新聞を開いたり、テレビニュースを見るのが最近苦痛だ。立憲主義を蔑ろにする内閣がのさばり、レイシストが跋扈する。世の中というより、人間そのものが嫌になってくるほどだ。
そんな思いを抱えながら、東京・代官山SPACE Kでの、上野祥法×小岩井ハナ 写真二人展「接点- A POINT OF CONTACT -」に出かけた。東急東横線代官山駅近くの小さなギャラリーだ。
上野さんは1981年青森県生まれ。小岩井さんは1994年宮城県生まれ。2人の写真家は東日本大震災の 5カ月後、宮城県の小さな漁師町で出会ったという。
チラシにはこうある。「出会ってからの3年間、それぞれのまわりをたゆたう不思議な縁の風を収めた写真展。出会いと別れ、過去と未来、それはほんのちいさなキッカケで繋がり今日まで紡がれてきた。それは風のようでもあったし、寄せては返す波のようでもあった」
タイトルが「接点」というだけあって、震災からの3年間に彼らが出会った―接点を持った―人々のポートレートが、見るものの心を掴んで離さない。
2人の写真は好対照だ。上野さんはモノクロームで説明がある。被災地の祭りで演じられる神楽の様子、震災に募金してくれたタイのスラムの人、集団的自衛権行使容認への抗議行動などを見るとこの3年を思わず振り返ってしまう。
一方、小岩井さんはカラーが主で説明はない。見る者の想像に任せる部分が大きいが、視点があたたかく、被写体がぐっと近くに感じられる。展示でなくポストカードとして売られていた電柱や菜の花畑などの風景写真も魅力的だ。
ただ、どちらも被写体の一瞬を切り取った中に溢れんばかりの愛を感じるのだ。ごく普通の人たちの、笑顔や涙、いろいろな眼差し、表情…。見ることで心が豊かになっていくのが分かる。
この写真展との「接点」を持って、人間は美しいじゃないか、素晴らしいじゃないかと、当初の思いはいつの間にか雲散霧消してしまった。(中津十三)
※ 上野祥法×小岩井ハナ 写真二人展「接点- A POINT OF CONTACT -」は、代官山SPACE K(東京都渋谷区猿楽町25‐1、エディ代官山201)で10月5日(日)まで開催。時間は12時から20時まで(最終日は17時まで)。入場無料。