マガ9備忘録

フジテレビ系で放送されている「ミュージックフェア」と言えば音楽番組の老舗だ。1964年の放送開始からずっと塩野義製薬の一社提供。数組のアーティストがじっくり歌を聞かせる、本格的歌番組として知られている。

さて、音楽グループ・ラッツ&スターのメンバーによる先日のツイッター(現在は削除)によると、アイドルグループ・ももいろクローバーZとのコラボで、皆がかつての彼らのように顔を黒く塗ってのパフォーマンスが収録され、「ミュージックフェア」3月7日放送予定だという。ここに上げられた写真を見て、私は危惧を感じた。これはまるで「ミンストレルショー」ではないかと。

ミンストレルショーとは、19世紀の米国の大衆演芸だ。焼いたコルクなどで顔を黒く塗り、唇を厚くかたどった白人が漫談や寸劇、歌、踊りなどを披露するのだが、内容は「怠惰で愚か」とされたアフリカ系黒人奴隷のカリカチュアを、これまた誇張した黒人訛りでその存在を嘲笑するものだった。

後にこれを黒人も演じたという。白人がつくった差別を、生活のためとはいえ黒人自身が演じ再生産していくのだから残酷な話だ。ミンストレルショーは、米国のエンターテインメントの嚆矢であると同時に、ステレオタイプの「黒人像」を形成するのに強い影響を与えたのだ。

ミンストレルショーは、第2次大戦後、公民権運動の高まりとその成果の公民権法成立によって、演じられることはほぼなくなった。先述の黒塗りの顔は「ブラックフェース」と呼ばれ、現在でも忌避されている。

翻って、今回の問題である。ラッツ&スターが「シャネルズ」という名でデビューしたのは1980年。日本におけるドゥーワップの第一人者でもあり、一般の人々にブラックミュージックへの扉を開いたグループであることは間違いない。

それだけのグループなのだから、ブラックフェースにこうした歴史があることも承知しているだろう。事実、ラッツ&スターのメンバーが、来日した黒人バンドのフィッシュボーンに睨まれた、と告白しているではないか(『QuickJapan』07号)。その視線に何も感じなかったのか。

彼らのブラックフェースにしても、当初は黒人音楽へのリスペクトということで好意的に受け止められていたが、差別ではないかとの指摘があってやめたことを記憶している。

であればこそ、いまブラックフェースを公共の電波に乗せるとはどういうことなのか、立ち止まって考えてほしい。

ラッツ&スターのデビューから35年、今では人権意識も変わっている。何より、インターネットで瞬時に画像が世界に広がる時代だ。この時代に「ミンストレルショー」はいらない。ラッツ&スター、ももいろクローバーZの関係者、そして「ミュージックフェア」を制作するフジテレビと、スポンサーである塩野義製薬の慎重な判断を望む。(中津十三)

※ ブラックフェースを放送しないよう訴える署名サイトがあります。こちらもぜひご覧ください。

 

  

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