雨宮処凛がゆく!

選挙期間なのに、「学費・奨学金は問題だらけ!」デモに駆けつけてくれた山本太郎さん。

 前回の続きで「被曝労働〜事故後の福島第一原発で働くということ」のその2を書こうと思ったが、延期させて頂くことにした。

 やはりここは、参院選について書かなければ、と思ったからだ。

 前回の衆院選のあと、私はこの連載で「大きな宿題を出された」と書いた。なぜ、脱原発運動など「直接民主主義」の動きがあれほど広がったにもかかわらず、それがまったく選挙結果には結びつかなかったのか、という問題だ。

 そうして、今週末に迫った参院選。

 今まで、特定の候補者について触れるということは避けてきた。なんだか「この人に入れろ!」と誘導するようで気が引けたし、逆に私が「この人を応援してます」ということが「大いなる迷惑」になってしまう可能性だってある。

 しかし、もう今回はそんなこと言ってられない! という境地に達した。いや、この期に及んで「投票だけには行こう!」のワンフレーズのみを訴えるのは簡単だ。しかし、私には苦い記憶がある。それは小泉郵政選挙の時。周りの若者たちに投票を呼びかけたら、軒並み小泉自民党に投票した、という現実があったのだ・・・。「棄権だけはするな」と呼びかけられた場合、あまり政治に関心のない層は、「テレビで一番見かける人」に一票を投じるという傾向は確実に、ある。或いは「現状維持」。

 ということで、今回私が応援している人は、山本太郎さんである。

 この連載をいつも読んでくれたり、脱原発デモに参加している人であれば同じ思いの人がたくさんいるだろう。が、そうでない人の中には「山本太郎」という名前を聞くだけで微妙な顔になる人がいることも知っている。だからこそ、私はあえて今、応援していますと声を大にして言いたいのだ(またしてもそれが迷惑行為になるかもしれないわけだが)。だって、デモに「一万人集まった!」と盛り上がったところで、一万人は東京都の有権者数の0.1%に過ぎない。

 山本太郎さんの主張はあまりにもシンプルだ。「被曝させない」「TPPに入らない」「飢えさせない」。

 まったくもって、すべてに大賛成である。そして原発、TPP、労働・貧困問題は、ものすごく複雑に絡み合い、繋がっている。また3テーマとも、「犠牲のシステム」という大いなる矛盾を内包している。

 これら3つが、何がどうしてどうなって繋がっているのかは、「今はひとり」にアップされている山本太郎さんの演説動画を見ると鮮やかにわかるだろう。そして実際に演説を聞いて驚かされるのは、彼が非常に「勉強家」で、「難しい問題をわかりやすく伝える」ことにものすごく長けているということだ。

 例えば、被曝の問題だと、食品の安全基準。私は昨年の衆院選の時に彼の演説を聞くまで、国の定める安全基準の「1キロあたり100ベクレル」という数値が、「低レベル放射性物質として黄色いドラム缶に入れられ、厳重に管理されるもの」だとは、恥ずかしながら知らなかった。なぜ、そのようなあまりにも重大なことが知らされないままなのか。そこで彼は「マスコミとスポンサーの関係」に突っ込んでいく。東電が年間に広告宣伝費としてメディアに払うお金は260億円。16歳から芸能界で仕事をし、「スポンサー」の存在がどれほど大きなものかを肌で感じてきた山本氏の指摘は説得力に満ちている。

 そんな山本氏の「本気」を改めて感じたのが、「何故声を上げたのか」というブログだ。参院選公示前日に更新されたこの文章には、原発事故に衝撃を受け、仕事を失うことを覚悟して声を上げるまでの葛藤が綴られている。この文章に、私は、はっきり言ってものすごく感動した。ああ、本当に本当に本気なのだ、と思った。なぜなら、山本太郎さんは、本当に仕事と収入を失っているからである。しかもこの間、反貧困ネットワークの集会でスピーチしてもらった時には、「口座を見たらマイナス3万円になっていた」と暴露して一人で大笑い。会場にいた全員はどのような反応をしていいのかわからず、なんとなく「全員黙祷」的な空気に包まれたのだった。

 更には、衆院選の時には十円玉程度だった円形脱毛症は、更に育って今や500円玉サイズを超えている。

 仕事を失い、収入を失い、頭に大きなハゲを作ってまで訴えていることはあまりにも真っ当だ。ただ単に、お金よりも命が大切だということ。そして嬉しいのは、彼が原発問題を入り口にして、労働・貧困問題にまで踏み込んでいるということである。長らくこの問題に取り組んで来た身としては、なんというか、しみじみと嬉しい。運動をしてきて、本当に時々、「ああ、伝わったんだなー」と思うことがあるが、今、そんな気持ちだ。 

 そんな山本太郎さんは演説で、自らを「空気を読まないバカ」「行動力のあるバカ」「物怖じしないバカ」と言っている。こういう人が国会にいたら、悪巧みをしようとしている国会議員にとって、ものすごく厄介だろう。全部バラすに決まっている。原発事故を経て私たちが痛感したこと。それは「情報は隠されるのだ」ということではなかったか。それが命にかかわることであっても、重大であればあるほど、隠される。そんなやり方に疑問を持ったことで人生を激変させた山本太郎さんは、きっといろんなことを暴いてくれるだろう。

 さて、先週12日には、社民党から立候補している鴨ももよさんの応援演説にも駆けつけた。鴨さんは25年間、非正規労働などの問題に取り組んで来たという筋金入りの人である。年越し派遣村の時には、炊き出し隊長もつとめた。そんな鴨さんは一見本当に「普通のオバサン」で、出馬の際の記者会見には私も出席したのだが、その時の服装がどこから見ても「参院選出馬表明の記者会見にのぞむ候補者」ではなく、「近所のスーパーに買い物に行くオバチャン」にしか見えず、そんな「筋金入りの庶民」な姿にもいたく感銘を受けたのだった。しかし、そんな鴨さん、労働問題に関してはまさにエキスパート。長い間弱者に寄り添う現場で地道な活動を続けてきた誠意の人である。雇用が破壊されまくっている今だからこそ、長年の知識と知恵を総動員して国会で暴れ回ってほしいものである。

 ということで、もうすぐ、投票。

 落ち着かない日々だ。

鴨ももよさん出馬会見。左から私、福島みずほさん、鴨ももよさん、宇都宮健児さん。

 

  

※コメントは承認制です。
第268回 黙ってない人を国会に!!
 の巻
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    参議院選挙投票日まで、1週間を切りました。
    すでに期日前投票も始まっています。
    まずは、何よりも一票を投じること。
    そして、「名前を知ってる」「よく顔を見かける」だけではなく、
    ちゃんと政策をじっくり読んで納得のいった人、
    信じられると思える人に票を入れること。
    それが、ほんのわずかでもこの国を変えていきます。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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