雨宮処凛がゆく!

デモ出発前!

 あんなに涙を堪えるのが大変だったデモは初めてだ。
 そしてあんなに感動したデモも。
 
 自分より下の世代の人たちをあそこまで頼もしいと感じたことも初めてだし、何より沿道の反応があんなにいいデモは初めてだった。あたたかくデモ隊を見守る、とかじゃなくて、女子高生なんかが本気で「憧れの目」でデモ隊とサウンドカーを見つめている。渋谷の駅近くにさしかかった瞬間、男子高校生の集団が歓声を上げ、踊りながらデモ隊に飛び入り参加してくれた。拍手で迎えるみんな。嬉しそうに飛び跳ねる高校生たち。晴天の昼下がりの渋谷に、音楽に載せて幾度も幾度もこの言葉が飛び交った。

 「特定秘密保護法反対!」
 「I say 憲法 You say 守れ」
 「Get up Stand up Stand up for Your Right」
 「Get up Stand up Don’t Give up the Fight」
 「安倍は やめろ!」
 
 10月25日、SASPL(サスプル)という、秘密保護法に反対する学生たちで結成されたグループによって主催されたデモ。
 なんとこの日、デモには2000人以上が参加した。
 参加者の多くが学生。あんなに平均年齢が低いデモを目にしたのも初めてだった。

渋谷をデモ!

 SASPLを知ったのは数ヶ月前。たまたま行ったデモ関係の飲み会にメンバーがいて、話を聞いたのがきっかけだった。その少し前、学生たちが秘密保護法に反対するデモを主催して500人が参加した、という噂は耳にしていた。それからも、至るところで10代や大学生のSASPLに関わっている若者たちと遭遇した。

 彼らからは、断片的にいろんな話を聞いていた。中学生の時に3・11が起こり、中3から脱原発デモに参加しているという高校生もいれば、高校生の時に震災が起き、大学生になっていろいろ考えるようになって初めて「自分たちをリアルに脅かすもの」として登場したのが秘密保護法だったという人もいた。そこから集団的自衛権までの一連の流れを見て、学生こそが何か言わなければ、と運動に参加したという人もいたし、学生という立場から、研究対象として秘密保護法の問題を考え、その問題点を提起したいという人もいた。

 この数ヶ月、そんな若者たちと多く話して、ものすごくいい意味で「一体この国はどうなってしまったのだろう」と思っていた。世代的に運動アレルギーもなく、非常に多感な時期に3・11に遭遇し、根本からこの国の価値観が問い返される中で真摯に考えることをやめず、動き始めた若者たち。そんな若者たちが出会ったのが、昨年12月、特定秘密保護法が強行採決されることに抗議して多くの人が集まった国会前だった。SASPLもこの日に結成されたのだという。

 そんな彼らのデモに初めて参加して、もう涙を堪えるのが大変だった。
 デモの途中、学生たちが次々とサウンドカーにのぼり、スマホを見ながら思いの丈を語った。

 「特定秘密保護法が成立した日、テレビでは“今日、民主主義が終わりました”と言っていました。終わったんなら、自分たちで民主主義を始めればいいじゃないか!」

 「秘密保護法は、本当に国家のための法律なのか? 国民のための国家でなく、国家のための国民となる第一歩なら、それだけは勘弁してくれと叫びたくてここに来ました! 僕がこうやって叫ぶことが、近い未来に売国奴とか非国民と言われる日が来るかもしれないし、来てるかもしれない。だとしたら俺は、喜んで売国奴になってやるし、喜んで非国民になってやろうという覚悟でここに立ってます!」

 「デモやって意味あんのってよく言われるけど、こんなにたくさんの人が集まってるじゃないですか!」

 「今まで何十年も権利を勝ち取るために闘ってくれた先人たちの力があって、今、自分たちもここに立ってこうしてデモができるんです!」

こうして一人ずつサウンドカーに乗り、思いの丈を語ります。

 彼らの若々しい叫び声に、もう私はデモの途中から「9条守れと叫び続けて50年、元教員・鈴木亀二郎さん(72歳)」みたいな気分になってきて、若者たちを拝みたい衝動を堪えるのに必死だった。

 でも、本当に、いい意味でまったく違う感覚の世代が育ってきているのだ。ずっと景気が悪く、右肩下がりと言われる中を生き、多感な時期に震災と原発事故を経験し、この国の底が抜けたような状況に若いからこそ敏感で、そして社会の在り方に異議を唱えつつ、同時にオシャレなデモまで主催できてしまう人々。なんて頼もしい存在だろう。

