雨宮処凛がゆく!

 この前、国会に12万人が押し寄せたかと思ったら、その翌週には新宿のホコ天に1万2000人が集結。もちろん、東京だけでなく全国に、燎原の火のように反対運動は広がっている。新宿伊勢丹前でSEALDs呼びかけの街宣が行われた日、私は香川県高松市で開催された「ピース・フェスin香川」に参加していた。こちらの参加者は1500人。集会の最後、みんなが「戦争させない」の真っ赤なプラカードを掲げる姿は圧巻だった。
 さて、そんな中、安保法案を巡っては様々な媒体でも多くの特集が組まれている。

 まず紹介したいのは、やっぱり自分が原稿を書いたもの。
 「THE BIG ISSUE」8月15日号に「安保法案強行採決に抗議10万人 7月15日国会前行動レポート」という原稿を書かせて頂いたのだが、9月1日号ではなんと特集が「2015年夏、ストリートデモクラシー」。私は高校生渋谷デモやSEALDs国会前集会などについて書いたのだが、他にも札幌の「戦争したくなくてふるえる」デモやSEALDs TOHOKU、SEALDs KANSAIのデモがレポートされている。THE BIG ISSUEでは次の9月15日号でも「戦争法案」を巡るアクションについて書いたので、ぜひ読んでほしい。
 というか、7月くらいからのこの動き、「若者が立ち上がった!」的なことを書いたかと思ったらOLDsやMIDDLEsが登場したり、ママの会が大規模デモを成功させたり、そうかと思ったら高校生がデモを主催したりと、書くそばから次々に書くことが増え、そして発売される頃には情報が「過去」になってしまっている――というのが嬉しくも悩ましいところである。が、とにかく歴史的な動きなので、ぜひ読んでほしい。

 さて、もうひとつ紹介したいのは『現代思想』10月臨時増刊号だ。特集は「安保法案を問う」。
 この号では「戦後70年、『政治の禁止』というくびきから解放された若者たち」という原稿を書かせて頂いたのだが、他の執筆陣はと言うと、香山リカ氏や北原みのり氏、木村草太氏や小森陽一氏、森達也氏などなど、全員は紹介しきれないがとにかく豪華メンバーだ。SEALDs奥田愛基氏のインタビューも掲載されている。

 そんな10月臨時増刊号の中で、雷の直撃のような衝撃で私に迫ってきた文章がある。それは、SEALDs KANSAI大澤茉実さんによって書かれた「SEALDsの周辺から 保守性のなかの革新性」。
 「よく語られるSEALDsのカッコ良さを何一つ持ち合わせていない」という彼女は、「人前でのスピーチはおろか、日常的な会話も苦手」で、「大学の行き帰りは、イヤホンをして下を向いて歩く。流行りの服も音楽もわからない」という。
 そんな彼女がSEALDs前身のSASPLを知ったのは、昨年12月。布団の中からSNSを通して知った。しかし、彼女はその時、SASPLのメンバーが言う「日常の幸せ」がわからなかったという。以下、引用だ。

 「この当たり前の日常を守りたい」などと片時も思ったことはなかった。はやく、誰か、この日常をぶち壊してくれ、と願いながら、頭から布団をかぶり、ここではないどこかを夢想した。当たり前に届かない自分や、皆と同じようには頑張れない自分が世界で一番嫌いだった。

 そんな彼女を動かしたのは、アルバイト先の女の子たちだったという。妊娠したものの奨学金の返済に追われ、シングルマザーでは今の世の中をとても生きていけないとおなかの子どもを堕ろした子。援助交際に依存するJK。離婚で心を病んだ母親が失踪した女の子。

 彼女たちも私も、絶望を抱えながら生きている。安保法制の『あ』の字も知らなくとも、日々の命を懸命に生きている。笑ってしまうほど強かに生きている。明日の命を探すのに必死なとき、国会の議論などに興味がもてるだろうか。
 だから私は、命を馬鹿にする政治が許せなかった。安保法案だけではない。高学費の問題、労働者派遣法の改正、女性が輝く(笑)政策…

(中略)彼女が生みたかった子どもは、もう死んだ。たった一人の子を生み育てることを許さなかった政治が、いま安全保障関連法案を成立させようとしている。すでに数え切れないほどの命を見殺しにしてきた政権が、『安全』を『保障』すると謳う法案に無邪気に賛成できるほど、私をとりまく世界はすでに安全ではない。

 全文はぜひ、『現代思想』で読んでほしいのだが、私は今、改めて「言葉の力」というものに圧倒されている。彼女の原稿だけではない。今、デモで、国会前で、街頭で、膨大な言葉が生み出されている。自分を語る言葉、個人と政治の回路を繋げる言葉、未来を描く言葉。

 この号のインタビューで、奥田愛基氏はスピーチについて、以下のように述べている。SASPL時代、特定秘密保護法について学び、いろんな試行錯誤を重ねながら迎えたデモ当日のスピーチについてだ。

 その結果、五月のデモではメンバーのスピーチがすごく良くなったんです。自分たちでも感動してしまうくらい。個人が個人として話しているんだけど、個人の枠を超えて突き抜けた言葉があって、それが憲法や平和という概念に、もう一度命を吹き込んでいるように感じました。

 私は物書きなので、言葉の力を信じている。そうじゃなきゃ、15年も書き続けられるはずがない。いつもデモや国会前に行くたびに、「今日はどんな言葉と出会えるだろう」とワクワクしている。きっとデモや国会前に行く人の多くもそうだと思う。
 戦争法案に反対するすべての場にあるのは、「反対」の意志だけではない。自分たちはどんな未来を描くのか。そんな思いが溢れている。それは未来を紡ぐ第一歩で、おそらく、そんなことを語り合うことこそが人間の根源的な喜びなのだと思う。そしてそれは「民主主義の実践」と言い換えてもいいものなのだと思う。
 今、生み出されている膨大な言葉たち。たった1枚の写真で世界が変わることがあるように、たったひとつの言葉が、世界を大きく変えることもある。だからこそ、それを見逃したくない。
 それに比べて、政権側が発する言葉はなんと空疎なのだろう。
 今、私たちが目撃し、参加している運動は、既に「反対」運動を軽く超えている。だからこそ、止まらないのだ。

 

  

※コメントは承認制です。
第349回 戦争法案と、それぞれの言葉の力。の巻」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    自民党員の中からも、地方では反対の声をあげる人が出てきている安保関連法案。しかし、自民党の谷垣幹事長は「燎原の火のごとく広がっているという状況ではない」という認識だそうです(9月7日記者会見)。
    いま、政治家が語る空疎で表面的な言葉遊びを乗り越えて、高校生が、大学生が、そして大人たちが、自分の言葉で政治と暮らしのつながりを取り戻し始めているように感じます。政治の状況は深刻ですが、3・11以降、確実に変わってきた動きに、希望を感じている人は多いのではないでしょうか。

  2. 多賀恭一 より:

    「国際連合 安全保障理事会の要請があった場合のみ本法を適用する。」
    の条文を入れば、合憲なんだがな。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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