歌舞伎NEXT『阿弖流為〈アテルイ〉』が、7月上演の新橋演舞場に続き、10月3日から大阪・松竹座で上演される。
この舞台は、2002年に劇団☆新感線が上演した『アテルイ』が元になっている。中島かずきさんがオリジナル脚本作品として書き下ろし、いのうえひでのりさんが演出した『アテルイ』は評判を呼び、第2回朝日舞台芸術賞秋元松代賞を作品として受賞。さらに、中島かずきさんは岸田國士戯曲賞を受賞した。
今回はこの舞台を歌舞伎に移植、前作でも主人公・阿弖流為だった市川染五郎さんが同役を演じ、蝦夷討伐へ向かう坂上田村麻呂には中村勘九郎さん、謎に満ちた蝦夷の女、立烏帽子には中村七之助さん。その周辺を実力派歌舞伎役者が固め、充実の舞台となっている。
筆者は7月に観劇したが、まさに圧倒された。「歌舞伎NEXT」と銘打つだけあって、「これまでに見たことのない歌舞伎」だった。演者はもちろんのこと、衣裳、舞台転換、照明、御簾内での演奏、ツケ打ちなど、総合芸術であることを実感。芝居でしかできないことを見せつけられた思いだった。
蝦夷を征服しようとする朝廷。その蝦夷の抵抗勢力である阿弖流為と、征伐を命じられる坂上田村麻呂との奇妙な友情。彼らは戦い、いったんは和睦を試みるが、統一を目指す朝廷はさらなる手を打っていた…。史実のアテルイは、蝦夷に侵攻しようとした大和朝廷軍を退けるが、坂上田村麻呂に敗れて処刑されたとされる。
「まつろわぬ人々」を蔑ろにする一方、朝廷の藤原稀継(坂東彌十郎さん)や御霊御前(市村萬次郎さん)が言う、「帝のご意志」、「外国の攻撃から守るために、一枚岩にならねばならない」という言葉は、まさに現在の政治のカリカチュアだ。しかし…。
パンフレットに収められた染五郎さんを含めた鼎談で、中島さんといのうえさんはこのように語っている。
中島 2002年に上演したときよりもリアルに感じられるというか。『阿弖流為』で描いているのは民族の独立運動ですからね。
いのうえ 今のほうがリアリティを持って響く台詞がいっぱいあるんですよね。
中島 海の彼方の眠れる獅子が攻めてくるときのために国内をひとつにまとめるんだ、っていうところなんかは「こんなことを書いてたのか。冗談じゃないよな」と思ったり。
いのうえ 時代のシンクロニシティだね。
13年前に現在の社会状況を予見していたかのようだ。
「虐げられた民の悲劇的な運命」を超えた阿弖流為らの姿は、観る者に希望を与えてくれる。そうした主題とともに、新たな歌舞伎の可能性をも見せてくれる舞台なのだ。
(中津十三)
※ 歌舞伎NEXT『阿弖流為』は大阪・松竹座で10月17日まで。詳しくはこちら。