今や世界無形文化遺産に指定されている人形浄瑠璃文楽。その国立劇場2月公演第3部を見る。演目は『御所桜堀川夜討』「弁慶上使」、『本朝廿四孝』「十種香」「奥庭狐火」。客の入りは8割ほどか。
私は歌舞伎は比較的よく見ているのだが、文楽見物は久しぶり。ゆえにどちらの演目も歌舞伎でも見たことがあり、生身の人間と作り物の人形の違いも含め、その比較も楽しい。
大夫、三味線、人形遣いの技芸員三業が一体となって人形だけでなく、芝居に魂がこもる。木偶だったはずの人形の演技に魅せられる。時に迫力、時に繊細な義太夫の語り、自在な三味線の演奏に酔いしれる。
殊に「十種香」では、簑助さん、文雀さんという人間国宝の2人が八重垣姫、濡衣の役割となり、人形遣いの流麗さ、感情表現の豊かさに舌を巻いた。嶋大夫さんの義太夫、富助さんの三味線も聞かせる。続いての勘十郎さんの「奥庭狐火」も素晴らしく、最後の拍手がなかなか鳴り止まなかった。
思えば、近代の文楽の歴史は苦難続きだった。明治末期からの人気衰退による松竹への譲渡、度重なる劇場や人形・衣装の焼失、技芸員の労働組合結成にまつわる分裂…。
ついには経営難で松竹が撤退を決めたが、大谷竹次郎松竹会長、佐伯勇近鉄社長らが奔走し、大阪府・市を主体に国・NHKの出資で財団法人文楽協会が発足。文楽協会が技芸員三業全員と契約する際、各人の技能の絶対的評価と相対的査定を下すのは相当難問だったという。
さて、橋下徹大阪市長が「大阪都構想」推進の是非を問うとして辞職し、出直し市長選挙が来月行われる。市選挙管理委員会は、この出直し選の費用を約6億円と試算。一方、国立文楽劇場の初春公演の入場者数が満額支給ラインに達しなかったとして、市は文楽協会への補助金を700万円カットした。
文楽という大阪発祥の文化財に対し、異常とも思えるほどの批判・中傷を加えてきた橋下市長。選挙費用は民主主義の対価だ、と強弁するが、補助金は文化保護育成の対価ではないのだろうか。(中津十三)