雨宮処凛がゆく!

6月24日の国会包囲で。

 耳を疑うようなことが起きた。
 それはご存知、自民党の勉強会でのこと。「マスコミを懲らしめるには広告収入がなくなるのが一番」などとおぬかしになる議員がいたかと思えば、講師である作家の百田尚樹氏は「沖縄の2つの新聞社は絶対につぶさなあかん」「米兵が犯したレイプ犯罪よりも、沖縄人自身が起こしたレイプ犯罪の方がはるかに率が高い」などと暴言をお吐きになる。これが「勉強会」での発言なのだから、怒りも諦めも通り越して、ただただ恥ずかしい思いが込み上げてくる。自民党の方々は、「言論弾圧とは何か」とか「民主主義とは何か」という勉強会を一刻も早く開催すべきではないのだろうか。それだけではない。「違憲・合憲とは何か」「憲法とは何か」というテーマの勉強会も必要だろう。

 国会審議だけでなく、このように勉強会でもボロを出しまくっている自民党。安保法制のためならなりふり構わぬ暴走を続ける彼らを見ていると思わず絶望してしまいそうになるが、それ以上に、勇気を貰うような動きが全国各地で相次いでいる。それは「安保法制に反対する人々、特に若者たち」の動きだ。
 この一カ月を振り返っても、本当に様々なデモや集会が開催された。
 6月14日昼には2万5000人が国会を包囲し、同日夕方には「SEALDs」(シールズ 自由と民主主義のための学生緊急行動)の呼びかけで「戦争立法に反対する渋谷デモ」が開催された。こちらにはなんと6000人が集結。私も参加した。

 また、私は19、20日に開催された「戦争をさせない北海道委員会」のシンポジウム(19日)、集会&デモ(20日)にも参加。シンポジウムで、現在SEALDsなど学生たちが戦争法制を止めようと積極的にデモなどを主催していること、その中には高校生もいること、中高生の頃に3・11を経験した彼らは多感な時期に政治に疑問をもち、中には中学生の頃から脱原発デモに参加している人もいることなども話した。ちなみにその日の夜は「報道ステーション」でSEALDsが特集されるとのことだったので、そちらも勝手に告知。
 そうして、翌日。この日の集会・デモには5500人が集まり、前夜「報ステ」を見たという高齢の方々から「昨日観たよー」「若者に負けてらんないよー」「って、そんなこと言うの初めてだよー!」と口々に声をかけられた。なんだか自分のことのように嬉しくて、そして声をかけてくる高齢の方々が本当に嬉しそうで、中にはなんだか涙ぐんでるみたいな人もいて、思わずもらい泣きしそうになったのだった。

 この日、国会周辺には1万5000人が集結。「女の平和 国会ヒューマンチェーン」と称して、赤いファッションで国会を囲んだのだ。このアクションの呼びかけ人の一人でもある私は参加できなかったわけだが、その代わりに19日のシンポジウムで「明日は”女の平和”への連帯の意志を込めて赤い服で参加するのでぜひ皆さんも赤い服で!」と呼びかけると、来るわ来るわ、赤いファッションの老若男女。
 また、この翌日21日にはSEALDs KANSAIが関西でデモ。こちらには2000人以上が参加したという。一方、24日には「総がかり行動」として国会包囲が呼びかけられ、私もスピーチをしたのだが、この日は3万人が集結。そうして先週末27日には、SEALDsが渋谷・ハチ公前で街宣。多くの野党議員も参加し、ハチ公前は数千人で埋め尽くされた。駆けつけた中には、「I AM NOT ABE」でおなじみ・古賀茂明さんなど著名人もちらほら。私は一参加者として最前列っぽい場所で話を聞いていたのだが、気がつけば、隣に澤地久枝さんがいたのには驚いた。澤地さんもわざわざ渋谷まで駆けつけたのである。
 また、その前日の26日には札幌で19歳のフリーター女子が主催した「戦争したくなくてふるえる」デモに700人が参加している。

