小欄ではSLAPP(スラップ)訴訟について何度か触れてきたが、また宮崎県で同じ問題が起こっている。産業廃棄物の不法投棄に悩まされた主婦がこれをネット上で指摘したところ、名誉毀損だとして業者から訴えられたのだ。
この主婦は、日向市に住む黒木睦子さん。家の近くで、日向製錬所がニッケル精錬過程で出るスラグ(鉱滓=こうさい)を捨てている。じき、家族に咳が止まらないなどの症状が表れるようになったという。彼女は精錬所と、スラグを運んでいるサンアイに投棄をやめるよう要請し、また県と市に指導するよう申し出た。
しかし、日向製錬所は「国も認めた安全な物であり、製品だ」として撤去を拒否。県は「グリーン・サンドは産廃でない」、市は「製錬所が無害と言っているのなら無害である」と、まったく埒が開かない。
県の回答の中に出たグリーン・サンドとは、スラグを水砕し細粒化した人工砂製品の商品名。日向精錬所の関係会社である住友金属鉱山のHPには、グリーン・サンドからの重金属等有害物質の溶出量および含有量は環境基準値内であるとしている。
しかしそのスラグが積まれているところの沈殿池の水を調べると、環境基準値の鉛210倍、ヒ素50倍、フッ素20倍、総水銀15倍、カドミウム3倍、セレン3倍が検出された。黒木さんはこのデータを県に持っていったが信じてもらえず門前払いだったそうだ。本当に不思議な話だ。産廃について、後ろ暗いことでもあるのかと疑われても仕方がない。
遂にはブログやツイッターでこの問題を告発した黒木さんを、公表してよいと言っていたはずの日向精練所とサンアイが宮崎地裁延岡支部に提訴した。まさにSLAPP訴訟の本質である「口封じのための嫌がらせ裁判」。11月14日に日向精練所、18日にサンアイとの第1回口頭弁論が開かれた(14日の模様はこちらで見ることができます)。
宮崎の公害といえば、土呂久ヒ素公害を思い出す。高千穂町岩戸の土呂久鉱山では長く亜ヒ酸を製造する「亜ヒ焼き」が行われていたが、これによって煙害や水質汚染が起き、慢性ヒ素中毒症(癌や皮膚障害、呼吸器疾患など)の患者が相次いだ。1971年、九州のブロック紙西日本新聞が報道し、被害が明らかになった。
73年に国が第4の公害病に指定したが、被害住民は75年に住友金属鉱山を相手取って宮崎地裁延岡支部に提訴。84年の一審では原告全面勝訴、88年の控訴審判決では一部後退しながらも勝訴だったのだが、90年に裁判の長期化もあって、見舞金の支払いなどを条件に和解に持ち込まれた。
こうした歴史を持ちながら、公害の告発に対して手をこまぬくばかりか放置する行政の責任は、SLAPPを仕掛ける業者同様に重い。
産廃投棄や公害の有無が争点なのに、名誉毀損によって訴えた業者。「論点のすり替え」はSLAPP訴訟の特徴だ。そのもうひとつは「事実争いの泥沼に引きずり込む」。法廷技術の問題ではないはずだが、弁護士を立てていない黒木さんは、当然苦しいだろう。全国からの注視が必要だ。(中津十三)
宮崎県に問い合わせすると、「日向市西川内地区におけるグリーンサンドを使用した造成工事に係る土壌汚染対策法第4条に基づく届出はございません」との回答をえました。
土地所有者等は、土壌汚染対策法により第六十六条の規定によりは、三月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処されることになります。
http://blogs.yahoo.co.jp/atcmdk/54912534.html