昨年から、世の中は「ピケティ」ブームだ。
持ち歩くだけで筋トレになりそうな分厚い本の値段は5940円。それが飛ぶように売れていると聞くと、思わず印税を計算したくなってくる。しかも、1月に来日してからは様々なメディアで目にしない日はないというほどの露出度だ。
そんな『21世紀の資本』、あなたは既に読んだだろうか?
私はまだ読んでいない。あの分厚さを前に、心は折れかけている。が、様々なメディアで、ピケティは格差社会に警鐘を鳴らし、富裕層への課税を訴えているということくらいは知っている。そんなざっくりしたイメージで、私はざっくりピケティを支持しているという、この国に数十万人くらいはいそうな人間の一人だ。
そんなピケティ・ブームを受け、にわかに「税制」に注目が集まっているが、2月、「税制」をメインテーマとした2つの団体が発足したことをご存知だろうか?
ひとつは民間税制調査会。エコノミストの水野和夫氏、民主党時代に政府税制調査会専門家委員会委員をつとめた三木義一氏らが呼びかけ人となって設立された。
もうひとつは、「公正な税制を求める市民連絡会(仮称)準備会」。こちらの呼びかけ人は弁護士の宇都宮健児氏、反貧困ネットワーク世話人の赤石千衣子氏、奨学金問題対策全国会議幹事の水谷英二氏、ブラック企業被害対策弁護団副代表の新里宏二氏、そして私だ。
どちらの団体も、格差是正のための税制を求め、豊かな層に多く課税すべき、という点では一致している。
さて、2月15日、そんな「公正な税制を求める市民連絡会(仮称)準備会」によって緊急シンポジウムが開催され、会場のキャパを上回る300人以上が詰めかけた。
この日のシンポジウムのタイトルは「税金を払わない巨大企業〜公正な税制で社会保障の充実を〜」。
基調講演をしてくれたのは、昨年秋、文春新書から『税金を払わない巨大企業』を出版した富岡幸雄氏だ。
今年で満90歳という富岡氏は、19歳で学徒動員によって戦地に赴き、戦後は国税庁の職員として徴税の現場や税務行政の管理をしてきたという人だ。退官後は中央大学教授として税務会計学を創始し、また多くの会社の顧問も経験してきたという。いわば70年間にわたって「税を知り尽くしてきた」生き証人のような存在なのである。
そんな富岡さんの『税金を払わない巨大企業』、私は出版されてすぐに読んでいたのだが、同書には衝撃の数字がずらりと並ぶ。
例えば、実効税負担率の低い大企業の1位が三井住友フィナンシャルグループで、純利益は1479億8500万円なのに納税額は300万円、負担率は0.002%。2位はソフトバンクで純利益788億8500万円なのに納税額500万円、負担率は0.006%――などなどだ。
「日本の法人税は高い」とはよく言われる言葉だが、本書を読むと、様々なからくりがあり、多くの巨大企業が税逃れしているという現実が見えてくる。
そんな富岡さんの話をぜひ聞きたいと思っていたのだが、お年もお年だし、難しいのでは、と思っていた。しかし、今回の緊急シンポジウムの企画が立ち上がり、準備会が依頼してみたところ、すぐに快諾して頂いたのだ。そうして2月15日、初めてお会いできたのである。
富岡さんは、90歳とは思えないよく通る声で、1時間以上立ちっぱなしでパワフルな講演をしてくださった。時に大企業のみを優遇する政策への怒りから机を叩き、時に声を荒らげて「現在の理不尽な税制」を訴える姿は、迫力に満ちていた。
いろんなことが語られた。今の日本の負担構造は、「巨大企業が極小の税負担」で、「中堅中小企業が極大の税負担」になっていること。「社会保障のため」と言われる消費税収入が法人税減税の穴埋めとなっていること。そして様々な大企業からの政治献金によって、政策が大企業に都合のいいように「買収」されていること。様々なデータから立証される不公平な税制の実態が次々と明らかになった。
富岡さんはこの日、著書『税金を払わない巨大企業』を「命がけで書いた」と述べた。この本では、大企業が実名で書かれ、「避税」の実態が隅々まで暴かれている。おそらく、各方面から相当な圧力もあるだろう。実際、出版したことによって、様々な誹謗中傷に晒されているとも語っていた。それでも、書かないではいられなかったのだ。
この本のあとがきで、富岡氏は戦地に行ったまま母国の土を踏めなかった同窓生、戦争の犠牲となった多くの兵士や民間人について触れ、そのあとにこう書いている。
「日本を戦争に駆り立てた原因のひとつに、国家財政のもろさや脆弱さがあげられます。日本の財政や経済の弱さを補うためにも、他国に侵略を企んだのです。
