雨宮処凛がゆく!

11月21日の秘密保護法反対デモで。
左から、「素人の乱」のなかしー、私、小熊英二さん。

 思わず笑ってしまった。その勝手な「自爆」ぶりに。

 それはご存知の通り、自民党の石破茂幹事長による「特定秘密保護法に反対するデモの絶叫は本質的にテロと変わらない」という主旨のブログだ。

 なんかもう、この一言でいろいろとバレバレになった気がするので、むしろ歓迎したいくらいの発言である。

 自分たちに都合の悪い「デモ」を「テロ」呼ばわりする幹事長がいる自民党が成立させたくて仕方ない特定秘密保護法。

 こう書いただけで、特定秘密保護法が成立しちゃったあと、デモなどの表現の自由、言論の自由、政治的な自由がどうなるか、あまりにもわかってしまうではないか。

 昨年6月。大飯原発再稼働に反対して毎週数万人規模の人が官邸前に押し寄せていた時期、野田首相(当時)が述べた言葉は「大きな音だね」だった。

 「とにかく原発を再稼働しないでほしい」。その真摯な思いから集まった人々を、その言葉は愚弄した。ある意味で、あそこまで人をバカにする言葉だったからこそ、官邸前行動は更に盛り上がった面もあるように思う。

 そうして今回、国会周辺で「この国の危機」に対して声を上げている人々は、「テロリスト扱い」された。

 私自身、これまで様々なデモをし、様々な罵声を浴びてきた。

 プレカリアート系のデモではいつも沿道からオジサンに「働け!」と怒鳴られ(働いてるんだけど・・・)、脱原発デモでは、やはり知らないオジサンから「電気がなかったらどうやって暮らすんだ!」などと食ってかかられてきた。もっと遡れば、イラク戦争に反対するデモに「イラク人コスプレ」をしていったところ、参加者の頭が固そうなオジサンに「ふざけてるのか」と怒られたこともあるし(なぜ怒られたのかいまだにわからない。しかもその服はイラクで買った本物)、それ以外にも、デモをするたびに大抵「うるさい!」「迷惑!」といった罵声を浴びてきた。

 しかし、「テロリスト扱い」されたのは初めてである。

24日、「特定秘密保護法に反対する表現者と市民のシンポジウム」で。
左から、香山リカさん、私、佐高信さん、田島泰彦さん。

 石破氏は、国会周辺の行動について、「絶叫戦術」「大音量という名の圧力で一般市民に畏怖の念を抱かせる」「人々の静穏を妨げる」などと述べている。

 しかし、「テロ」ということで言えば、特定秘密保護法の方が、よっぽど言論や知る権利、そして民主主義に対するテロだと思うのは私だけではないはずだ。

 今回の「テロ発言」で、3・11前の脱原発運動を思い出した。

 2011年3月、原発が爆発するまで、「脱原発・反原発」という言葉は「一部ド左翼な人の専売特許」のような言葉ではなかっただろうか。恥を忍んで告白するが、少なくとも、私にとってはそうだった。そうして私は、どこかで「原発は怖いな」と思いながらも、「原発の危険さ」を訴える人々に、冷たい視線を送っていなかったとは言えない。

 しかし、なぜ、あれほどまでに「原発反対とか言ってる人たちって、なんか危険で偏った人たち」というイメージが作られていたのだろうか。そう思い込んでいたのだろうか。その思い込みは、一体いつ、どのように作られたのだろうか。

 そう考えると、そんな自分の思考そのものが、原発推進派の策略にまんまとハマっていただけだったことに気づかされるのだ。そうしてそんなうっすらとした「反対運動をする人たちへの嫌悪感」は、確実のこの国の原発の安全神話を補完していた。

 「何かに反対している人」を無力化させるのにもっとも効率がいい方法は、「その人たちがおかしい人だと思わせる」ことだ。

 過激で、おかしくて、特殊な思想の持ち主で、話が通じない人。テロリスト。

 だからこそ、時にデモ隊や座り込みなど、なんらかの抗議行動をする人は、メディアでも意図的に「危険」な演出をされてきた。

 しかし、そんな潮目は変わってきた。3・11以降、多くの人がデモデビューし、去年の初夏は官邸前に毎週10万人規模の人が集まった。人々の意識は、この2年と数ヶ月で、確実に変わっている。

 だからこそ今、安倍政権が内容を周知されないうちにどさくさに紛れて成立させようとした特定秘密保護法に反対して、連日国会周辺ではデモが行なわれている。私たちは、もう3・11以前とは違うのだ。「情報が隠される」「非民主的な手続き」といった「原発っぽいもの」に対する危険センサーの感度は、あの日以降、上がりまくっているのだ。

 今回の石破発言を聞いて、「ああ、この人って3・11以前の価値観で生きてるんだなー」と思った。

 あの震災と原発事故で、変わった人と変わらなかった人がいる。そして変わった人たちは、もう以前のようなロジックには騙されない。そんな人が多数派だからこそ、今、これほどまでに特定秘密保護法に反対する動きが広がっているのに、「変わらない人」は、以前と同じやり方で乗り切れると思い込んでいる。 

 国会周辺には、私もできる限り、足を運んでいる。

 この国の未来を本気で考え、行動し、声を上げている人たちがたくさんいることを私は知っている。

 「テロリスト」呼ばわりされるのはどちらなのか、それは歴史が証明することだ。

デモで掲げられるプラカード。

 

