辺野古とともに、沖縄での抵抗の最前線となっている東村高江。この地に住む伊佐真次さんが『やんばるからの伝言』(新日本出版社)という本を出した。
伊佐さんは1962年生まれ。沖縄伝統の位牌(トートーメー)を作る木工の仕事を父親から継いでいる。木工場の騒音があるため、沖縄市から高江に移り住んだのだ。
高江については、三上智恵さんの連載でもご承知だろうが、要点のみもう一度。米軍ヘリパッド(オスプレイパッド)建設に抗議して座り込んだ高江住民のうち、伊佐さんともう1人は、政府によるSLAPP(スラップ)訴訟の被告にさせられてしまった。「ヘリパッドの是非」を「通行妨害の有無」に論点をすり替えた、まさに住民運動への嫌がらせ裁判だった。
最高裁の上告棄却によって通行妨害が確定され、さらにヘリパッドも一部完成してしまったが、伊佐さんはくじけない。昨年9月、落選が続いていた東村議会議員選挙に3度目の正直で当選したのだ。
彼の当選や翁長雄志沖縄県知事の誕生によって潮目は変わってきた。村長は依然ヘリパッド建設を容認しているが、村議会はその使用禁止を求める意見書と抗議決議を、2月23日に全会一致で可決した。
だが、それをあざ笑うかのように、24日にCH53ヘリ、25日にMV22オスプレイが飛来し、訓練した。17日の閣議決定によるものだが、この訓練は返還に先立つ先行運用だ。今後こうした住民無視が常態化していくのだろうか。
この本は、日本平和委員会発行の「平和新聞」連載をまとめたものだ。連載開始は2009年2月なので、この年9月からの民主党を中心とした連立政権発足による期待と、その後の失望は読んでいてつらい。仲間の死など茨の道もある。それでも、伊佐さんの筆致はあくまでも優しく、丁寧で、軽やかだ。
森住卓さんが撮影した数々の美しいカラー写真も素晴らしい。自然豊かな高江で、人々は確かに生活している。しかし最後はオスプレイを写したモノクロ写真。まさに現実に引き戻される。
エピローグでは「米軍北部訓練場がなくなったら…」と題して、伊佐さんは次のように綴っている。
美しいやんばるの森をもっともっと生かすことができるでしょう。可能な限り開発しないで保存し、利用できるところは利用する。たとえば、亜熱帯の自然にあこがれて訪れる観光客が、きっと増えるでしょう。貴重な自然を保護するためには、フォレスト・レンジャーのような保安官、ガイドだって必要。そうしたら雇用が生まれます。世界自然遺産登録だって夢じゃない。沖縄の自然が青い海だけではないってことを、たくさんの人に知ってほしいな。修学旅行の中学生や高校生たちに、やんばるの森の空気を味わってほしい。
「平和新聞」編集長・布施祐仁さんの文にある通り、「『反対運動』をしているつもりはない。ここで平和に暮らしたいだけなんだ」という思いが、この本には詰まっている。(中津十三)
政府によるSLAPP(スラップ)訴訟って始めて聞きました。
政府も優しいですよね。実力行使じゃなくて,きっちり裁判やるんですから。
平和にこしたことはないですけど,何もしなければ常に平和かっていうと,歴史は違うと言っていると思いますね。