『君の名は。』『この世界の片隅に』など今や日本の映画界をリードする勢いのアニメーション映画。こうした大作ではないが、『ちえりとチェリー』は、“いのちの大切さ”と“想像力の可能性”をテーマにした人形アニメーションだ。
アニメといえばコンピューターによる作画や彩色が一般的だが、人形アニメは、人形を少しずつ動かしてひとコマひとコマ撮影していき、これをつなぐことで人形が動いているように見せる。『どーもくん』や『ピングー』もこの人形アニメだが、この作品は54分の長編だ。いったいどれほどの手間がかかったのだろう(こちらで制作過程を見ることができます)。
幼い頃に父を亡くし母と二人暮らしの小学6年生、ちえりが主人公。忙しい母に代わる話し相手は、父の葬儀の際、土蔵で見つけたぬいぐるみのチェリーだけ。ちえりの空想の中では、チェリーは遊び相手であり、助言者であり、保護者でもあった。ある日ちえりは、父の法事のため、久しぶりに祖母の屋敷にやってきた。そこでちえりを待ち受けるものとは…。
この企画をスタートした時期に重なるように、東日本大震災が起きたという。確かに、作中では舞台が東北であることが匂わされている。ファンタジーでありながら、「生と死」や「命のつながり」を正面から描き、「失ったものは戻ってこない」ことを冷徹なまでに突きつける。それでも、その現実を乗り越えて成長していくちえりの姿が胸を打つ。筆者は、いつの間にか「人形」アニメであることを忘れていた。
監督の中村誠さんは、数百本にも及ぶラジオドラマやアニメの脚本・演出・プロデュース・グラフィックデザインを手掛けており、制作した人形アニメ『劇場版 チェブラーシカ』は原作者のウスペンスキーからも賞賛を得た。声優陣には、主演の高森奈津美さんのほか、星野源さん、尾野真千子さん、栗田貫一さん、サンドウィッチマンの伊達みきおさんと富澤たけしさんなどが顔を揃えた。
様々な想いと丹精が込められた佳品だ。機会を見つけてぜひご覧いただきたい。
(中津十三)
※ 『ちえりとチェリー』は、4月29日から5月5日まで横浜・黄金町のシネマジャック&ベティでと、5月14日に福島県立図書館での「赤十字パーク2017 in 県立図書館」で上映されます。併映は、同じ中村監督の『チェブラーシカ 動物園へ行く』です。