  

※コメントは承認制です。
第280回 石破って人にテロリスト呼ばわりされたんだけど? の巻」 に10件のコメント

  1. magazine9 より:

    石破幹事長はその後、ブログの記述を撤回すると述べたものの、「(絶叫調のデモは)本来あるべき民主主義の手法と異なる」と再度書き込み。あなたの考える「あるべき民主主義」って!?とツッコミたくなります。
    現在、ほとんど毎日、何かしらの集会やデモが行われている国会周辺。もちろんそれだけではなく、各地で多くの人が「声をあげる」ことの重要性に気づき、動き始めています。「3・11以前」の価値観には戻りたくないし、戻ってはいけない。その思いを強くします。

  2. ピースメーカー より:

    >あなたの考える「あるべき民主主義」って!?とツッコミたくなります。

    「特定秘密保護法案、絶叫ではなく議論が必要なら、その中身は? – 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」という記事が、石破幹事長の発言の問題点、ならびに特定秘密保護法案の議論すべき論点が明瞭に指摘されていて、個人的には納得のモノでしたので、こちらにも紹介させていただきます。
    http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20131203-00115296-newsweek-int
    冷泉氏の指摘する通り、「政府が情報を隠す」という行為のプラス面とマイナス面を考察し、論点を提起し、「中身のある議論」を行う環境を整えることが民主主義の原則に則る行為だと言えるわけですので、私も石破氏には猛省を促したいと思いますし、自民党や賛成派の人々も、マガジン9の方々をはじめとする反対派の人々にも、「特定秘密保護法案の中身のある議論を行う環境を整える」ことに尽力していただきたいと思っております。
    その為には、「絶叫口調の反対はダメで、相互に理解者を増やすような議論が大事だという指摘それ自体は正しい」という認識を、賛成派、反対派の双方が認識するということが必要ですし、それこそが「あるべき民主主義」というツッコミに対する返答となるでしょう。

  3. 60年安保以降、左翼に「過激派」のレッテル貼りしたあの流れで行こうってことかな。
    気をつけよう。相手は暴力行為を待っているw

  4. 伊東秀武 より:

    国会に出来るだけ脚を運んでコールしている。明日も行く。別件、雨宮さんの写真が変わった。ナイスです。

  5. 花田花美 より:

    国民主権です。
    政府のための政治ではなく、自公政権のための政治でもなく、アメリカのための政治でもなく、
    国民のための政治であるべきです。

  6. […] 雨宮処凜さんが、マガジン9条の会のブログで(石破って人にテロリスト呼ばわりされたんだけど?)すごく的確、かつわかりやすく書いていたのでリンクをはっておきます。 […]

  7. nakaya rie より:

    わたくしも切羽詰って議員会館前に立っておりますが、絶叫調という印象は受けません、というより、こんなに怒っている国民の声を聴かない政治家の耳に届けとばかり、叫ばざるを得ないでしょう。ところで、私たちに連帯を示すかのように静か~に通り過ぎる3台の巨大な黒白トラックは何?皇国の敵安倍石破的なメッセージが書いてあるけど、、、 

  8. くろとり より:

    こんなに日本語を理解できない人が多い事にびっくりしています。
    石破氏はデモをきちんとした方法でやるべきで誤った方法で行っても理解されないといったまでです。
    完全に「こ・と・ば・が・り ことばがり(言葉狩り)」にしかなっていません。
    目的は手段を正当化しません。いかなる理由があれど目的は手段を正当化しないのです。大切な事なので2回いいました。
    目的が手段を正当化するとデモ側が考えているならば、その考え方がデロと変わらないといわれても反論できないでしょう。
    言論の自由がない国で、今日、明日にでも自分たちの命が危なく、それしか方法が無いという状況であれば百歩譲って許せるかもしれませんが日本はそのような状況にはありません。この法律が成立しても同様です。
    なお、デモに革マル派や民青等、過激派が参加しています。問答無用でテロリストですね。

  9. 宮坂亨 より:

    マンデラだってカストロだってテロリストって呼ばれてた。ファシスト石破からテロリスト呼ばれるのはむしろ誇りではないか。非暴力で安倍政権を打倒しよう。

  10. TokiNoKawa より:

    そもそも、選挙違憲判決が出ている選挙で選ばれた政権が定めた法律なんて、無効じゃないのか!
    政府が喫緊にやるべきことは、秘密保護法ではなく、選挙制度改革だろう。まず、税金の無駄遣いである政党助成金を廃止して、選挙しか能のない議員の定数は半減すべきだ!
    それにしても、戦後の自民党政権ってのは強行採決の歴史であって、今回の秘密保護法案においても強行採決を繰り返したことは日本の現代史における汚点の一つだと思う。
    世論調査で82%が修正・廃止と答えている秘密保護法案を強行採決した自公(みんなの党)をこのまま政権につかせておいてはいけないんじゃないかな。次の選挙で確実に落選させるために、自公(みんなの党)に対する落選運動をしていったらどうだろう!(だからといって、大失敗だった前政権の民主党を応援する気もないが)
    また、選挙違憲訴訟のように、秘密保護法に対する違憲訴訟も有効ではないだろうか。(ただ、判決が出るまで非常に時間がかかると思う)

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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