きむらゆういち(木村裕一)さん作の童話『あらしのよるに』が、歌舞伎化されたのは昨年9月の京都南座。私は当初これを聞いて、木に竹を接いだようなものではと思ってしまったが、今月東京・歌舞伎座で上演されているその舞台は、そんな考えを雲散霧消するほどの快作だ。
天敵である狼と山羊の友情を描いた原作絵本は1994年に刊行され、当初は1巻で完結の予定だったのが、好評に応えて第7巻の完結編まで続き、累計発行部数300万部を超える大ベストセラーとなった。
今回の舞台では、主演である狼のがぶ役は中村獅童さん、山羊のめい役を尾上松也さんが演じる。獅童さんは2005年公開のアニメ映画でもがぶの声優を務めており、まさにライフワークと言ってよいほどだ。
そもそも獅童さんがこの本に出会ったのは、NHK Eテレ『てれび絵本』で読み手となったこと。そこで獅童さんの今は亡きお母さんと、「(狐忠信=「義経千本桜」で、鼓の皮になった親を慕う子狐が武将・佐藤忠信の姿となって静御前を守る=もある)歌舞伎はそもそもファンタジー。この世界観こそ歌舞伎にぴったり」と確信して、歌舞伎舞台化を果たしたという。
種族を超えて友情を育むがぶとめいを見ていると、分断される人々で溢れる現実社会のつらさを思わずにはいられない。最後のがぶとめいの姿には、思わず涙ぐんだ。
本公演にかかるだけあって、隈取りや踊り、立廻りや見得、さらにだんまり(暗闇での動きを様式化したもの)など、歌舞伎ならではの様式を取り入れているが、結構ギリギリの線をついてくる。竹本や下座への本来ではありえない掛け合いも楽しい。
言わば初心者も見巧者もどちらも満足させる出来だ。「趣向を凝らす」とはこういうことなのだろう。むしろ歌舞伎を観たことのない人に勧めたい舞台だ。
(中津十三)
※ 「十二月大歌舞伎」は12月26日まで。詳しくはこちら。