イスラム国によって、湯川遥菜さんが殺害されたと見られている。
ただただ、言葉を失っている。
そうして、11年前を思い出している。
2004年4月、高遠菜穂子さんたち3人が拘束され、自衛隊が撤退しなければ「生きたまま焼き殺す」と警告された時のこと。あの時、日本中を包んだ自己責任バッシング。
幸い3人は解放されたものの、それから半年後の04年10月、香田証生さんが拘束された。彼を人質にしたのは「イスラム国」の前身であるイラクアルカイダ。彼の遺体は、アメリカ国旗に載せられた状態でバグダッドの路上で発見された。
なぜ、高遠さんたちは助かり、香田さんは殺害されたのか。
高遠さんたちを拘束したのは「地元のレジスタンス」的な存在と言われている。自らの家族が米軍に殺され、或いは自らが拷問を受けたような人々。そんな彼らとは、「自分はスパイじゃない」などと交渉ができたという。しかし、イスラム国前身のイラクアルカイダは、そのような交渉ができる相手ではなかったという。
現在、この国のメディアは連日イスラム国の残虐性を非難している。
もちろん、私も残虐だと思う。ひどいと思う。そこはまったく同感だ。
しかし、「なぜイスラム国が台頭したのか」を考えていくと、イラク戦争にぶち当たる。
「大量破壊兵器」という存在しなかったもののために始められた戦争。それを真っ先に支持したのは日本政府だ。
昨年末、一人のイラク帰還兵のアメリカ人男性が来日した。
彼の名前は、ロス・カプーティさん。
「イラク戦争、集団的自衛権行使を問う」スピーキングツアーのために来日した彼の話を聞くため、私は2度、集会に行った。
そこで突きつけられたのは、「知らない」ということの怖さだった。
高校を卒業して軍隊に入った彼は、イラクに派遣されるものの、「自分の国がやっている戦争について、何も知らなかった」と語った。
そんな彼が派遣されたのは、アメリカに対する抵抗運動がもっとも激しかったファルージャ。彼が派遣される3カ月前には4人のアメリカ人傭兵が殺害され、遺体が焼かれて橋に吊るされるという事件も起きていた。また、アブグレイブ刑務所での米軍兵士によるイラク人への拷問や虐待の写真が公開され、反米感情はこれまでにないほど高まっていた。しかし、そんなことも彼は知らされていなかったという。当時の彼は、「頭にスカーフを巻いて私たちを攻撃してくるイラク人たちはみんな悪い宗教に洗脳されていて、アメリカ人と見れば理由もなく殺そうとしてくるのだと思っていた」と語った。
しかし、そんなファルージャでの任務を経験する中で、彼はイラクの人々がなぜ抵抗しているのかがわかっていく。なんの令状もなく、イラク人の頭に袋をかぶせて拘置所に連行してもお咎めなしの自分たちと、連行されてしまったが最後、どうなるかわからないイラク人。そんな彼は、「米軍によるイラクでの最悪の虐待」と言われる第二次ファルージャ総攻撃に参加。この攻撃の中で4000〜6000人の民間人が殺され、20万人が避難民となり、ファルージャの3分の2が瓦礫と化したという。
帰国後、彼は壮絶な罪悪感との闘いに苦しみ、現在はイラク戦争犠牲者への「償いプロジェクト」を設立。同時に反戦運動を展開している。
PTSDに苦しむ元兵士が多くいるアメリカと違って、この国の多くの人は、イラク戦争のことなどすっかり忘れているように見える。その影でイラクに派遣された自衛隊員からは28人の自殺者が出ているものの、そのことについてはなんの検証もされていない。
その上、「その後のイラクの状況」には絶望的なほど、無関心だ。恥ずかしながら、私自身も昨年ロスさんの話を聞くまで、「現在のイラク」について、知らないことばかりだった。
12年11月、「イラクの春」と言われるデモが始まったことも知らなかったし、その後のイラク政府軍によるデモ鎮圧や空爆についても、あまりにも無知だった。知っていたことはと言えば、米国主導で対イスラム国の空爆が昨年8月に始まったこと。しかし、それ以前からイラクは、イラク政府軍、シーア派民兵、そして地元の部族のグループなどが入り乱れ、そんな混乱の中にイスラム国がやってきてあちこちを制圧と、文字通り泥沼の状況だったのだという。
知らないことは、時に罪だ。少なくとも、イラク戦争を真っ先に支持した日本に住む私たちは、決して無辜ではないと思う。
一方、今回の人質事件では、「知らなかった」では済まされなかった事実がもうひとつ、ある。それは湯川さん、後藤さんが拘束されていることを政府は以前から把握していなかったはずはないということだ。それなのに放置した挙げ句、安倍首相はエジプトで「イスラム国」への対応として難民支援などに2億ドル拠出すると述べ、イスラエルでは「テロ対策で連携する」と発言した。
ロスさんが来日した時のイベントで、高遠菜穂子さんが言っていた言葉を思い出した。彼女は「安倍さんが今後何を言うかに、ものすごく戦々恐々としている」と語っていた。なぜなら、イギリスの首相が「アメリカの軍事行動を支持する」と言えばイギリス人の人質がイスラム国に殺される、という現実が既に昨年起きていたからだ。安倍首相はそんな現実について、どう思っていたのだろう。「知らない」では済まされない。
戦争は、憎しみの連鎖を生む。
フランスの「シャルリエブド」社が襲撃された事件にも、イラク戦争が暗い影を落としている。容疑者の一人が活動に参加した動機は、「イラクのアブグレイブ刑務所での捕虜虐待の写真を見て義憤に駆られた」ことだという。
