マガ9備忘録

やなせたかしさんが亡くなったことは大きくニュースで扱われたので、ご存じの方がほとんどだろう。子どもが小さいときには『アンパンマン』に、本当にお世話になった。さて、私が彼の作品に初めて出合ったのは何かと考えたら、『やさしいライオン』。絵本ではなく、虫プロ制作のミュージカル・アニメーションだった。

この作品は、1970年3月に東宝チャンピオンまつりのうちの1編として公開された30分足らずの短編アニメ。やなせたかしさん(原作)と手塚治虫さん(制作)という2人の巨人のタッグにふさわしい佳作だ。同年の第24回毎日映画コンクール・第8回大藤信郎賞などを受賞している。

最初、「PHP」1967年12月号に掲載された『ブルブルとムクムク』がこの作品の元祖。翌年刊行の『アゴヒゲの好きな魔女』(山梨シルクセンター=現サンリオ)に『やさしいライオン』として収録された。さらに同名で「キンダーおはなしえほん」1969年5月号に発表。これが、やなせさんの絵本作家としての第一歩だったのだ。

同時にコーラスグループのボニージャックスが企画し、全編110枚で構成されたスライドを写しながらミュージカルにしたものにもなった。当時、やなせさんは虫プロ制作の長編アニメ『千夜一夜物語』で美術監督を務めたので、そのお礼として『やさしいライオン』が制作された。こうして、磯部俶さんの曲などはそのままで、短編アニメとして作られた。

子どもを失った母犬ムクムクと、母を失ったライオンの赤ちゃんブルブルの交流。しかし大人になったブルブルは動物園からサーカスへ。ある夜、老いて弱った母犬の子守唄が聞こえたとき、犬の子である心を持ったブルブルは檻を破ってムクムクのもとへ。姿はライオンなので警官隊が出動、2匹が再会したところで銃撃されてしまう…。

衝撃的で、悲しく切ない物語だったが、何よりもミュージカル仕立ての音楽と美しい画面に魅了されたことを思い出す。作者のやなせさん自身こう語っている。「ぼくは5才の時に父親をうしなって、義父、義母に育てられたので、やさしいライオンを書く時自分の人生といくらか重なる部分があって涙がこぼれた」

中で歌われる「ブルブルの子守唄」は名曲で、絵本にその楽譜が載っているほどだ。やなせさんは「出世作」だと語り、さらに現在では紙芝居や人形劇、ミュージカルの舞台にもなっている『やさしいライオン』。作家は亡くなったが、作品が自由に動き回っているかのようだ。ムクムクを背に乗せたブルブルが夜空を自由に飛んでいるように…。
(参考資料:「やなせたかしさんの出世作『やさしいライオン』」:志村建世のブログ2013年10月16日)

※ アニメ『やさしいライオン』は、ここで少しだけ(最初から8分足らずですが)見ることができます。「ブルブルの子守唄」も流れます。

 

  

※コメントは承認制です。
その6)忘れられない
やなせさんの『やさしいライオン』
」 に1件のコメント

  1. 花田花美 より:

    「やさしいライオン」のストーリーから、子供たちは、やさしさや命の大切さを学ぶでしょう。
    心をはぐくむ、良い絵本だと思います。
    戦闘ゲームや戦闘アニメに熱中する子供とは人間性がかなり違ってくると思います。
    個性はそれぞれ違うからいろいろな子供がいていいのですが。
    ただ、売れればいいというのが見え見えのアニメやゲームがはやってそちらにみんなが流されてしまう前に
    心あたたまる良い絵本やアニメを紹介し、広めていくというのも大切なことかもしれません。
    お散歩日記で紹介された原発問題をテーマにした漫画の多さにも驚きましたが。

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

最新10title : マガ9備忘録

Featuring Top 10/166 of マガ9備忘録

マガ9のコンテンツ

カテゴリー