雨宮処凛がゆく!

 始まったばかりだというのに、もう大変な騒ぎである。

 それは「NO LIMIT 東京自治区」。フライヤーには「アジア各地の大バカたちが東京に集結!」「とんでもない7日間!」とある。

 現在、180人ほどの人々がアジア各地から高円寺周辺に集まっているという。この祭りが始まってからまだ2日間しか経っていないのに、私は既に恐ろしくたくさんの人と交流した。台湾、韓国、香港、北京、タイ、シンガポール、マレーシア、オーストリア、ドイツなどなど。それぞれ言葉はまったく通じないのに気がつけば片言の英語で盛り上がり、韓国のバンドのライブに台湾の人が飛び入り参加することになったり、いろんな企画が持ち上がったりしている。ちなみに台湾人の男性は、無一文で来日。22歳という若さで普段は台北の橋の下で暮らすという「ホームレス」だ。なのにバイオリニストというワケのわからなさの彼は、一緒に沖縄料理を食べに行ったところ、「これから高円寺の駅前で演奏してくる」と告げ、当然1円も払わずにどこかへ消えた。なんと素晴らしき自由人。

 さて、一体なんの祭り? と思った方に説明しよう。首謀者は「素人の乱」でおなじみ、松本哉氏。この数年、彼はやたらと東アジアの各地に繰り出しては、言葉の壁を酒の力で無理矢理崩し、現地でマヌケな友達をたくさん作ってきた。それぞれバンドやってたりカフェやってたり、好き勝手に生きてる人たちである。そんなふうに民間交流が進む一方で、アジア各国との国同士の関係は決していいとは言えない。が、勝手に対立したり煽ってるのってそれぞれの国の政府だけだよね? ということで、昨年夏、安保法成立前にはアジアの人たちと一緒に「アジア反戦大作戦」という作戦が決行された。戦争とか経済成長になんの役にも立たなさそうなアジアの人々と連帯し、8月から9月にかけて、韓国や台湾やフランスなどなどで「反戦」イベントが開催されたのだ。ちなみに日本では「映画の撮影」と称して阿佐ヶ谷駅前で車を破壊するなどいろいろやらかしたのだが、それについてはこちらで読んでほしい。

 ということで、そんな「アジアとの連帯」は、松本哉氏の「ガチで遊ぶ力」によって大分前から進んでいた。特にこの数年、香港では雨傘革命があり、台湾では立法院の占拠があったりして、高円寺界隈にはやはりそういった運動に参加していた人たちが集まるので、そんな人たちとの交流も行われてきた。各国の人々と話してわかったのは、どの国の人も、自国の政府に疑問を持っていること。しかし国は自国内の不満を抑えるなどのために近隣国との対立を煽ること。また、どの国でもグローバル化のもとで貧困化・不安定化が進み、生きる土台が崩されていること。そうして時に「金儲けの手段」として煽られる「戦争」など、誰も望んでいないということだ。

 そんなこんなの経緯があり、企画された「NO LIMIT 東京自治区」。そうしてこのたび、満を持してアジア各地からの「マヌケな貧乏人たちの集結」が実現したわけである。9月11日から17日まで、一週間、役立たずたちの怒濤の居直りのようなイベントやライブや飲み会があらゆる場所で開催されている。詳しくはこちらのサイトで。

 ということで、10日の前夜祭から参加しているのだが、とても書き尽くせないほど大変な盛り上がりである。様々な言語が飛び交い、とりあえず飲んで歌って踊って交流! 交流! また交流! そういえば松本哉氏は以前よく「革命後の世界を先に作るぞ!」と言ってたが、本当にできてしまっているではないか。