私はシリアに行ったことはないけれど、イラクには2度行ったことがある。
1999年と2003年、まだイラク戦争前のことだ。
その時のイラクは、こっちが戸惑うほどの親日っぷりの人ばかりで、やたらと「ヒロシマ!」「ナガサキ!」と声をかけられた。
そんな空気は、今はもうないのだろうか。
とにかく、後藤さんが、無事帰国しますように。
今はただ、それを祈ることしかできない。
「知らないことの怖さ」を突きつけられたという雨宮さん。経済などで世界の距離は近くなったように見えながら、たとえば中東の事情にしても、あまりにも知らないことが多いのに気づかされます。ロス・カプーティさんのように、知ることで起きている出来事のとらえ方が変わってくるかもしれません。
いまはとにかく、一日でも早い無事の解放を祈ります。
「アメリカは正義の帝国である」とアメリカ政府はアメリカ国民を洗脳していると言える。
しかし、実態はとても正義の国とは言えないのだ。
第二次世界大戦でさえ、ナチスよりマシな程度でしかなかった。
無論、当時の日本がアメリカより正義であったというわけではない。
ただし、
人類の歴史上存在したすべての覇権国と比較した場合、
アメリカは最もベターな覇権国であるのは事実として認識しておくべきだろう。
アメリカの数多くの欠点が改善されるよう努力していくことが重要だ。
「知らない」事で恐怖を体験しないと、本当の意味での「知らなければ」に成らない様な気がします。
個人レベルですが、恐怖がきっかけで「知らなければ」に強迫的になった体験をした一人です。
「知る」は最大の防御であり、暴力を行使せず闘える武器です。
でも知らなければ知らないで怖いし、知りすぎても怖い。
その後の人生も大きく変えてしまうし、使い方が難しいし、とても厄介なものです。
今回の件は沢山の「知」をもってしても、考えてもどうにも成らないし行動しようも無い事を、
信頼していない方に任せるのはとても恐怖です。
イラク戦争の時に、「アメリカを支持する」と小泉総理が言って日本人が拉致された。そのことだけを考慮しても、武力衝突が起きているときに、明確にどちらかを支持すると宣言するのは浅はかだ。その上、イギリスの首相がアメリカを支持すると言ってイギリス人が殺される事件があったなら尚更、思慮が足りない。日本はどうして争いが起きているのかということをしっかり調べてから生活に困っている人たちを中東支援で実績のある人達の声を参考に支援するべきではないか。イラク戦争では大量破壊兵器を持っていると言ってアメリカは戦争を始めたが、実際はなかった。イスラム国の幹部はそのイラク戦争でアメリカにより不当な扱いを受けた人であり、ソ連と争っていた時は義勇兵としてアメリカの仲間として戦っていたそうだ。アメリカの敵になったとたんに、テロリストという悪名をつけられることにも違和感を感じる。
知らないことの怖さを、日々感じます。
けれども無知から抜け出せない状況・・・多くの低所得労働者(?)、時間的ゆとりもなければ体力的余裕もない、もうただ明日のご飯の心配だけで難しいこと考えたくもなく、情報を得るのはテレビだけ・・・という、
これから本当に困っていくであろう層に、圧倒的多数の層に、どうやって働きかけていけばいいのか?
そこの所でいつも考えが行き詰ります。
私はそういう層の中にいると思えますが、話ができない。
私でさえもものごとを考えるようになったんだから、きっと周りにも話せる人が居るはず、と思うんですが。
雨宮さん,イラク戦争のくだりは,その通りだと思います。
しかし,イスラム国があれだけの地域を支配してしまったのは,なぜか?
それは,イラク戦争だけではなく,「シリア内戦」が影響しているからです。
バッシャールのやったことは,自国民に対するジェノサイドです。イスラエルのガザ攻撃に匹敵いやそれ以上の砲弾の雨あられを自国民に降り注いだのです。バッシャール政権と彼の背後にあるイラン政府の非人道的な反対派への弾圧,虐殺に対して,「見て見ぬふりはできない。」とメディアに扇動されたアラブの若者たちが,使命感を持ってシリアで闘うことになったのです。
この現状を日本で訴えているのは,左翼系では第四インター系の「虹とモンスーン」しかありません。
同サイトには,シリア革命的左翼潮流のモニフ・ムレヘム氏の「バッシャール政権へのシリア民衆革命」の姿が
描かれています。反米が好きな日本の左翼では,反米=善であり,バッシャール一派の犯罪告発は,受け入れられないのです。
若者たちの義憤がサウジやトルコによって反イランに利用され,一部が「イスラム国」になり,旧バース党とつながっていきました。また,抜け目ないバッシャールは,「イスラム国」を反体制派の分断に利用しました。
おかげで,バッシャール政権は軍事バランスで有利を保ち,なおかつ,「イスラム国」の非道イメージをアピール
することにより,「反テロ」の名の元に自分たちが行ってきた犯罪を正当化しようとしています。その主張を真に受けて,シリア反体制派を「イスラム原理主義者」「テロリスト」と決めつけた重信メイ氏のような方もいます。
後藤さんは,重信メイ氏とは正反対の市民の側に立つ方でした。甘い考えではあったのですが,シリアの現状を知るものとして,「イスラム国」に対してもジャーナリストとして,彼らの声もとどけようという立場だったのでしょう。
-後藤健二さんは,永遠に生き続ける。我々の心に-