雨宮処凛がゆく!

 ご存知の通り、16日、大飯原発の再稼働が正式に決定された。

 この国に住むすべての人が当事者であるだけでなく、福島第一原発事故で明らかになったように、ひとたび事故が起きれば世界中の海に空に放射能をまき散らす「原発の再稼働」という大問題が、ものすごく少数の人たちによって、勝手に「正式」に「決定」されてしまった。

 野田首相は、会見で何度も「国民の生活を守るため」と言った。

 ずるい、と思う。お前らのために再稼働してやるのだ、というような、勝手に「国民」を共犯にするような言い方。だけど、その言葉の前に「そうだよなぁ、確かに自分も原発によって快適な生活を享受してたしなぁ・・・」なんて素朴に思ったお人好しもいるかもしれない。

 しかし! それは相手(というか野田)の罠に完全にハマっていると思う。

 なぜ、うっすらと「罪の意識」的なものを持たされないといけないのか。なぜ、「お前らのため」と筋違いな恩を着せられないといけないのか。相手の目的はひとつ、「うるさい奴らを黙らせること」だ。そのためには、「だって、あなただってその恩恵受けてきたでしょ?」と耳元で囁くような感じでなんとなく「共犯」ということにしてしまうのが一番手っ取り早い。

 お前らだって恩恵受けてただろと言われても、国や原子力ムラをはじめとする利権構造の中にいる人たちとそれ以外の人たちとでは、「恩恵」のレベルがまったく違う。そうしてそもそも、私たちは3・11までに「原発」に対する選択を一度も迫られたことはない。

 ただ、自分自身が無関心だったことは猛烈に反省している。3・11直後のデモでも、目立ったのは「全員反省」「今まで無関心でごめんなさい」といったプラカードだった。そんなデモのプラカードたちは、時を経るごとに内容を変えている。日本が汚染水を垂れ流し、国際社会の批判を浴びた際には英語でそのことを謝罪するプラカードが目立ち、最近のデモでは、「大飯原発再稼働反対」のプラカードが多くなっている。野田首相が「守る」と言っている「国民」の意識は、3・11以降、目覚ましく変わっているのだ。多くの人が真摯に無関心を反省し、原発やそれを取り巻く構造を必死で勉強し、デモや集会に参加し、「とにかく少しでもマシな未来」のために行動をしている。

 それなのに、政府や原子力ムラ周辺の人々の意識だけが、もう可哀想になるくらいに変わっていない。今回の「再稼働」から露呈したのは、まさに彼らには現実が見えていないということだろう。

 ちなみに、私が心配なのは、この再稼働が国際社会における日本の信頼の大失墜に繋がるだろうことだ。もし、他の国で原発事故が起こり、避難している人たちの将来の見落としがまったく立たず、事故も収束していないという状況の中、1年ちょっとで「その国の国民の生活を守るため再稼働」なんてことを言い出したら、少なくとも私はその国の民主主義のあり方や人権意識、環境への意識を根本から疑い、それを容認している(ように端からは絶対見える)「国民」に対しては多大な疑問を抱くと思う。

 さて、大飯原発の次に再稼働されそうな原発の「有力候補」が話題となっている。それは愛媛県の伊方原発、北海道の泊原発、鹿児島県の川内原発、石川県の志賀原発。

 で松本哉氏が「鹿児島のオッサン」向原さんについて書いているが、再稼働の有力候補となっている鹿児島では県知事選が控えている。で、私も松本さんから聞いたのだが、選挙に出馬する向原さんは反原発の立場で、原発を再稼働したい現職知事と一騎打ち状態! これは応援するしかない! と「応援メッセージ」を送ったのだが、鹿児島のオッサンのサイト を見てびっくり! 既にそうそうたるメンバーが応援しているではないか!
 信じられないような一方的な「決定」がまかり通る中で、しかし、抵抗も確実に強まっている。さまざまな作戦が、いたるところで始まっている。「国民の生活を守るため」という「勝手にみんなのせいにする」汚いやり方で再稼働を発表した野田首相には、存分に後悔して頂きたいと思っている。

 

  

※コメントは承認制です。
第233回 勝手に「共犯」にするな! 大飯原発再稼働に思う。の巻」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    「勝手に国民を共犯にするような」言い方って、まさにそのとおりだなあ、と思います。
    これで黙っていたら、誰もが本当に「勝手に共犯」にされてしまう。
    それが嫌なら、ちゃんと声をあげて、自分たちの思いを形にしていくしかないのだと思います。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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