マガ9備忘録

大相撲初場所は大関琴奨菊が14勝1敗で初優勝を果たした。大関に昇進してからもなかなか優勝できなかったが、史上最も遅い在位26場所でつかんだ賜杯に、琴奨菊は満面の笑みだ。

確かに立ち合いや踏み込みが先場所よりも格段に速く、さらに自分の型である左四つにしてしまう力強さも。一時期は「ダメ大関」の烙印を押されていたが、30歳を超えればベテランと言われる相撲界で、自身の相撲スタイルを進化させての優勝は、本当に素晴らしい。

だが一部のマスコミは、「琴奨菊の優勝」ではなく、「日本出身力士10年ぶりの優勝」にしたいようだ。「日本人力士」という表現もあったが、モンゴル出身で日本国籍を取得した旭天鵬が2012年夏場所で優勝しているため、これは誤りだ。

表彰式後に土俵下で行なわれるインタビューでも、「それ(日本出身力士10年ぶりの優勝)はたまたま僕がそうなっただけ」と謙虚に答える琴奨菊。たいへん好ましい受け答えだった。

しかし、繁華街で配られた号外には「日本出身 10年ぶり」の文字が躍り、テレビのワイドショーでもよかったよかったの大安売り。月曜日の官房長官定例会見で、わざわざ菅官房長官に聞く記者もいた。琴奨菊は普通にしていても、マスコミがそういう空気を作っていくのだ。

ではその10年の間、もしモンゴル出身力士がいなかったら、と想像すると空恐ろしい。朝青龍も、白鵬も、日馬富士も、鶴竜もいなかったら…。大相撲の屋台骨を彼らが支え続けてきたことをあまりにも蔑ろにしてはいないだろうか。

最近は横綱白鵬が負けることを公然と願うような観客も目に付く。強すぎる大横綱とは言え、幾ら何でも非礼に過ぎるだろう。

わざわざ「日本出身」と括り、努力の末に外国人を倒す、という構図は、何のことはない、力道山らがシャープ兄弟らを倒す戦後のプロレスと変わらない。私たちはそこからまったく進歩していないということなのだろうか。

(中津十三)

 

  

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