文学雑誌の新年号は、いつもの号にもまして目玉企画で読者の目を惹く。「文學界」2月号はお笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんの小説『火花』の掲載で発売翌日に7000部増刷し、計1万7000部になったことが話題となった。
同じく文学雑誌の「すばる」2月号に載った、作家・中村文則さんと政治学者・白井聡さんの対談『「戦後」を動かぬ日本に問う』がエキサイティングで実に興味深かったので、紹介したい。
中村さんの最近著である昨年12月に出版された『教団X』は、対立する2つの宗教団体にまつわる人々を、抑制的な筆致で、しかしダイナミックに描き上げた力作だ。白井さんは、戦後日本の問題点を抉り出した2013年刊行の『永続敗戦論』がロングセラーとなっている。
ともに1977年生まれと、文壇・論壇では若い2人だが、同じ若い世代に政治問題が伝わっていかないもどかしさ、苛立ちを語り合うところから対談は始まる。「僕らと同じようなことを言っている三十代が他に誰がいるのか」(中村さん)「下放でも食らって国家権力の何たるかを学んでもらったほうがいい」(白井さん)
そして2人の著作をきっかけに「戦後」を大胆に問うていく。小見出しを拾うと、オウム事件の衝撃、うっすらと日本を覆う感情劣化、敗北のごまかし、「気持ちよさ」を駆逐する、対米従属のねじれた本質、「不能国家」の焦燥、戦後日本を引きずる「慰安婦」問題…。
「安倍さんの憲法九条に対する扱いは、アメリカが置いていった小娘に対するレイプなんです」。現代保守の核心に性的なリビドーの動きがあるはずだからこそ、こう喩えると言う白井さん。『教団X』に登場するセックスで洗脳するカルト教団を連想してしまった。
しかし、憲法改定や集団的自衛権などにもっともらしい理屈はつけるものの、実は現実に直面できない。「現実の否認をすればするほど、危機を招くということになる。非常に恐ろしいな」(中村さん)。
最後の小見出しは「『二番目の茶番』が起きてからでは遅い」。マルクスの言葉「歴史は反復する、一度目は悲劇として、二番目は茶番として」を引用し、現状への危機感は高まるばかりだが、最後に、少数派を認識しながら政治的発言を続けていくことを2人は決意する。
となると、ボールは投げられた。若い世代よ、大文字の政治問題を語れないままでいいのか、と。「非当事者意識」こそ変えなくてはならないのだ。(中津十三)
※ 中村さんと白井さんの対談のダイジェスト版はこちらで読むことができます。