MV22のこと。墜落事故の多発と騒音から、沖縄では強い反対運動が起きている。集会・デモは、厚木基地の騒音訴訟原告団など地元の反基地団体が「基地被害を肌身で感じている私たちが、本土でも配備反対の声を上げたい」と企画したものだった。
米軍が沖縄だけでなく本土でもオスプレイの訓練を計画していることは、すでに明らかになっている。朝日新聞(6月19日付朝刊)などによると、東北や四国、九州などに7ルートを設け、最低高度150メートルの低空で飛行・戦術訓練をする。年間計330回を見込んでおり、3割は夕方から夜間にかけて実施されるという。
集会では、厚木基地にオスプレイが離着陸する可能性の大きいことが指摘されていた。中継地とされているキャンプ富士(静岡県)には米軍の滑走路や施設がなく、近くの厚木基地が給油や整備・点検の実質的な拠点になるとみられているからだ。そのたびにオスプレイは基地周辺の住宅地の上を飛ぶことになる。
全国どこでも事情は同じだろう。中継地のキャンプ富士、岩国基地(山口県)以外にも「本土の基地が派遣先として使用されることもある」とされている。近くに米軍や自衛隊の基地があれば訓練の名目で危険なオスプレイが飛来しないとは限らないし、緊急事態の名目で全国どこに着陸しないとも限らない。山間部ではドクターヘリの運航に支障が出るのではないか、との心配も出ているらしい。
本土の住民にとっても、オスプレイは決して他人事ではないのだ。
米ハワイ州で、地元住民の反対を受けてオスプレイの飛行訓練が撤回されたことに対しても、参加者から強い批判が浴びせられていた。
最初に報道した「赤旗」(8月17日付)などによると、米軍が取り下げたのは、ハワイ州の海兵隊基地へのオスプレイ配備に伴い、州内2カ所の空港で計画していた飛行訓練。環境アセスメントの過程で地元住民から、騒音被害や、機体の下降気流による近くの遺跡への影響を心配する声が寄せられたことが理由だそうだ。米軍はニューメキシコ州でも、安全性や騒音を懸念する住民の意見を受けて、飛行訓練を延期・見直ししている。
一方で日本へのオスプレイ配備に際しては、そもそも地元住民の意見を聴く手続きがない。同じ機種なのに、自国民=米国民の安全や被害回避のためなら飛行訓練をやめるが、他国=日本の奴らのことなんか知らないよ、という二重基準の使い分けである。「日本では、大きな反対が起きているのに耳を貸さないで(配備を)強行する。米国は他国の人権を守らない国だ」なんて発言が出ていたのも当然だろう。
ほかにも集会では、今年に入って厚木基地で起きたいくつかの「基地被害」が取り上げられていたが、オスプレイ配備を考えるうえで参考にすべきケースがあった。
その1つが、2月に発生した米軍機からの部品落下である。平日の午後2時ごろ、厚木基地に着陸しようとした電子戦機EA6Bプラウラーから、ジュラルミン製のエンジンパネルなどの部品が基地外周の県道に落ち、走行中の乗用車の屋根に当たったのだ。部品は最大で縦2.2メートル、横1.1メートル。重さが数十キロのものもあった。
デモで現場を通ったが、県道に並行して相鉄線が走っており、線路の近くにも部品が落ちていたらしい。数百メートルずれていれば、東名高速道や住宅地を直撃した可能性もあった。けが人が出なかったのはもちろん、多数の人や車を巻き込む惨事にならなかったのは、不幸中の幸いとしか表現できない。
米軍による調査結果は今月20日に日本政府に伝えられた。所定の期間内に部品の取り外しや再取り付けをしなかったため、飛行中に留め具が緩んで気流で外れて落ちたのが原因で、「整備士の不注意」と結論づけている。
教訓として受けとめるべきは、米軍の整備技術はその程度だということだ。そういえば、モロッコで起きたオスプレイ墜落事故の原因は「操縦ミス」とされていた。オスプレイの機体が危ないうえに、米軍の操縦士や整備士の技能が決して高くはないことを認識しておく必要がある。
もう1つは、5月22日から3日間、膨大な騒音をまき散らして行われた戦闘機の離発着訓練だ。厚木基地の北1キロでの観測値は最大115.9デシベルで、間近で鳴る車のクラクション(110デシベル)を上回った。住民から県や市への苦情が3日間で約2500件にのぼるなど、ここ10年で最悪のレベルだった。しかも、米軍から日本政府に訓練の通告があったのは、直前の21日夜。戦闘機を搭載する原子力空母ジョージ・ワシントンの横須賀出港が予定より遅れたため、と説明したそうだ。
要するに、米軍にとっては自分たちの訓練の都合が何よりも優先で、地元住民の安全や生活を考慮するつもりなんて、まるでないことがよく分かる。オスプレイの訓練にしても同じことだろう。配備されてからでは遅いのだ。楽観は禁物である。
折しも、首相の野田さんは27日の参院予算委員会で、オスプレイについて「有用性もしっかり訴えないといけない」と語ったそうだ。尖閣諸島問題などを引き合いに出して、中国への牽制になるとアピールする作戦らしい。なかなか頭の良いやり方だが、感心している暇はない。このままでは配備を強行されてしまうだろう。
集会では、オスプレイ配備反対の運動が、脱原発ほどに広がらないことを不安視する声も聞かれた。
当コラムでも何度か触れたが、原発さえなくなれば、それだけで安全な暮らしは担保できるだろうか。たとえ原発がなくなったとしても、米軍機が空から落ちてくるような社会で安心して生活ができるだろうか。今回のオスプレイ配備は、米軍基地や安保の負担に対して、沖縄に思いを馳せて考えるのはもちろん、本土の私たちも自分の問題として真摯に向き合う良い機会なのだと思う。
沖縄で予定されているオスプレイ配備反対の県民大会に合わせて、9月9日の午前11時から、東京でも「国会包囲」が計画されている。まずは脱原発運動の延長のノリで、出かけてみてはいかがだろうか。オスプレイを自分に引きつけて考えるきっかけにするために。
米軍が発表しているオスプレイの低空飛行訓練ルートについては、
「しんぶん赤旗」に、その直下自治体(推定)が掲載されています。
もちろん、オスプレイ配備だけが問題なのではありませんが、
米軍基地とは何なのか、日米関係とはどういうものなのか、
改めて考え直すきっかけにはしたい。
これも原発と同じように、基地のある場所に暮らす人たちだけでなく、
私たちみんなが向き合うべき問題です。