 さて、今後も安保法制を止めるための取り組みが各地で予定されているわけだが、北海道滞在中、改めて突きつけられたことがある。それは「自衛隊員の命」の問題だ。ちょうど北海道にいる頃、北海道新聞には40代の自衛隊員へのインタビューが掲載された。
 「自衛官、海外で戦う約束したっけ 子どもが2人『命の対価示して』 首相説明に違和感」という記事だ。
 北海道・滝川市出身の私にとって、地元に帰ると「自衛隊」はとても近い存在だ。市内には駐屯地があり、私が北海道にいた高校生の頃(1990年代はじめ)から過疎化が進んでいた地元では、市内で見かける「若い男性」の多くが自衛隊だった。高校生の頃の友人の彼氏も自衛隊員だったし、家族の友人、知人の中にも自衛隊員は多い。その中には、イラクに派遣された人もいる。ちなみにイラクに最初に派遣されたのは、私の地元からほど近い北海道・旭川の部隊。

6月27日、SEALDsの渋谷ハチ公前街宣の様子。

 そんな北海道の自衛隊員が、インタビュー記事の中で言うのだ。

 「どうしても法案を通して、自衛隊員に危険を押しつけるなら、『絶対安全』とか『リスクはない』といった建前の抽象論ではなく、子どもが何歳になるまで毎月いくら補償してくれるのか、具体的に示してほしい。隊員の命の値段を明確に示してほしいんです」

 この男性は北海道の高校を卒業後、陸上自衛隊に入り、現在は子どもが2人いるのだという。
 北海道のシンポジウムでは、半田滋さんによる自衛隊取材の話を聞く機会があった。自衛隊が滞在していたサマワの宿営地に、迫撃砲などでどれほどの攻撃がなされていたか。米兵を空輸していた自衛隊の飛行機の航空路が、どれほど危険なものだったか。1人の死者も怪我人も出ていないことは、「ただの偶然の産物」であり、「奇跡」としか言いようのない実態が明らかにされた。そんなふうに海外派遣された自衛隊員から、帰国後に54人の自殺者が出ていることは周知の通りだ。

 そんな場所について、政権は「机上の空論」としか言いようのない、現場を知ろうともしない破綻した論理でもって「死ぬかもしれないけど行ってこい」と言っているのである。そうして当事者である自衛隊員は「そんな約束はしていない」と思いつつも、自分の身に何かあった時、子どもたちが路頭に迷わないよう、「命の値段」をはっきりさせてほしい、と訴えているのだ。
 なんと悲しい現実だろう。しかし、今、これがこの国で実際に起きていることなのだ。命を失うだけではない。場合によっては手足を失い、重い障害を抱えるだろう。その場合の「対価」は? 「片手を失ったらいくら」という形で一覧表などができるのだろうか。

 当然、破壊されるのは身体だけではない。心だって破壊される。『帰還兵はなぜ自殺するのか』(デイヴィット・フィンケル 亜紀書房)によると、イラク・アフガン戦争から生還した兵士200万人のうち、50万人が精神的な傷害を負い、毎年250人超が自殺するという。
 今、この国では、政治が自殺対策に本腰を入れたことによって、やっと自殺者が3万人を割っている(それでも充分に多いが…)。それなのに、再び自殺者を増やすような法整備を進めている現政権。
 7月からは、生活保護の住宅扶助費の引き下げも始まった。また、「生涯派遣」を押し付けるような派遣法改正も衆議院で可決された。政治に一番大切なのは、弱い立場の人々の、声にならない声を掬い上げることだと思う。だけど、安倍政権がやっているのはその逆だ。ただただ命を軽んじる政治。その一点では、恐ろしいほどに一貫している。

 それでも、希望はある。全国各地で声を上げている人たちの存在だ。ここからできることはたくさんある。とにかく、声を上げて、「命を軽んじる政治」をひっくり返そう。

「私たちは自衛隊の皆さんが戦死するのを見たくありません」。同感。

 

  

※コメントは承認制です。
第341回 自衛官の「命の値段」。の巻」 に6件のコメント

  1. magazine9 より:

