去る1月17日、東京・亀戸のカメリアホールで「関東ウタリ会結成35周年記念講演 アイヌ文化と人権の集い」があり、参加した。
「ウタリ」とは、アイヌ語で「同胞」の意味。関東ウタリ会は、北海道を離れ関東圏に住むウタリが集い、お互いの悩みや相談ができる交流の場をつくることを目的に、1980年7月15日に設立された。会員相互の親睦のほかに、アイヌ語の学習会やアイヌ文様刺繍作品の制作、アイヌ楽器演奏の習得など文化・芸能の発展にも力を入れている。
1部での「関東ウタリ会と私」と題しての6人の講演のうち、印象に残った2つを紹介する。
横山むつみさんによる講演『民族意識をはぐくむ活動』。横山さんは1948年、北海道・登別生まれ。『アイヌ神謡集』で知られる知里幸恵の姪にあたる。現在は知里幸恵銀のしずく記念館館長、NPO法人知里森舎理事長を務めている。
1986年、中曽根康弘首相(当時)の「日本は単一民族国家」発言に対して抗議したことで、それまで興味本位的だったマスコミによるアイヌ民族の取り上げ方が変わり、これによって自分たちの帰属意識をはっきりさせられたという。横山さんは一連の動きを「社会が動き出した、うねりをつくることができた」と表現した。
講演する横山むつみさん。後ろにはアイヌ民族衣装であるアットゥシが。
北原次郎太さんによる講演『わたしのコタン』。北原さんは北海道大学アイヌ・先住民研究センター准教授。アイヌ語で挨拶を行い、私は分からないが、独特の節回しが美しかった。東京生まれで、幼い頃から親に連れられて関東ウタリ会に参加していた北原さん。青少年期に、曾祖母が樺太アイヌであり、北海道のアイヌとは言葉やイナウ(儀礼具)が違うことを知ったという。
その後親になって、親や先祖たちにもらったものを次代に引き継ぎたい、と語った。なるほど、子ども連れでの参加者が多い。また、女性も目立つ。アイヌ民族における家族、女性の重要性はこうして継承されているのだと実感した。
北原さんの言葉で印象的だったのは、「多数派は自分のことを説明する必要がない/少数派は自分のことを説明し、さらに認証してもらう必要がある」だった。昨今の札幌市議による「アイヌ民族はもういない」発言はもちろん、あらゆる差別に当てはまる言葉であり、考えさせられる。
中学生用副読本『アイヌ民族:歴史と現在』に掲載された、北原さんの「若いアイヌの思い」。
ほかにも、北原きよ子さんを司会に登壇した6人の講師によるパネルディスカッション、さらに2部ではトンコリ演奏・踊りと続いた。都合で最後までいられなかったのは残念だったが、さまざまな話を聞き、私にはちょっと縁遠かったアイヌの文化を身近に感じることができた。(中津十三)
※ 『アイヌ民族:歴史と現在』は、こちらで見ることができます(要PDF)。