 中でもすごかったのは、11日、祭りの幕開けとして国立で開催された「アジア永久平和デモ」。「いがみあってるのは政府同士だけ。ヒマ人たちは故郷も言葉も超えて楽しく交流しまくってます」とフライヤーにある通り、国籍も言語もバラバラな数百人が国立を行進。背中に「変態国際連帯」と書いた真っ赤なふんどし一丁の元気いいぞうさんは「まぁ〜生きていれ〜ば〜よしとする〜」と脱力しきった調子で歌い上げ、韓国のアーティスト・YAMAGATA Tweaksterはデモ中だというのに一曲ごとにすべて衣装を変え、「福島ラバー」などを熱唱。片言の日本語で「沖縄米軍基地反対!」「原発反対!」とシャウトする彼は独特のダンスを披露するのだが、なぜか彼のバックでは多数の日本人ダンサーが完璧な振り付けで踊っている。なんだかもう、白昼夢を見ているような光景だ。

アジア永久平和デモ、出発!

高円寺からこの幟と大勢の外国人を引き連れて国立にやってきた松本哉氏

もうどういう民族なのかわからない、元気いいぞうさん

大勢のダンサーを引き連れて踊るYAMAGATA Tweakster

 そうしてデモの最後には「雑草音頭」をみんなで歌って踊ってゴールに到着! 公園では多国籍交流が続き、夜には高円寺のライブハウスで東京や沖縄、韓国や台湾やドイツのバンドのライブが続いたのだった。

 ああ、まだ2日目だというのに既に全身が筋肉痛だ…。

 とにかく、この歴史的な祭りに参加しないとあとで後悔すること間違いなし! 交通費がない? 福岡からヒッチハイクで来た人もいたから問題なし。台湾から無一文で来た人だってなんとかなっている。世界中のヒマ人、貧乏人が繋がり、とりあえず酒を酌み交わし交流すること。そこからきっと、何かが始まり、何かが生まれる。

なんだかよくわからないけどすごい存在感のYAMAGATA Tweakster

雑草音頭

ライブ中、歌いながらライブハウスから出ていってしまい、遥か遠くまで辿り着いたYAMAGATAと彼についていった観客たち

 

  

※コメントは承認制です。
第388回始まった! 奇跡のアジアマヌケ交流祭り週間!!の巻」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    マガ9の連載「松本哉ののびのび大作戦」でも告知していた、「NO LIMIT 東京自治区」が今週開催中です! 雨宮さんの文章を読むだけでも、ワクワクしてくるような、はちゃめちゃさ。「政府なんて放っておいて、自分たちがやりたいことをやろう」、そんなパワーに溢れています。

  2. asa より:

    「アジアマヌケ交流祭り週間」というタイトルを見ただけでも、思わず吹き出してしまったのですが、「アジア永久平和デモ」。「いがみあってるのは政府同士だけ。ヒマ人たちは故郷も言葉も超えて楽しく交流しまくってます」「沖縄米軍基地反対!」「原発反対!」という内容については、全く以てその通りのことであり、まともな日本人としては、大いに共感し、どんどん盛り上がるように、心より応援したいところですね。

    ただ一つだけ、デモ活動についてですが、くれぐれもデモ活動とは一切関係のない通行人の皆様にご迷惑をお掛けすることがないように、交通整理などの目的で、事前に警察の許可を取り、警備に当たる機動隊や警察官の皆様には、積極的に協力することにつきましては、願ってもないことですので、警備に当たる警察官の皆様から、深く感謝をして応えて貰えることが出来れば、これもまた良いロールモデルとして、どんどん国際社会に見せつけて下さい、ということで背中を押しながら、警察にしてみれば、何人かの私服を送り込みたければ、どうぞご自由に、ということでどんどん送り込んで貰えれば、街宣右翼が邪魔しに近づいてきた際には、警察の指示に従いながら、そっと静かに立ち止まってから、街宣右翼にたいしては、日の丸を掲げ、四面楚歌代わりに君が代をどんどん聞かせてやることで、街宣右翼が通り過ぎていくのを、そっと静かに手を振りながら、見送って頂ければ、これだけで構いませんから、ということで応えて参りたいところですね。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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