雨宮処凛がゆく!

 安倍首相とトランプ大統領の会談が終了した。

 満面の笑顔の安倍首相がテレビに映し出され、「蜜月」ぶりが「これでもか」とアピールされる。が、海外メディアは冷静だ。「安倍首相は取り入ろうとしている」「こんなに大統領におべっかを使う外国の首脳は見たことがない」などと手厳しい。安倍首相がどんなに得意気な笑みを浮かべていても、世界から見たら十分に「異様」なのだということがよくわかる。どうしてそこまで媚びるのか、と。

 1月末、トランプ大統領がアフリカや中東など7カ国出身者への一時入国禁止令を出した際、世界のあらゆる国のトップが異議を唱えた。カナダの首相は難民を歓迎する意思を示し、ドイツのメルケル首相は「テロとの戦いはいかなる場合でも特定の信条の人々に対し、一様に疑いをかけることを正当化しない。米大統領令は難民を支援する国際法や国際協力に反する」と主張。フランスのオランド首相も「欧州が責務を果たす中で彼が難民の到着を拒むのなら、我々は対応をとるべきだ」と述べている。また、トルコの首相は「困っている人がいたら助けなければならない」と発言。声を挙げているのは首脳クラスの人々だけではない。アップルCEOなど、多くの企業人も声を上げている。

 翻って、安倍首相はどうか。1月31日の予算委員会で、大統領令について問われた安倍首相は「ただちにコメントすることは差し控えたい」と述べている。そうして今回の日米首脳会談でも、その姿勢はまったく変わらなかった。

 「入国管理や難民政策は内政問題なのでコメントを差し控えたい」

 なぜ、これほどに何も言えないのか。言わないということは、容認しているのと同じことではないのか。そのような姿勢が国際社会からどのような目で見られるのかについて、なぜ思いを馳せないのだろうか。

 そんな会談では、普天間飛行場の移設を巡り、辺野古への新基地建設が「唯一の解決策」と「確認」された。沖縄の人々の思いなど、トランプ大統領との「蜜月」の前では本気でどうでもいいようである。

 さて、そんなふうにトランプ大統領に悲しいくらいに何も言えない安倍首相だが、相手がトランプ氏だから言えないわけではない。例えば昨年10月末、フィリピンのドゥテルテ大統領が来日し、安倍首相と会談したわけだが、その際も心の底から失望した。

 ドゥテルテ大統領と言えば、麻薬犯罪のメチャクチャな取り締まりが世界的な非難を受けている人物である。「犯罪者は殺せ」と公言し、ダバオ市長時代に、自らが犯罪容疑者を殺害したとも発言している。国際人権NGOのアムネスティによると、フィリピンではドゥテルテ大統領就任後の昨年7月から5000人以上が非合法に殺されているという。自警団と警察が、「超法規的殺人」を繰り広げているのだ。

 しかも1月末、ある衝撃的な事実がアムネスティによって発表された。

 麻薬犯罪者を一人殺すごとに、警官に所轄所から現金が支払われるシステムがあるというのだ。一人殺すごとに8000〜1万5000ペソ(約1万8000〜3万4000円)が秘密裏に支払われていたという。また、警官が殺し屋を雇うケースもあり、麻薬使用者を一人殺せば5000ペソ、密売人なら1万〜1万5000ペソが殺し屋に支払われたという証言があったそうだ。

 この「超法規的殺人」では無関係の人が殺され、子どもまでもが犠牲になっていることが問題視されているわけだが、その背景には、「殺せばお金が貰える」というあまりにも悪質なシステムがあったのである。証言では、殺した後で麻薬や銃を遺体の近くにおき、麻薬犯罪への関与を偽装するケースもあったという(朝日新聞 2017年2月2日)。
 自らが「人を殺した」ことを公言し、「犯罪者は殺せ」と煽り、「ヒトラーは300万人のユダヤ人を殺した。フィリピンには同じ数の麻薬中毒者がいる。俺は喜んで彼らを虐殺する」と言って憚らないドゥテルテ大統領。

 そんな人権無視の大統領と会談した安倍首相は、もちろんそのことには何も触れず、更に今年1月、フィリピンで再びドゥテルテ大統領と会談した際には、今後5年間で一兆円規模の支援を行うことを表明。そうして私邸にまで招かれ、親密さをアピール。殺人を公言し、超法規的殺人を煽り、大量殺人と人道に対する罪でフィリピン上院議員に告発されている人物と「親密さ」をアピールすることで、「人権などどうでもいい」と世界にアピールしたのだった。

 そうして、今回のトランプ大統領との会談。

 沖縄の声は無視する。一時入国禁止令などの人権侵害については見ない振り。そしてゴルフしてご飯食べて、「私の腕前は残念ながら大統領にはかなわない」とかお世辞を言って、これが「外交」であるならば、「気の弱い人」だったら誰でもできそうな気がしてくるではないか。

