なんだかいろんな事が同時進行で起きていて目が回りそうだ。
沖縄知事選での翁長氏の勝利。そして突然の解散・総選挙。
だが、選挙ということは、この2年間の安倍政権へ審判を下せるということである。
反対世論をまったく無視しての特定秘密保護法の成立や集団的自衛権行使容認の閣議決定。武器輸出や川内原発再稼働。そして生活保護基準の引き下げ。このうちひとつでも「信」を問われたことなどあっただろうか。ある意味、チャンスである。
さて、そんなバタバタしている中、ある本を読んでとても恐ろしくなった。それは『ルポ貧困大国アメリカ』でおなじみ、堤未果さんの『沈みゆく大国アメリカ』 (集英社新書)。
本書を開いたところには、こんな文章がある。
「鳴り物入りで始まった医療保険制度改革『オバマケア』は、恐るべき悲劇をアメリカ社会にもたらした。『がん治療薬は自己負担、安楽死薬なら保険適用』『高齢者は高額手術より痛み止めでOK』『一粒10万円の薬』『自殺率1位は医師』『手厚く治療すると罰金、やらずに死ねば遺族から訴訟』」――。
アメリカではべらぼうに医療費が高く、貧しい人はマトモな医療を受けられないばかりか、「医療破産」する人も多いということを知っている人は多いはずだ。だからこそ、オバマ大統領が目指した皆保険制度。
「もう誰も、無保険や低保険によって死亡することがあってはならない」と宣言し、オバマ大統領は2010年3月に「医療保険制度改革法」に署名。マイケル・ムーア監督も「もう2度と、病気になっただけで医療破産するようなことは起こらなくなる」と称賛した法律である。
しかし、そんな「オバマケア」の実態はどうなのか。
本書には、29歳でHIVと診断されたオスカーが登場する。彼は無保険。勤務先の提供する民間保険に入ろうとするも、HIV陽性なので却下されてしまう。無保険では、HIVウィルス増殖を抑える薬代は年間200万円もかかってしまう。
最後の手段として思いついたのは、会社をやめて最貧困層になること。そうすれば国が貧困層に提供する「メディケイド」という公的な医療制度にひっかかることができる。しかし、前年の収入がメディケイド受給要件を上回っていたため、申請は却下。エイズ治療救済プログラムに「死ねというのか?」と問うと、「エイズを発病してからもう一度来て下さい。それなら働けない証明が出せるので、メディケイドの障害者枠に入れますから」との答え。
しかし、そんなオスカーに希望の光を与えたのが、オバマが成立させた医療保険改革だった。それが実現すればHIV患者でも保険に入れると聞き、オスカーはオバマケアを支援するボランティアを始める。
「HIVだけじゃない。喘息や肝炎、リウマチや筋肉硬化症、そしてがんなど、あらゆる重病や慢性疾患を持つ人々が、オバマケアのおかげで、拒絶や破産の憂き目にあうことを恐れず生きられる社会が、やっとくる」と信じて。
そうして2013年10月、オバマケア保険の申請手続きが開始され、オスカーは無事に診療費の7割をカバーしてくれる保険に加入。月々の保険料は3万2500円で、自己負担合計額の上限は年間6350ドル(63万500円)。しかし、翌月、恐ろしい事実に気づく。以下、本文からの引用だ。
「オバマケアは既往歴や病気を理由にした加入拒否を違法にしたが、多くの保険会社は代わりに、薬を値段ごとに七つのグループに分け、患者の自己負担率を定額制から一定率負担制に切りかえていた。
このやり方だと、HIVやがんのような高額な薬ほど、患者の自己負担率は重くなる。
HIVの抗ウィルス薬はもっとも高額なレベル5で、自己負担率は50パーセントだ。オスカーの場合は、まず保険金が支払われる前の自己負担額5000ドル(50万円)を支払ったうえで、今度は毎月の薬代2400ドル(24万円)の50パーセントを負担しなければならない。さらに20種類以上ある抗HIVウィルス薬のうち、保険が適用される処方薬リストに入っていたのは6種類のみだった。HIV患者は数種類の薬を飲む必要があり、オスカーの服用する薬のうち、リストにない薬の代金840ドル(8万4000円)は毎月100パーセント自己負担になる。そしてこのリスト外の薬については、6350ドルという最大自己負担上限の適用外なのだ」
やっと保険に入れたHIV患者の多くが、同じような目に遭っていた。しかし、彼らへの救済制度はなきに等しい状態だった。それまで約半数の州にあったという「慢性疾患患者用救済共同基金」が、オバマケアの導入により、廃止されていたからだ。
オスカーの友人でC型肝炎患者のケビンも、オバマケアによって保険に加入できた1人だ。しかし、彼が医師から勧められた新薬の値段は1クール12週分で自己負担額840万円。
オスカーは、自己破産することを考えているという。最貧困層になれば、メディケイドに加入して薬を飲めるからだ。
本書を読み進めていくと、オバマケアはアメリカの雇用も不安定化させていることが浮かび上がる。労働者に保険を提供する経費を削減するために、フルタイムからパートタイムへの降格やリストラが起きているというのだ。
そんなオバマケアで莫大な利益を上げているのが、保険会社や製薬会社だ。なんだか既視感を覚える構図である。
「でも、アメリカの話でしょ? 日本は関係ないし」と思う人もいるかもしれない。しかし、本書の最終章のタイトルは「次のターゲットは日本」。
選挙の前に、ぜひ読んでおいた方がいい一冊だ。
最近は、あまり話題にあがらなくなってきましたが、いまなお交渉中のTPPでも、混合診療の解禁など医療分野への影響が心配されています。健康や命が、お金によって判断されてしまうアメリカの状況は、今後の日本がたどる道なのでしょうか・・・。選挙は、国民不在で進められている政治や経済を私たちの手に取り戻すいちばんの機会であるはずです。
TPPを推進する経済産業省と二人三脚の安倍内閣。
今回の選挙はTPPによる日本破壊を阻止する最後のチャンスだ。
心ある若者は自らの両親や祖父に次のように言うべきだ。
「お前たちが自民党に投票してきたから俺たちが苦しんでいる。
今度の選挙で自民党に投票したら、もう親でもなければ子でもない。
お前たちの面倒は絶対見ない。」
日本にも「沈みゆく…」のオスカーと同じような思いをした知人がおり、思い出すたびに悔し涙が込み上げて来ます。その方は母親と二人暮らしの娘で末期癌、仕事が出来なくなり生活保護を申請するが、親子の生保解約、貯金の使い果たし、自家用車の処分を条件とされ、やっとの思いで支給されるが3ヵ月後の今年8月に死亡。すっからかんになったその家族はいまだに墓も建てられません。