戦後70年ということもあって、あの戦争を振り返り、戦争や平和を問いかける番組が目立った今年8月のテレビ。さまざまなアプローチがあったが、14日に放送された子ども向けのアニメ番組『おじゃる丸』のスペシャル「わすれた森のヒナタ」には心を揺さぶられた。
『おじゃる丸』はNHKのEテレで放送されており、不連続ではあるが、今年の10月で放送開始から17年となるのだから、立派な長寿番組と言えるだろう。
主人公は今から千年前のヘイアンチョウから月光町にやってきた妖精貴族の子ども、坂ノ上おじゃる丸。エンマ大王のシャクを手に、カズマくんの家に居候。シャクを取り返そうと追ってきたエンマの配下の子鬼トリオも加わり、いろいろな騒動が…というのが通常の番組だ。
しかしこの「わすれた森のヒナタ」は、いつもの、ほんわか、まったりしたアニメとは違って、戦争を正面から取り上げ、放送時間も拡大した異色の作品となっている。
ある夏の日、ピクニックに来たおじゃる丸たちが遊んでいると、いつの間にか知らない子がまじっていた。チャンバラが得意な元気な女の子だ。“ヒナタ”というその子は記憶を失っていて、両親や家のことも忘れていた。
ヒナタを送っていくため森の中で出会った、同じように自分のことを忘れた不思議な生き物たち。亀のドンゾー、鳥のビーちゃん、火薬のボンスケ。実は彼らには夢があった。しかし…。
戦争の恐ろしさ、悲しさ、つらさは、できることなら忘れたい。しかし本当は忘れてはいけない。これをどのように子どもたちに伝えるか、監督の大地丙太郎さんは、大変苦しんでつくり上げたそうだ。その思いを、「戦争をなかったことにしてくれ」と言うおじゃる丸に対するエンマ大王の台詞に託したという。
「戦争は、もう起こってしまったのじゃ。起こってしまったことは、決して元には戻せぬのじゃ。こればかりはわしとてどうにもできん。わしにできることがあるとすれば、そのような愚かな戦争を起こした者がわしの前に現れたとき、いやと言うほどこっぴどく説教をしてやることくらいじゃ」
心に突き刺さるこの番組が放送されていた裏では、安倍首相が冗長な戦後70年談話を発表していた。
(中津十三)
※ 『おじゃる丸』スペシャル「わすれた森のヒナタ」は8月23日(日)16時30分~16時59分、NHK Eテレで再放送されます。