 期待してなかったけど、予想以上になんだかいろいろ残念すぎて、なのに満面の笑顔の安倍首相を見ていると、悲しみが込み上げてくるのだった。せめてトルコの大統領の「困っている人がいたら助けなればならない」くらい言えないのかな、と思ったのだが、この国は困ってる人=難民をほとんど助けていないのだから、そんなこと言う資格などないか、とまた悲しくなったのだった。

 2015年の難民認定申請者7586人に対し、認定されたのはわずか27人である。私たちは、とても特殊な国に住んでいる。

 

  

※コメントは承認制です。
第405回日米首脳会談のどの辺が残念だったか。の巻」 に7件のコメント

  1. magazine9 より:

    カナダのトルドー首相は、トランプ大統領との会談後の記者会見でも移民対策での違いをしっかりと表明していました。日米首脳会談で日本がどんな態度をとるのか、他国からも注目されていたはずです。無条件に仲良くすることが、外交として成功といえるのか…「蜜月」の言葉にうーんと唸ってしまいます。

  2. L より:

     先日、ドゥテルテについての集会に行ったところ、”ファシストそのものであって、数か月で7000人を裁判抜きで殺したことは独裁者マルコスをも軽く超えている”という評価でした。ただし、”かこつけて反政府派を殺しているということは確認できない”と。また、政権の支持率は麻薬中毒者も含めて極めて高いが、選挙での得票率は対立候補らに対して拮抗していた由。
     ドゥテルテはファシストだが親共で、労組の支持も篤い。任期中の全ての争議の解決を約束している。たとえば、ILO立会いの下、労働雇用省は、長らく団交を拒否してきたフィリピントヨタを引き摺り出して2回の4者会談を持った由。フィリピントヨタは決定権のない弁護士を寄こして極めて傲慢かつ不誠実な態度で交渉打ち切りの動議を出す始末。労働雇用省副長官は、”現政権によるより強力な措置を打ってもらうべく、本件をドゥテルテ大統領府に持ち込む意思がある”と述べたそうだ。
    ”われわれフィリピントヨタ労組は、現ドゥテルテ政権と労働雇用省により一層の努力をもって仲介の労を取り続けてもらい、このグローバルな主導的日本企業が労働者の権利を認めると共に、わが国における現地子会社においてただ自分達の権利と生活を守り向上させるため労働組合結成に立ち上がった労働者に加えた不正義に責任を負っていることを認めさせてもらいたいと願う。どれほど多くの虐め、金銭、威力をもってしても、労働者達が闘うのを止めさせられることはできない。なぜならばフィリピントヨタ労組の大義は公正な大義だから。
    まさに、彼等のたゆまざる団結と闘争によって、労働者達の権利と要求は必ずや、やがて勝利するであろう。

    トヨタよ恥を知れ、ジョージティーよ恥を知れ!
    237名の不当解雇労働者達に正義を! ”

     なお、彼らはもう長いこと、来日闘争を続けており、支援する組合もある。ILO勧告も繰り返し出ている。が、自民政府も民主党政府も、トヨタ労組、連合も見殺しだ。
     
     年に2,3万人が自殺に追い込まれる国にあってはどっちがマシなのかよくわからん。

  3. PUNKチェベ より:

    首相の残念ぶりは、個人的にはむしろそうあって欲しかったくらいですが、それで政権の支持率が下がるどころか、支持してしまうこの国の国民が残念でなりません。トランプがレームダック化し、我が国は世界から総スカンを食うという未来しか見えません。

  4. とろ より:

    >トルコの大統領の「困っている人がいたら助けなればならない」

    確かトルコは難民追い出していたり、難民だしにして欧州に脅しかけたりしてませんでした?、そのあたりの整合性はどうなっているんでしょう?

  5. 鳴井 勝敏 より:

    自由・平等を共通の価値観とする先進国の人達に比べ日本国民は特殊か。何をやっても、やらなくても内閣を支持するからだ。立憲主義を放棄する憲法改正草案が公表されようが、憲法違反の安保法制が強行採決されようが、社会保障が後退しようが、そして、沖縄の地方自治が無視されようが、内閣の支持率が上がる。 その評価基準は「理」ではなく「情」ではなだろうか。日本の伝統的社会風土である一生懸命、という「情」が評価基準になっていないだろうか。
     そうだとしたら、早晩、「理」で物事を評価する習慣を身に付けないと、そのツケは国民に廻ってくる。その光景は、「息苦しい日本」の再来だ。

  6. 多賀恭一 より:

    有能な外交官は媚びを売るのがうまい。
    安倍総理に向いているのでは。
    国富を外国にばらまくのは問題だが。

  7. 多賀恭一 より:

    移民や難民が、日本に受け入れられたいなら、
    移民と難民側にも義務がある。
    「日本を世界で最も偉大な国にする。」
    こう宣言することだ。
    日本国民から「何しに来た?」と聞かれたら、
    「日本を世界で最も偉大な国にするためだ。」と答えることだ。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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