雨宮処凛がゆく!

「革命的非モテ同盟」、略して「革非同」の方々と。
「万国のフラレタリアよ団結せよ!」。プレカリアートも
フラレタリアートもプロレタリアートも連帯しよう☆

 4月30日、「自由と生存のメーデー07 プレカリアートの反攻」が開催された。様々な新聞、テレビでも報道されたので、既にどれほどの盛況ぶりだったか御存知の方もいるだろう。集まったのは420人。数としては少ないのかもしれない。しかし、誰の動員もなく、本気で怒れる若者たちが「もう生きていけない!」という思いに駆られてこれだけ集まったということは、安倍政権打倒も時間の問題ではないか(たぶん)。

 メーデーは3部に分けて行われた。1部の「宣言集会」では、フリーター労組や女性ユニオン、野宿者団体、韓国の非正規労働センター、スロベニアの経済学者などからのアピールが読み上げられる。また、生活保護受給者、グッドウィルなどの派遣で働くフリーターなどからも怒りのアピール。その上、会場に駆け付けてくれた福島みずほ社民党党首も発言。フリーターも野宿者も障害者もメンヘラーも党首も入り乱れての宣言集会となったのであった。

新宿を混乱に陥れるデモ隊。私はどこでしょう?

 そして2部。とうとうデモだ。このデモで、私は「コーラー」という、デモ・コールをかける大役を任されている。マイ拡声器もふたつも持参するほどの気合いの入れようだ。
 デモ直前、得体の知れない人々で溢れる大久保区民センター前。「タダ働き ふざけるな!」などと書かれた手作りの旗、横断幕、プラカードが風になびく。どこまでも晴れ渡る青い空。絶好のデモ日和。フリーターとニートとひきこもりと野宿者と派遣労働者とその他もろもろ。そうしてサウンドシステムとDJを載せたサウンドカーが発車する。爆音で響きわたる音楽。集まったプレカリアートたちから一斉に沸き上がる歓声。
「生きさせろ!」「フリーターをバカにするな!」「非正規を使い捨てにするな!」「最低賃金を1500円以上払え!」「派遣会社は潰れろ!」「安倍は一人で再チャレンジしろ!」「麻生はセメントを掘れ!」「御手洗はキャノンの工場で働け!」「折口は派遣先にたらい回しにされろ!」「過労死から逃げろ!」「金持ちは金を分けろ!」「労働者に休みを!」「失業者に仕事を! 」「ニートに愛を!」「プレカリアートは連帯するぞ!」。

 拡声器で叫ぶたびに、デモ隊から大声があがる。デモの沿道にマクドナルドを見つけると「マックは時給を上げろ!」と叫ぶ。手を振って応えてくれる店員。新宿を歩く人もそこで働く人も、多くが不安定なプレカリアートだ。すき家の前では「残業代払え!」と叫び、サラ金の前では「貧乏人を食い物にするな!」と全員で叫ぶ。突然アドリブで自作の歌を歌い出すニート軍団。「メシ食わせろ! メシ食わせろ! パンの耳は食い飽きたぜ!」「金がなけりゃあ何もできねぇ!」。モヒカンパンクスが叫び、革命的非モテ同盟は「恋愛資本主義打倒」を叫ぶ。「安心してひきこもらせろ!」と叫ぶ元ひきこもり、「残業代払え!」と叫ぶ首都圏青年ユニオン、「わしらはみんな生きている」とプラカードを掲げる野宿者、サウンドカーのすぐ後ろで踊り狂うフリーター。デモ隊が歌舞伎町にさしかかった頃、「自由と生存」と書かれた40メートルにも及ぶブルーシートが隊列を覆った。

沿道に並ぶマクドナルドや携帯ショップや牛丼屋、
居酒屋などにいちいち「時給を上げろ」といちゃもんをつける。
ソフトバンクの前では「孫正義は金を配れ!」。

  もう何がなんだかわからないけど全員で叫ぶのは「生きさせろ!」「バカにすんな!」「生きてるぞ!」、そんな言葉だ。だって、「生きること」そのものがもう既に脅かされているのだから。そんなこの国は、もう既に充分すぎるほど「戦場」だ。しかも「人を蹴落として生き残る」程度の目的で闘うことを無理強いされている。そんな状態に黙っていられない人々が、怒りを心の底から叫ぶ。だけど、その闘いの最前線はなんて楽しく、ワクワクするんだろう。
 頭上を覆っているブルーシートが外されると、ブルーシートよりもっともっと青い空が広がった。その空をしゃぼん玉が無数に飛んでいく。「およげたいやきくん」を流すサウンドカー。隣のニートは「貧乏でよかった」「生きててよかった」と笑っている。

 こうして2時間に渡るプレカリアートデモは終わった。3部はプレカリアート交流会だ。夜の9時までみんなで語り合い、それから夜の公園に移動して発泡酒で乾杯。実行委員の人も今日初めてデモに参加した人も、フリーターもニートも笑っていて、幸せなプレカリアートの1日はそうして更けていったのだった。
 このデモの2日前には長野で「ダメーデー」が行われ、翌日には福岡で「フリーター・貧乏人的メーデー」が行われた。同じ日には移住労働者のメーデーがあり、30日には大阪で「明るいビンボー☆メーデー」が開催された。日本各地で、いや、世界中でプレカリアートの反撃が起こっている。私はこんな瞬間に立ち会えたことを、心の底から嬉しく思う。だって、こんな面白いこと他にそうそうないもん。

後ろの旗は「ひきこもりにも生きる権利を」。私の手作りです。

 さて、フリーターが権利を主張してメーデーなどと言うと「正社員になればいいじゃん」と思う人もいるだろう。しかし、今の日本で働いている、或いは求職中で生活保護基準以下で暮らす層は650万世帯以上。ここまで来たら、どうやって個人が努力すればいいのだろう。自分がかろうじて這い上がれば確実に誰かが蹴落とされる。蹴落とされた方は生存権さえ失ってしまいかねない。そんな不毛な生存競争で心が病んでいく人、自ら命を絶つ人をあまりにも見すぎた私は、だからこそ、プレカリアート運動に思いきり可能性を見い出しているのだ。っていうか、若者が生存権を叫ぶデモなんてどういうことだろう。今、確か21世紀だよね?

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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