    まさかこんな時代がくると思っていませんでしたが、自衛隊員も、デモに参加する大学生も、「戦争」を自分のこととして考えざるを得ない状況に立たされ、必死に発言をしています。その一方、政治家たちはとても「自分ごと」として考えているようにはみえません。「私たちや家族の命を政治の道具に使われてたまるか」そんな怒りの声が、各地でどんどん大きくなっているのを感じます。

  2. 55年間、このクニで生きてきましたが、これほど危なっかしい、このニッポンという国をいまだかつて見たことがありません。人の命は、この国では「消耗品」なのでしょうか? 戦場に行かずとも、ずっと派遣社員で低所得のまま、働き続け、要らなくなれば「使えないヤツ」として捨てられる。人間の尊厳など、このクニの「エライ人々」には何の関心もないのでしょう。少なくとも僕はしぶとく生き続けていたいと思います。

  3. 多賀恭一 より:

    戦争に弱いリーダーほど戦争を始めたがる。
    無責任な国民ほど、軽々しく戦争しろと言う。
    世界史上、何時でも、何処でも、何度でも繰り返される愚行だ。
    さて日本は、
    良識が勝つのか?愚かさが勝つのか?

  4. 大阪のおばちゃん より:

    アマミヤユキト様
    57年間、このクニで生きてきました。人の命は「非売品」です!! 何ができるかわからないけど、何かしなくては!の思いが日々大きくなってきています。私もしぶとく生き続けていたいと思います。

  5. 渡部 俊之 より:

    派遣やアルバイト等非正規労働者はゴミか設備の部品とみなしている感じだ。私もそのひとりだが。今の製造会社に勤めて8年になるというのに会社は勤務シフトの変更を強引に押し押してきた。通常の勤務時間は8時間のはず!.法律にも定めがあるでしょう。なのに6時間に変えやがった!残業は強く希望するもフルタイムになっても9j時間!いままでは定時8時間だからフルタイム11時間!ふざけんな!いやなら辞めろというものだから仕方なしにとどまっている!生産が回復次第もとの時間帯に戻すといってはいるが。雰囲気からして当分絶望的だ!
     それもこれも総理と称するアレがしつこく居座りすぎているからだ!戦争法案、労働改悪・・失業者、非正規低賃金労働者、何等かの理由で働けない人々・・を最終的に徴兵させて世界中の紛争地帯に自衛隊でも嫌がるような「24時間死ぬまで戦え」的にて私たちは「殺処分」されるだろう!戦争法制など奴らが強引に決めてしまう法律には断じて体を張って対決しなければならい!犠牲は覚悟の上だ!
     あと何年生きられるかわからないがその時がきたらこういってやる!「戦争ごり押し政治家官僚、ブラック企業経営者、派遣会社経営者、今の勤務先の経営陣・・お前ら地獄で待っているぞ」と。

  6. うまれつきおうな より:

    何が正しい意見か決めるのは国民でありそのための言論の自由だとは露ほども思ってないのだろう。「お上の決めた正義を疑わず忠義のために死ね」などという手合いは選挙でなく時代劇に出てもらいたいが、果たして時代錯誤は連中だけだろうか。現政権を支えているのは裏にいるアメリカではなく、侍=正義とか情緒的(思考しない)なのが素直なる大和魂だとか弱者は黙って耐えるのが美徳とか幇間作家の垂れ流した<良識>を素朴に信じている普通の(右でない)日本人ではないか。中流意識の抜けない彼らは、やらずぶったくりに徴用される百姓雑兵でなく、「下の者」にこれら良識を説諭する殿様旦那様に自己イメージを重ねているゆえに、雨宮氏らの警告が侮辱に思えるのではないだろうか。地獄へのパレードを止めるためには<良識>の敷石をはがして善の裏にこそ悪が住み着くことを見せることが必要だと思う。

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

最新10title : 雨宮処凛がゆく!

Featuring Top 10/277 of 雨宮処凛がゆく!

マガ9のコンテンツ

カテゴリー