なんだか怒濤の一週間だった。
ご存知の通り、14日には「戦争法案」とも言われる安保関連法案が閣議決定され、官邸前に多くの人が駆けつけた。70年間、戦争をしてこなかったこの国を根底から覆すような閣議決定に、多くの人が怒りの声を上げた。
一方、17日の「大阪都構想」を巡る住民投票ではギリギリ反対票が上回り、都構想は否決。橋下大阪市長が政界引退を発表と、こちらは久々にほっとするような展開となった。思えば、橋下劇場が続いてきたこの8年近くで、どれほど政治は「感情論」に引っ張られてきただろう。時に無意味な対立が仕掛けられ、時に心ないバッシングが煽られ、結局一瞬いろんな人がそれに乗っかって祭りのようにガス抜きをしただけで、熱狂が終わると屋台が引き揚げた祭りのように本当に後には何も残らず、唯一残されるのは少なくない人の心の傷、という構図。
「どんな状況下でも自分を有利に見せる」ことにやたらと長けた橋下氏の感情的な言葉をしばらく聞かなくて済みそうだ、と思っただけで、ほっと安心しつつ、そして何よりも彼の引退が「憲法改正」派に与える打撃を思うと、ほんの少しだけど、安堵感が込み上げてくる。
しかし、やはり安心してはいられない。
閣議決定された安保法制の内容を知れば知るほど、込み上げてくるのは危機感だ。特に私の故郷の北海道には自衛隊員もたくさんいる。家族の知人の中には、イラクに派遣された人もいる。一方、安保法制に関わった人は、誰も戦場へなど行かない。彼らの子どもも行かないだろう。戦場で命の危険に晒されるのは、常に権力から遠い立場の人々だ。
そんなのって、あまりにもおかしいだろ。そんな思いから、最近、戦争についての本を書き上げた。昨年から取材を始めていた書き下ろし本だ。タイトルは『14歳からの戦争のリアル』。昨年7月の集団的自衛権行使容認の閣議決定を受け、「日本で一番わかりやすい戦争の本」を書こうと思い立った。とにかく、今進められている安保法制の言葉も概念もいちいち難しい。というか、わざと小難しくしてみんなを煙に巻こうとしているかのようだ。それらをとにかく噛み砕き、そして実際に戦争に行った多くの人たちに話を聞いた。
イラク戦争に参戦した元米兵にも話を聞いた。「ファルージャでの最悪の虐殺」と言われる作戦にかかわり、現在はイラクの人たちへの償いプロジェクトに取り組みつつ、反戦活動をしているロス・カプーティさんは、日本の状況を非常に危惧していた。
「もし日本がこのまま集団的自衛権の行使を容認し、アメリカに協力していくのなら、それは日本の市民をアメリカの非人道的で侵略的な外交政策に協力させるということになります。そのことは、日本の自衛隊の人々を間違いなくPTSD(心的外傷後ストレス障害)に晒すでしょう。また、それが日本社会全体に悪影響を与えるでしょう」
彼と同じ部隊にいた人たちは、帰国後、麻薬や酒に溺れ、ホームレスになった者もいれば、自殺した者もいるという。彼自身も重いPTSDに悩まされてきたが、彼は「いまだ治療法が確立していない」という「モラル・インジャリー」についても教えてくれた。「良心の傷」という意味だ。モラル・道徳に反することをしてしまった時に起こる病で、罪や恥の意識に苦しめられ、自らを責め続ける。しかし、アメリカの退役軍人用の病院は「PTSDには対応できるものの、モラル・インジャリーには対応できない」という。なぜなら、軍の病院は、「国の戦争を正しいと主張しているから」。間違った戦争によって、兵士たちが恥の意識や罪の意識を持つことを認めないのだ。ロスさんは、軍人用の病院で、ひたすら「お前はヒーローだ! お前はヒーローだ!」と言われ続けたという。あまりにもグロテスクな光景ではないだろうか。