――こんな悲惨な戦争を二度と起こさないためにも、日本を内側から強くしなければならない。そうしなければ、戦争で亡くなった人たちに申し訳ない。
私が、戦後、国税庁に奉職したのは、こんな決意もありました」
そうして氏は、税に携わってきた70年間を振り返る。そうして、以下のように述べるのだ。
「その結果、現在の日本の財政が著しく弱いのは、税の不公正さに起因することに気がつきました。とくに、大企業を優遇し、その財政面での“帳尻合わせ”をさせられているのが、一般国民や中小企業だったことが明らかになりました。
かつては、国が栄えるためには、まず大企業が潤ってから、しだいに中小企業も活況になり、多くの労働者の賃金も上がって、内需が拡大するという波及効果が考えられていました。しかし、1980年頃から、大企業が盛んにグローバル化した結果、国を棄てて、無国籍としか言いようのない形態に変わっていきました。同時に、短期にできるだけ多くの利益を得ようとするアメリカナイズした経営方針が浸透して、大企業は、その利益をタックス・ヘイブンと呼ばれる税率がきわめて低い国々に蓄積するようになってしまいました。つまり、大企業が儲かっても、国や国民は潤わないようになってしまったのです。
それにもかかわらず、政府は大企業を優遇するような税制を推し進めています。その結果が消費税の増税です。もし、大企業に、法が定めた税率に基づいて適正に納税させていれば、消費税を増税しなくてよかったばかりか、これほど財政赤字に苦しむ必要もなかったのです」
今年1月、貧困撲滅に取り組む国際NGOオックスファムは、2014年の時点で富裕層上位1%が所有する富が48%になり、2016年までには半分を超えると指摘した。世界でもっともお金持ちの1%が、世界全体の富の半分を独占するという事態が今この瞬間、既に起きているのだ。
何かおかしい。この20年くらい、日本に住む人々だけでなく、世界中の先進国の人々が思ってきたはずだ。だけど、何がおかしいのかよくわからない。格差を問題にすれば「自分が努力して這い上がれ」と言われるし、貧困を問題にすれば「自己責任」と突き放される。だけど、そもそも、この構造自体がおかしいのではないか? 個人の努力ではいかんともしがたい領域に、既にずーっと前から突入しているのではないか?
そんな中で起きた世界的なピケティ・ブームと、「税制」を問い直す動き。
私たちは、自分たちの手で「公正な税制」のプランを作り、提示すべき時が来たのだと思う。みんなで一緒に、議論しながら作っていきたい。税制を考えることは、社会の在り方をイチから作り変えるような作業である。今から、楽しみでワクワクしているのだ。
アメリカでもベストセラーとなった、パリ経済学校のトマ・ピケティ教授による『21世紀の資本論』。資本の集中と経済的不平等は拡大する一方だと指摘しています。16日の衆院本会議では、民主党の岡田代表が格差についての認識を安倍首相に質していますが、安倍首相は「格差が許容範囲を超えている」という認識はしていないと答えていました。しかし、こうしたピケティ・ブームが起こり、市民が立ち上がらざるを得ない状況が、果たして見えているのでしょうか。命がけで訴える富岡さんの言葉が重く響いてきます。
「公正な税制を求める市民連絡会(仮称)準備会」のフェイスブックページはこちら。
> 富岡さんの『税金を払わない巨大企業』
良い話があります。ソフトバンクの有価証券報告書を見てみましょう。以下のページで公開されています。
http://www.softbank.jp/corp/irinfo/financials/security_reports/
これの有価証券報告書(第34期)を、『法人所得税』で検索すると、85ページに数字があります。グループ全体で、税引前利益が9323億円、法人所得税が3462億円とのことです。ソフトバンクは結構税金払ってます。よかったですね。めでたしめでたしです。
なぜ富岡氏の出した数字とずれがあるかというと、税金を払ってるのが主に子会社だからです。持株会社であるソフトバンク株式会社には、すでに税金が差し引かれたあとのお金が配当金としてあつまってくるわけです。ここで2重3重に法人税をかけていないので、ソフトバンク株式会社の負担は0.006%とかいう話になります。
私には、実際にはグループとして納税があるにも関わらず、持株会社だけを取り出すことであたかも不当に税金逃れをしているかのような富岡氏の主張や、この本の売り方にこそ『からくり』があるように思います。
