マガ9備忘録

さまざまなデモやレイシストへのカウンターにその人はふらりと現れ、ごく自然に頭数になる。独特のヘアスタイルで、ミュージシャンの中川敬さんだとすぐに分かる。その中川さんがリードヴォーカルを務めるソウル・フラワー・ユニオンのオリジナルニューアルバムが4年ぶりにリリースされた。タイトルは『アンダーグラウンド・レイルロード』

underground

ライナーによると、19世紀米国南部の黒人奴隷が、奴隷制の廃止されていた北部やカナダへ逃亡することを援助した秘密組織とその逃亡路を「地下鉄道=アンダーグラウンド・レイルロード(Underground Railroad)」と言うそうだ。

差別が厳としてあった時代に自由を希求する黒人たちに思いを馳せるタイトルだ。その先に公民権運動があることは言うまでもない。ただ、公民権運動というと“米国で黒人が行なった”限られた運動と考えてしまいがちだ。それを「人権を求める」ものと考えれば、現在のレイシズムが溢れる時代とすぐに地続きになる。

収録の「地下鉄道の少年」「残響の横丁」は、そうした文脈で聴かれるべき反レイシズムソングだろう。ライナーにあしらわれた、反レイシズムや秘密保護法廃止、反原発などのデモ・パレード、イスラエルのガザ攻撃や辺野古・高江の米軍基地への抗議、がんばっぺ女川など東日本大震災被災地への支援の写真には胸が熱くなる。

また、榎本健一(エノケン)のカヴァー「これが自由というものか」の詞は強烈だ。60年前の三木鶏郎の冗談音楽だが、現在の歌詞としてもまったく遜色ない。さらに中川さんが、原発事故や改憲風潮、レイシズムやファシズムの横行について補った4番の歌詞の見事な溶け込み方は、こんな時代だからか。

こう書いていると頭でっかちに思うかもしれないだが、そんなことはまったくない。むしろ聴けばそのグルーヴ感に踊らずにはいられない。ファンキーさ、抒情性、さらにはどこか昭和歌謡や民謡を感じさせる部分までが、激しく、優しく、官能を刺激する。最後の「世界はお前を待っている」では思わず涙が流れた。

現代社会へのコミットとエンターテインメントを見事に両立させるソウル・フラワー・ユニオンの新譜は、紛れもなく「いま」を見据えた名盤だ。(中津十三)

※ 小欄その23では、石田昌隆さんが著した、結成20周年記念評伝『ソウル・フラワー・ユニオン 解き放つ唄の轍』(河出書房新社)を紹介しています。

 

  

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

最新10title : マガ9備忘録

Featuring Top 10/166 of マガ9備忘録

マガ9のコンテンツ

カテゴリー