この年末年始の休みに読んだ本の中でも、一気呵成に読んだのが、昨年12月15日に出版されたばかりの翁長雄志著『戦う民意』だ。翁長沖縄県知事の苦しみが伝わってくるようだった。
翁長さんはもともと保守政治家だ。自民党の政治家として那覇市議と沖縄県議をそれぞれ2期、その後保守系無所属として那覇市長を4期務め上げた。日米安保に賛成するからこそ、辺野古新基地建設強行でその体制が崩れることを危惧している。
何よりも自由と民主主義を奉じる立場として、沖縄の民意を一顧だにせず、その民主主義を蔑ろにする安倍政権への怒りを隠そうとしない。
この、「民主主義の危機」は沖縄だけの問題ではない、と翁長さんは指摘する。
沖縄の問題に対して見て見ぬふりをしていると、核廃棄物の中間貯蔵施設にしても最終処分場にしても、地方自治体にには何ら情報提供のないまま、国の都合で決まっていくことになるのではないかと思います。(90ページ)
そして、今までの米軍基地は占領や強制接収でつくられてきたものだが、この辺野古新基地は沖縄が初めて自ら基地を準備したものになってしまうという点も忘れてはならない。
土地を奪って、今日まで住民に大きな苦しみを与えておきながら、基地が老朽化したから、世界一危険だから、辺野古が唯一の解決策だから沖縄が基地を負担しろ、それが嫌なら代替案を出せ、と迫る。
言葉は乱暴かもしれませんが、他人の家を盗んでおいて、長年住んで家が古くなったから「おい、もう一回土地を出して家をつくれ」と言っているようなものです。それを理不尽と言わずして何を理不尽と言うのでしょうか。(32ページ)
基地で食っているのではないか、優遇されているのではないか、という誤解に対してもページを割き、丁寧に説明している。こうした問題を本土の人々にどう分かってもらうかに心を砕く箇所を読みながら、「沖縄の心とは、ヤマトンチュ(日本人)になりたくて、なりきれない心」という、元県知事西銘順治さんの言葉を思い出していた。
辺野古新基地建設への抵抗は、まだまだ困難が予想される。それでも、裁判などの司法手続きを尽くし、一方国連での演説で国際社会へのアピールを忘れない翁長さんの周到さは、理想に走らず現実主義に徹する実務者としての能力の高さを感じさせる。
苦しみが伝わる、と冒頭に記したが、民主主義の最前線に立つがゆえの苦しみなのかもしれない。翁長さんは“まっとーばー”(うちなーぐちで「真っ直ぐ」の意)に民主主義を実践し続けているのだろう。
(中津十三)