ソフトバンクが真っ白だなんて言いたいわけではありません。上で「めでたし」とか言いましたが、この税率が妥当かどうかという話は当然あるでしょう。しかし、『0.006%』という数字に関して言えばまるで的はずれです。それを元にして怒るのは無駄です。
公正な税制というと現代人は累進課税を思い浮かべるが、
累進課税は公正な税制ではない。
公正な税制は財産に比例して支払われる財産税である。
このことは2000年以上前の古代ローマの英雄カエサルのころから解っていたことだ。
しかし、具体的な課税方式を考え出すことは現代まで実現できていない。
かろうじて、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスが人類史上初の相続税を制定してみせたが、
抜け道が発見されローマ帝国は崩壊した。(相続税は財産税の一種)
米国の鉄鋼王カーネギーも「あらゆる税金の中で、相続税がいちばん妥当なものに思える。」と言っている。
何があきれるといってピケティ氏は「金持ちの金は労働で得たものではないので課税強化しろ」と言っているのに政府の答えは「労働意欲をそぐ」という始めから聞く耳もたずだった事である。しかしテレビの視聴者の意見を見ると、とにかく日本人は債権者と商売人と地主にめっぽう甘い。どんなアコギな商売でも「消費者が努力して賢くなれ、規制は反対」「ギリシヤ人と奨学生はどんな悲惨な生活をしても金を返せ」「地権者の権利がなにより一番大事」というものが大半だ。中世の日本では殺人より窃盗の方が罪が重かったともいう。残念ながら”この文化にしてこの政府あり”なのだと思う。
なるとさんのような反論に対しても富岡氏は反論で返していますよ。
ご存知無いのか、納得していないのか不明ですが、まずは富岡氏のその部分についての反論もお調べになって、更なる反論が有れば提示願いたいです。
ピケティの本をまだ読んでいないので分からないが、ピケティは「資本主義が経済格差を広げる」と言っているのだろうか。
NHKが取材しまとめた『エンデの遺言』という本がある。この本の中で、経済格差を引き起こす原因の一つとして、銀行に預けた際にかかる「プラスの利子」をあげている。この「プラスの利子」が企業にプラスの経済成長を強い、社会を競争社会へとおしやっているのだという。
これと反対に、もし「マイナスの利子」をかける、つまり減価する貨幣を導入した場合にどうなるのか。この事例に、世界恐慌のヴェルグルを救った労働証明書という「スタンプ貨幣」がある。このスタンプ貨幣により失業率が改善し繁栄するという結果をもたらした。しかし、中央銀行により禁止されてしまい、また元の不況に戻ってしまったという。
「なぜ、経済格差が広がるのか?」そしてもっと根本的に「経済格差はどんな社会問題を引き起こしているのか?」という問いを改めて問い直す必要があるのではないだろうか。この問題を問い直す際、ピケティの本だけでなく、『エンデの遺言』は多くのアイデアを提供しているように思う。
> 松蔵さん
私が上の書き込みで挙げたのは、法人が受け取った配当金を益金不算入とすることをどう捉えるかです。とくに新書の帯にまでなってしまったソフトバンクの例は問題視しています。
私が益金不算入を妥当であると考えるのは、(税額の大小が理由ではなく) 親会社・子会社で二重課税を防ぐためです。このような考えに対する富岡氏の反論は、残念ながら見つけることができませんでした。
(「税金を払わない巨大企業」の3章⑦に「二重課税はまれ」とありますが、これは法人と個人株主の二重課税の話ですので違いますよね。)
IWJ のウェブサイト ( http://iwj.co.jp/wj/open/archives/233008 ) に関係しそうな箇所があったので引用しますが…。
(引用ここから)
「持ち株会社は、その下にぶら下がっている子会社が税金を納めているから、吸い上げた配当収入について、もう一度、税金を払わなくていいことになっている。その点を捕まえて、『そういう特殊な会社を取り上げるのは大人げない』といった批判的な言葉がインターネット上で目につくが、異論があるなら、直接、私に言ってきてほしい。とにかく、実効税負担率が著しく低いことは事実なのだ」
(引用ここまで)
現在正当とされている益金不算入が不当であることを示さないと、「正当に税金を払っていても実効税率負担は低く出ることがある、すなわち実行税負担率は正当か不当かの目安にならない」という話にしかなりません。
もっとはっきりした反論があるなら教えていただきたいと思います。