6月5日、川崎市中原区と東京・渋谷区でヘイトスピーチ(差別煽動)デモが計画されたが、前者は10メートルと進まぬまま中止されたのに対し、後者は強行されて街中が騒然となるなど対照的だった。筆者は両方のヘイトデモにカウンターとして参加したので、これについて述べたい。
これに先立つ3日、ヘイトスピーチ対策法が施行されている。その後初めてのヘイトデモに対して警察がどのように対応するか、注目されていた。
川崎市の中原平和公園を出発地として行なわれようとしたデモには、始まる前から600人以上のカウンターが集結してヘイト側を圧倒。路上に座り込むシットインなどで阻止し、警察も主催者を説得、中止に追い込むことができた。
このデモは最初からここで計画されていたわけではない。在日コリアンが多く住む川崎区桜本地区周辺で予定していたのだが、横浜地裁川崎支部がデモ禁止の仮処分決定を出し、さらに川崎市も周辺の公園使用を不許可としたがゆえの場所変更だったのだ。
桜本地区に住み、ヘイトにさらされた崔江以子(チェ・カンイヂャ)さんは、ヘイトデモの主催者に手紙を渡した。そこには「加害・被害のステージから共におりませんか」と書いてあったという。中止後の集会で「絶望が希望で上書きされました」と話す崔さんに、聞いている私たちも涙を禁じえなかった。
それに対し、渋谷の宮下公園を出発点としたデモは、毎度のことながら警察に守られるように行進が行なわれ、参加者の顔ぶれはヘイトデモの常連ばかりだった。
とはいえ、ヘイトスピーチ対策法を意識してのことだろう、名目を「反日本共産党」とし、プラカードなどを事前にチェックし、トラメガは持ち込み禁止、コールも限られた文言となったようだ。今後のヘイトデモは、こうした政治デモの衣をまとって行なわれるのかもしれない。
2つのカウンターに参加して何よりも思ったのは、警察の対応の違いだ。川崎での神奈川県警警察官がヘイト側を向いて並んでいるのに対し、渋谷での警視庁警察官はカウンター側を向いている。どちらを規制したいのか一目瞭然だ。
これは、川崎市の福田紀彦市長が「不当な差別的言動から市民の尊厳と安全を守る」と反ヘイトの姿勢を明確にし、これに市議会も全議員が賛同したことが大きいのではないだろうか。これならば警察もヘイト側を向きやすいだろう。神奈川県警がヘイト側に対し「これが国民世論の力だ」と中止を勧告してしたのが印象的だった。
東京都の舛添要一知事は、身から出た錆のような問題でゴタゴタが続いている。窮地に陥った自分の起死回生を図るなら、何より世界に名だたる都市だというのなら、川崎市の姿勢を見習ってほしいものだ。
(中津十三)
NHK:“ヘイトスピーチの可能性” 反対派と言い争いに デモ中止
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160605/k10010546951000.html?utm_int=news_contents_news-main_006
*「警察が、主催者側に「デモを実施すると危険な状態になる」と説明したところ、主催者側がデモの中止を決めたということです。」
メディアによって、様々な報道があります。もし、NHK報道通りとしたら、同じ論理で私たちに返って来ます。