『帰還兵はなぜ自殺するのか』(デイヴィット・フィンケル著/亜紀書房)によると、イラク・アフガン戦争から生還した兵士200万人のうち、50万人が精神的な傷害を負い、毎年250人超が自殺するという。
翻って、この国では、イラクに派遣された自衛隊員のうち、帰国後に自殺したのは29人。陸自21人、空自8人。イラクに派遣された自衛隊員は迫撃砲の攻撃に晒されるなどしながらも奇跡的に一人の死者も出さずに帰国。イラク派遣当時の陸自幕僚長は、防衛庁を開放し、国葬もしくは国葬に準じる葬儀を計画していたものの、「自衛隊員の国葬」は行なわれずに済んだ(東京新聞2015/4/5)。
しかし、帰国後に人知れず、それほどの命が失われているのである。このことを、この国の政治はなぜもっと真摯に受け止めようとしないのか。自殺を「自己責任」「個人的な問題」と考える悪しき、そして古き習慣はこの数年で随分払拭されてきたものの、なぜ、イラクに派遣された自衛隊員の自殺については、これほどまでに政治に無視されているのか。
今回の閣議決定には、あまりにも多くの突っ込みどころがある。ただひとつ書いておきたいのは、戦争についての本を執筆する過程でもっとも心に残っている言葉についてだ。それは「軍法のない自衛隊は海外に出してはいけない」というもの。派遣先の国で自衛隊が何か問題を起こした時、どう責任を取るのか。国連には軍事法廷がない。よって、他の国の軍隊は自国の軍法で裁かれる。自国の軍事法廷で厳しく裁かれるということが、派遣先の国の感情をなだめることにも繋がるだろう。しかし、自衛隊は? 自衛隊法には、国外で犯した過失を裁く規定すらないという。そんな自衛隊をどこにでも派遣するなんて、無責任極まりないのではないだろうか。
執筆の過程で、「日本に軍隊はない」ということが、様々なNGO活動などの場面で威力を発揮してきたことを改めて知った。知らず知らずのうちに、「日本は戦争をしない国」というイメージがどれほどの恩恵を私たちに与えているかを思い知った。しかし、それが通用しなくなった時、何が起きるのか。
ひたすらに暗澹たる気持ちが込み上げてくる。
とにかく、この流れに抗したい。抗い続けなければならない。
数年前まで、「戦争法制」に本気で反対しなければならないなんて、思ってもみなかった。
この国は今、本当に本当に、分岐点にあるのだ。
アメリカでは、退役軍人が一日22人というペースで自殺しているといわれています。さらに、うつや自殺などの問題は、本人だけでなく家族にまで及びます。どんなに勇ましい言葉で美化され、英雄化されても、戦地で待っているのは悲惨な現実。そのことを帰還兵の高いPTSD率は示しています。安保関連法案を閣議決定するにあたって、それらが引き起こすかもしれない現実の重さは、どれだけ考慮されたのでしょうか…。『14歳からの戦争のリアル』は、河出書房新社から今夏発売予定だそうです。楽しみです。
また、軍法の問題については、マガ9学校にも度々登壇してくださっている伊勢崎賢治さんの『日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの集団的自衛権入門』(朝日新書)も、参考になる一冊です。
『帰還兵はなぜ自殺するのか』(デイヴィッド・フィンケル、古屋美登里訳、亜紀書房、2300円+税)も、切ないほど兵士の心奥に迫った本です。イラク・アフガン戦争の帰還兵200万人のうち50万人が心に傷を受け、毎年250人以上が自殺する…というレポート。安倍首相や中谷防衛相にぜひ読んでほしい本ですが…。
戦争に弱い政治家ほど、戦争をやりたがる。
戦争を知らないから、戦争をやりたがる。
石原Sとか、東条Hとか、古くは山県Aとか・・・。
ネト・ウヨや安倍Sも同類。
アメリカの戦傷対策費が日本の防衛費より大きいことさえ知らないのだろう。