「嘘も百遍言えば本当になる」を地でいくプロパガンダの数々が、ここまで揃うと圧巻だ。早川タダノリ著『原発ユートピア日本』(合同出版、1800円+税)を読んで、率直に、そう思った。
著者の早川さんは、自身のツイッターの自己紹介によると、編集業兼DTPオぺレータ。他の著書に『神国日本のトンデモ決戦生活 広告チラシや雑誌は戦争にどれだけ奉仕したか』(合同出版、ちくま文庫)、『「愛国」の技法 神国日本の愛のかたち』(青弓社)などがある。
これらの本は、その当時の広告などプロパガンダ資料を収集し、分類、提示したものだ。先述の2冊は、さきの戦時下に戦意高揚のため展開され、生活の隅々にまで入り込んださまざまな宣伝・扇動が紹介されている。
一読「トンデモ」に見えるが、当時は大真面目にやっていたのだろう。笑って呆れた後にうそ寒くなる。この『原発ユートピア日本』を読むと、時代を戦後に、対象を原発に替えただけで同じようなことをしているのが分かる。
第1章は、読売新聞などの原子力啓蒙キャンペーンから始まる。有名な連載記事「ついに太陽をとらえた」、各地で開かれた「原子力平和利用博覧会・展覧会」…。原爆に象徴される負のイメージが転換できるとは! 人々にとってさぞ魅力的に映ったに違いない。
しかし誰かは、本当のことを知っていたはずだ。何かがあれば、ただではすまないことを…。
国策の常で、走り出すと止まることを知らず、組織や権限は膨張していく。第2章からは、政府広報はもちろん、電気事業連合会(電事連)や電力会社、日本原子力文化振興財団などの新聞広告が並ぶ。
新聞だけに収まらない。テレビCM、広報誌やパンフレット、児童・生徒向けの副読本の発行、イベントの開催、webサイトのゲームなど。これらの原資は、政府なら私たちの税金、電力会社関係なら総括原価方式で決められた電気料金だ。潤沢なカネで、繰り返し繰り返し行われるプロパガンダ。
さらに腹立たしいのは最後の第8章。資源エネルギー庁のメディア監視事業の実態に唖然とさせられるが、この章のタイトルがすべてを物語っている。「国策に敵対する不正確な報道を摘発せよ」だ。
早川さんはあとがきで、「内容の愚劣さやウソの数々を糾弾する前に、『二度とダマされない』ための原発PR類型集として活用していただければ幸いです」と書いている。
そうなのだ。原発は危険であると思いつつも、何となくやりすごしてしまった自分を省みる。そこにはこのプロパガンダの数々の影響が、わずかだとしてもあったのではないだろうか。
そして、3・11を迎えた私たち。そう考えると、とても笑ったり呆れたりすることはできない。悔恨の書といえるのかもしれない。(中津十三)