2013年9月21日@渋谷校
「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。
弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、随時レポートしていきます。
なおこの講演会は、一般にも無料で公開されています。
講演者:三谷英弘氏
(みんなの党衆議院議員、弁護士、元伊藤塾塾生)
講師プロフィール:
1999年:(旧)司法試験合格
2001年:弁護士(第二東京弁護士会)登録
弁護士としての専門は、知的財産権(エンタテインメント、インターネッ
ト関連)、個人情報(プライバシー)、紛争処理(裁判)、その他企業法務など
2007年:ワシントン大学ロースクール(知的財産権LL.M)
2008年:日本における弁護士業務に復帰
2010年:みんなの党東京都第5区(目黒・世田谷)支部長に就任
2012年:衆議院 比例東京ブロックにて初当選
主な著書に『著作権の法律相談 第二版』 青林書院(共著)、『誰でもわかる最新個人情報保護法』エクスメディア(法律監修)、『個人情報管理ハンドブック』商事法務 (共著)、『ITの法律相談』 青林書院(共著)など
三谷さんは、弁護士として10年近く、エンタテインメントやインターネット関連の業界をクライアントとして仕事をされてきました。そして2012年12月の衆議院選挙において480人中480番目で当選。それから8か月の間、国会での質問回数は26回を重ね、「全力疾走をしてきた」とのことです。三谷さんはなぜ、弁護士から政治家に転身したのか? また、政治家として何を実現しようとしているのか? これまでの経験と未来に向けての思いを語っていただきました。講演の一部を抜粋して紹介いたします。
■日本の制度への疑問
私は、以前から政治家になりたいと思っていたわけではありません。司法試験に受かった時には、弁護士としての人生を過ごそうと考えていました。弁護士の仕事にもいろいろな分野がある中で、自分の趣味的な部分も活かせるということで、ITやエンタテインメントの分野でこれまで仕事をしてきました。
しかし弁護士業をするうちに、アメリカではできるけれど、日本の制度ではできない事がものすごく多く、それが日本企業の国際競争力を発揮できないようにさせていることに気づきます。例えばGmailには、その人が打ち込んだ情報に関連する広告が表示されます。日本の企業であるYahooのメールでは、「通信の秘密」に縛られてそういったことはできないことになっていますが、Googleはアメリカ企業なので日本の法律では規制ができません。だから公平な土台で闘えず、顧客がどんどん海外に流れていってしまうのです。そういったことが、今の日本にはあまりにも多いのです。
もちろん「通信の秘密」は大事なことですが、ネット時代ではこれまでの法規制では対応できないことがたくさんあります。それらは時代に合わせて変えていく必要があると思うのです。日本の制度では、新しいアイデアを実現したいと考えても、規制が厳しく難しい。だから新しいことに挑戦しようという雰囲気も出てきません。
そういったことを感じながら日本で弁護士を続けていたのですが、この時点では自分が政治家になって現状を変えようとまでは思っていませんでした。
■アメリカ留学で政治家を志す
決定的に変わったのは、アメリカ留学の体験でした。シアトルにあるワシントン大学や、シリコンバレーなどで多くのベンチャー企業で働く人たちと触れあいました。彼らとの出会いは新鮮でした。日本では、一般的ではない人が「オタク」と呼ばれ排除されたり、社会が悪いと文句は言うけれど、その社会に何とか自分を合わせて生きていこうという人が大多数です。
でも、アメリカでは趣味や考えが違っていても、それぞれの生き方はリスペクトされます。また、社会が悪いと文句を言うのではなく、自分で変えてみようと考える人が多かったし、それが当たり前だと捉えていました。
日本とアメリカとの大きな違いは、とにかく社会にコミットして、変えていくことが重要だという姿勢です。そこに衝撃を受け、自分自身を振り返りました。それまでは自分も、「日本は経済が低迷している」とか、「少子高齢化で希望がない」とか、評論家みたいな振る舞いをしてきましたが、留学から帰ってきて、弁護士として自分には何ができるのかと考えるようになりました。そこから、他人任せにするのではなく、社会を変えたいのなら自分が立候補して政治家になろうと考えるようになりました。
■政策と選挙
まだ半年の経験しかありませんが、私が政治家になってから、この仕事について感じたことを述べたいと思います。政治家の本分は国会で政策を実現するために活動することなのですが、それを熱心にすればするほど、地元との距離が離れていくようなところがあります。国会と地元では全く求められることが違います。そういう意味では、弁護士の仕事より遥かにハードだと思います。その理由は、政策と選挙がぜんぜん違うものだからです。
弁護士であれば、クライアントに満足してもらえばそれでいいのですが、政治家はありとあらゆる人を相手にしないといけません。国会で質問する際にも、いろいろなところに影響が出てくるものですから、いろいろな角度から検証する必要があります。
また国会でいくら頑張ったとしても、地元で信頼してもらわないと次の選挙では勝てません。地元での理解を得るためには、理想を言えば政策を訴えて納得してもらうことなのですが、選挙区にいる50万人の有権者を相手に、それをするのは正直言って難しい。「あの人が言うなら信用できる」と思ってもらうことをめざすしかありません。ではどうするかといえば、お祭りに行って盆踊りをしたり、神輿を担いだり、新年会で一気飲みしたりとか、そういうことに精を出すことになるのです。
私は、「政策で人を選ぶ」というのは、残念ながら日本ではフィクションだと考えています。だから「政策なんか意味がない」と考えている政治家も少なくありません。私はそういった部分を変えていくべきだと思っています。
■実現すべき政策
私が実現したいと考えている政策はいくつかありますが、その一つが、伊藤塾の塾長も掲げている、一人一票の実現をめざした選挙制度改革です。これが、今までの選挙のあり方を考えると、大きな起爆剤になるはずです。特に人口の多い都市部は、一票に満たない地域が多いのですが、そのような都市部には若い人が多く住んでいます。若い人は柔軟だし、これといった決まった政治家を応援しているわけでありません。でもせっかく柔軟な声があっても、若い人たちの票が一人一票にも満たなければ、その声を充分に反映できないという問題があるのです。これを変えていきたい。
また、「コンテンツを利用した文化外交」もちゃんと進めていきたい。現在は、クールジャパン政策というのを進めているのですが、今やっているものはマンガやアニメなどを海外に売ってお金儲けをしましょうという政策です。これは私はやり方が違うと思うのです。
日本で売れているものは、すでに民間主導で海外に輸出されています。売れるべきものは、たいていはすでに売れているのです。そこに政府がお金を出して入っていく必要があるのかは疑問です。民間がやらない部分は儲からないからやらないのです。政府は「クールジャパン推進機構」で500億円を投資することになっていますが、それで失敗したら誰が責任を取るのでしょうか? 私は国会でこの問題を取り上げましたが、責任を取るという人は誰一人出てきませんでした。無駄に500億円が消えてしまう可能性が高いのではないかと考えています。
それなら、まだ日本のカルチャーが全く入っていない国や地域にお金をかけて、民間が入っていく下地をつくるといったやり方をした方がよほどマシです。実際に韓国などはそのような売り込み方を、国を挙げてやっています。
いろいろな話をしてきましたが、私が10年間弁護士として活動してきた経験やスキルは、政策を考える上でも本当に役に立っています。実際に、弁護士から政治家になった人も増えていますし、政策秘書として活躍されている方もたくさんいます。皆さんも、法律家になってからも政治には関心を持ち続けてほしいと思っています。少なくとも、政治は誰かがやってくれるというふうに考えず、身近なものと感じてもらって、選挙があれば必ず投票に行ってほしいと願っています。