雨宮処凛がゆく!

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紫陽花の花
 あの光景を、私は一生、忘れないと思う。

 前回の原稿で、首相官邸前に4万5000人が集まった「紫陽花革命」について、書いた。しかし、その一週間後の6月29日、官邸前にはそれを遥かに上回る20万人もの人が集まったのだ。

 午後5時過ぎ、早めに官邸前に着いた時点で、既に大勢の人が集まっていた。辺りには無数のテレビカメラ。頭上には何機ものヘリコプターが飛び交い、集まった多くの人が鮮やかな紫陽花の花を手にしている。紫陽花の髪飾りをつけている女性も多い。

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官邸前

 そうして6時過ぎ、「再稼働反対」のコールが始まると、割れるような叫び声が辺りの空気をビリビリと振動させた。私が今まで聞いた中で、おそらくもっとも「真に迫った」叫び声。怒号のような「再稼働反対」が官邸に叩き付けられ、いつまでもいつまでも続く。

 私もスピーチし、1時間くらい経ったところで全体像を把握しようと列から出てみて、驚いた。どこまでも、気が遠くなるほど果てしなく続く人の波。ベビーカーを押す若いお母さんから若者グループ、お年寄りからサラリーマンまで、形容できないほどいろんな人たちが「再稼働反対」のプラカードを手にし、叫んでいる。列の最後尾を確認しようとして、途中で諦めた。もうどこから湧いてくるのかと思うほど四方八方から人が押し寄せてきて、とてもじゃないけど自分の思うようには動けないのだ。

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「倒閣宣言」!

 そうして午後7時を過ぎた頃、官邸前の歩道も車道も、すべてが人で埋め尽くされた。あたりに響くのは、「再稼働反対!」というただひとつの叫び声。振り返って、どこまでも車道が人に占拠されている光景に、鳥肌が立った。まさか自分が生きている間に、こんな経験をするとは思わなかった。こんな景色を見ることになるとは思わなかった。「お上に従順」と言われ、震災後にも暴動や略奪が起きなかったことから「大人しい、秩序を守る日本人」と国際社会から「評価」され、デモは滅多に起こらず、デモをする人は「特殊な人」という目で見られ、街頭行動に対するハードルは、それが「表現の自由」として保障されているものなのに異様に高く、時に「違法」と勘違いされ、そして空気を読み、和を尊ぶことで自分の意見をなかなか主張しない「日本人」が、この国に住む人々が、あの日、「原発の再稼働」という現実にいても立ってもいられずに官邸前に押し寄せたのだ。

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「原発やめろ野田やめろデモ!!!!!」記者会見の様子

 この日、改めて気付いたのは、「再稼働反対」だけでなく、野田政権を批判するプラカードが異様に増えていたことだ。「政権打倒」「野田はNOだ!」「野田内閣打倒」、中には「倒閣宣言」というものもあった。

 官邸前に行く前、私は日本出版クラブ会館で記者会見に出席していた。7月1日に開催される「原発やめろ野田やめろデモ!!!!!」の記者会見だ。野田政権を批判するプラカードを見ながら、この日の会見で思想家の柄谷行人氏(最近、「素人の乱」に入ったらしい)が言っていたことを思い出した。

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官邸前の人、人、人。

 柄谷氏は、この一週間前の22日、官邸前に4万5000人が集まった光景を見て、「1960年5月19日の夜を思い出した」のだという。この日は安保条約が強行採決された日。もともと抗議デモは行なわれていたものの、この夜を境に空気は一変。国会議事堂前にはどっと人が押し寄せるようになり、要求は「安保反対」だけでなく、当時の首相・岸打倒に変わっていったのだという。

 この状況は、今と非常に似ている。野田首相が再稼働を明言し、たった2週間で1万人が20万人に増え、そして人々の要求には「脱原発」「再稼働反対」だけでなく、「野田退陣」も加わっている。脱原発デモを散々無視してきたメディアもやっと事の重大さに気付いたのか続々と報道を始め、この日のことは多くのテレビや新聞で報道された。何か、1年以上経って、やっと人々の「声」が、「声」として認識されてきたのだ。

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同じく

 この日の帰り、官邸前近くからタクシーに乗ると、運転手さんが何があったのか聞いてきた。原発の再稼働に反対する抗議行動があったことを告げると、「お客様も参加されたんですか?」と聞かれた。「そうです」と答え、20万人が集まったことを告げると、こちらが面食らうほどに感動された。自分自身も原発は怖い、嫌だと思っているけどなかなか行動には移せない。それをこうしてたくさんの人がわざわざ足を運んでいるなんて本当に偉い、尊敬する。若いお兄さんは興奮気味にそう語ってくれた。

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7月1日のデモ。野田やめろパペット

 この日、52年ぶりに国会が人々で埋め尽くされたという歴史的な状況に対して、野田首相は「大きな音だね」と言ったという。「音」という言葉を聞いて、ゾッとした。どれほど鈍感なのか、本気でちょっと、怖くなった。あれは「音」ではない。人々の、20万人の怒りの声だ。野田首相が「守る」と言った「国民」の声なのだ。福島の悲劇を繰り返したくないと願い、いまだ避難生活を強いられる人々に心を寄せ、なんとか再稼働を阻止したいと、その意志を表明しようとわざわざ平日の夜、仕事帰りの疲れた身体で集まった20万人の必死の叫び声は、野田首相にとってはただの「雑音」でしかないのだろうか。そう思うと、なんだか怒りを通り越して泣きたくなってくる。

 しかし、泣いているわけにはいかない。ということでその翌々日は新宿で「原発やめろ野田やめろデモ!!!!!」。9月11日のデモ以来、「原発やめろデモ!!!!!」が約10ヶ月ぶりに帰ってきたのである! しかも今回のテーマは「野田退陣要求」! 何か、同時多発的にあちこちから同じ要求が出てきているのだ。

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デモ中

 あいにくの雨だったものの、デモには8000人が参加。午後6時からは新宿、アルタ前広場に「原発やめろ野田やめろ広場」が出現し、私たちは声の限りに「再稼働反対」を叫んだ。

 しかし、午後9時、大飯原発再稼働のニュースが。アルタ前は怒りに包まれ、またしても私たちはいつまでも「大飯を止めろ!」と叫び続けたのだった。

 たった2ヶ月で、「原発ゼロ」は終わってしまった。だけど、ここからまた新しい作戦が始まる。そしてこの1ヶ月くらいで、私たちは確実にパワーアップしている。メディアも無視できない存在となっている。

 積み上げてきたものは、実は私たちが考えるよりもきっと大きく、力を持っている。ということで、次の行動は7月6日、金曜日。午後6時、また官邸前に集まろう。もっと人は増えるはずだ。そして私たちの声を声として、あいつに認識させよう。

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デモ中

 

  

※コメントは承認制です。
第235回 官邸前が怒れる人々で埋め尽くされた日と「原発やめろ野田やめろデモ!!!!!」の巻」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    官邸前抗議行動や新宿でのデモ、そして大飯での阻止行動。
    読者の中にも行かれた方はたくさんいたのではないでしょうか。
    たしかに再稼働はなされてしまったけれど、だからってあきらめたら相手の思う壺。
    <積み上げてきたものは、実は私たちが考えるよりもきっと大きく、力を持っている>
    雨宮さんの言葉が、力をくれます。
    「原発ゼロ」まであと1基!

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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