先週7月9日を境に、在日コリアンが日本での在留資格を失い本国に送還されるというデマがあったことはご存じだろうか。この日を機に「不法滞在」となる彼らを入国管理局に通報しろというまとめサイトまででき、実際に、入管サイトの情報受付フォームや電話による「通報」が相次いだという。
現在、新在留外国人管理制度によって、外国人登録法の廃止と、それに伴う住民基本台帳法への移行が行なわれており、歴史的経緯と関連する「特別永住資格」を持つ在日コリアンなどについては、外国人登録証明書から特別永住証明書への切り替えが進んでいる。その一部の期限がこの日であることがデマの発端のようだ。
しかし、そのような事実はまったくない。それどころか「通報」によって一時的に入管サイトのフォームがつながりにくくなったということだ。これは事実上の「サイバー攻撃による業務妨害」ではないか。
作家の中沢けいさんは自身のツイッター(7月10日)で、以下のように指摘した。
7月9日在日国外退去デマの悪質さは、これまで「ザイニチ」とレッテルを張る(言うだけ)だったものが「通報」という行為を促す点にある。狂信者に行為を 促すという点で、ヘイトクライムへの距離を大きく縮めた質的変化を伴っている。デモや街宣などの集団的行為から「個別の行為を扇動する」変化。
デマによるデモや街宣などの集団的な行動よりも「個別の行為の扇動」のたちの悪さは突発的な事件を誘発する可能性が高いところにある。池上彰の番組にみられるような薄く広く漂う「嫌韓気分」がこの「個別の行為の扇動」と結びつくことを考えると頭が痛くなってくる。
このデマの発信元は当然悪意を持っているだろう。それを受けた比較的上位にいる者は、情報リテラシーが低いから飛びついたわけではない。確信犯的に差別扇動行動に加担したのだ。SNS上で名や顔を出しているような人までがデマを拡散していたのには唖然とするしかなかった。そしてそれが、本当に情報リテラシーの低い情報弱者に及んだとき…。
九十数年前の9月の東京で何が起きたか、思い返さざるを得ない。
これに対する行政の動きは相変わらず鈍い。デマ発信元の特定と摘発、デマの明確な否定、そして再発防止策をとらねば、繰り返される危険性がある。下にあるようなポスターで啓発しているはずの法務省は何をしているのだろうか。
(中津十三)