 日も暮れた頃、デモ隊は出発場所の代々木公園に到着した。亀二郎も老体に鞭打ち、なんとか最後まで歩くことができた。嬉しさと喜びのあまり、思わずデモスタッフの学生に「若いのに偉いのぅ」と年寄り臭い言葉をかけると、大学生だという彼は言った。
 「なんか、若いのに偉いとか褒められるのって抵抗あるんですよね。若い若くない関係なく、この社会に生きる人間として絶対考えなきゃいけないことだろって。逆に僕は、声上げてない大人に、声上げろよって言いたいです」

 ああ、なんて頼もしい答えだろう・・・。
 解散地点でデモの余韻に浸りつつぼんやり座っていると、プレカリアート系のデモで7年くらい前から顔を合わせる女の子が隣に来た。
 「世代交代って、こういうことを言うんですねぇ・・・」
 おそらくまだ20代の彼女は嬉しそうにそう言って、また亀二郎は涙ぐみそうになったのだった。
 10月25日、SASPLのデモで、私は大人の階段をひとつ、上ったのだった。

 この日のデモ映像はこちらで☆

 

  

※コメントは承認制です。
第314回 最高だったSASPLデモ! そして大人の階段を上った私。の巻」 に6件のコメント

  1. magazine9 より:

    「おかしいことを、おかしいって言っていいと思う」と以前に話していたのは、SASPLの中心メンバーでもある明治学院大学の奥田愛基さん。デモに参加して、“おかしい”と声を上げること、自分の意見を言うことは、いつから「カッコ悪いこと」になってしまったのでしょうか? そんなどこか萎縮しがちな空気を、がらりと力強く変えてくれたようなSASPLのデモでした。大人も負けずにカッコよく声を上げていきましょう。
    大学生3人の座談会「僕たちだって、デモに行く!」でもSASPLに参加する大学生の声を紹介しています。こちらもあわせてどうぞ。

  2. 島 憲治 より:

      動画を見た。前期高齢者ガンバルぞ~。そんな気持ちにさせる光景であった。 さて、「民意の反映は何も選挙に限らない」。特に小選挙区制度の弊害はその感を強くする。黙っていては何も変わらない。ところが、国民の精神的特徴は3,11以降も何も変わらない。                                         「変わっている」と言われることに怯え、「皆さんがそうしています」で思考停止。「波風を立てない」ことを美徳とする風潮。読む、書くは教えるが、 話す、聴くを教えない学校教育。すべてが民主主義の成熟に立ちはだかる思考ばかりだ。加えて、閉塞感が漂い、国民はしっかり萎縮してしまったのか。「関心を装う無関心層」「沈黙する善良な市民」が激増していると映るのだ。                                              私はCM「男は黙ってサッポロビール」の時代に青春時代を過ごした。「丸くなること」を好しとする年代になった。しかし、丸いものは坂を転げ落ちるのが早い。角を磨き立憲民主主義国の一員としてその責務を果たしたいと思っている。                                   

  3. 多賀恭一 より:

    デモって婚活に効果的なんだよね。
    理由1 思想の近い相手を見つけられる。
    理由2 共通の敵がいるので、恋が盛り上がる。
    普通の婚活パーティに行っても、
    みんな飾っているだけの不倫パーティみたいなものだし、
    付き合い始めても、相手の条件しか見ていないから、
    すぐに別れることになるもんだ。
    結婚したかったら、デモで相手を探すのが1番なんだよ。

  4. 岩田泰明 より:

    多賀さんの意見には残念ながら不同意ですね。
    デモなんかに「出合い」なんかを期待する神経がまず信じられませんね。
    あそこは主義主張や凝り固まった性格の者どもばかりで、とても「出合い」だの、「恋」だのいったこととは無縁の場ですよ。第一、主義主張や思想で恋愛が成立するなんて気持ち悪いし、とてもニュートラルな感性の持ち主がいるとは思えませんね。
    あと、デモに参加すると警察などから徹底的にマークされて、生活空間が狭まりますからこんなものがいいなんて到底思えません。

  5. tabasco より:

    久しぶりでいい話を聞かせてもらいました! フランスなんか高校生もしっかり考えを主張してばんばんデモに行きますものね。日本の若者もああならいいのに、と思っていました。職業柄、小中学校に足を運ぶことが多いのですが、島さんのコメントのとおり、日本の学校教育は民主主義の萎縮に手を貸しているとしか思えません。先生たちも親たちも近視眼でだらしないのです。 しかし、ちゃんとした若者もいるんですね。亀二郎さんが涙ぐむ気持ちすごくわかります。

  6. Yoshihiko Kaneko より:

    3月22日の仁藤夢乃さんとの対談も良かったですよ

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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